企業が事業を行う上で、「パーパス(目的)」が注目されています。
一方、企業の「MVV」との違いについて混乱している方も多いのではないでしょうか。
パーパスは企業の存在理由や社会貢献のための目的を示し、MVVとはMission(使命)、Vision(ビジョン)、Values(価値観)の頭文字をとったものです。
社員や顧客にパーパスやMVVを共有することで、企業に対するイメージや評価を上げることができます。
しかし、パーパスやMVVを明確に示すことは容易ではありません。また、企業の実際の行動と一致させることも重要です。 本記事では、パーパスが注目されている理由とパーパスとMVVの違いについて解説します。
パーパスが注目されている5つの理由
ここでは、パーパスが注目されている5つの理由を解説します。
理由1:パーパス・ドリブンのブランドに対する消費者ニーズの高まり
今日の消費者は企業の製品やサービスに関して、
- 持続可能性(製品やサービスがサステイナブルかどうか)
- 社会的責任
- 事業の倫理性
をますます重視するようになっています。
こうした消費者は、自分たちの価値観に合った企業を支持する傾向が強く、パーパス・ドリブンな企業はこうした消費者にとって強い魅力を持っています。
理由2:パーパス・エコノミーの台頭
パーパスエコノミーとは、企業が単に利益追求だけでなく、社会や環境の問題に取り組むことで、長期的な価値を生み出す経済システムのことを指します。
つまり、企業が持続可能な経済成長を目指す一方で、社会的責任や環境保全などの問題に積極的に取り組むことで、社会的・環境的な価値を生み出し、企業価値を向上させることを目的としています。
パーパス・エコノミーは、従来の経済システムである「シェアホルダーエコノミー(※)」から転換することで、企業の社会的・環境的な責任を果たすことができるとされています。
※ 企業が利益と株価の上昇を通じて株主価値を最大化することを第一の目標とする経済モデル
理由3:競争が激しい市場での差別化の必要性
多くのブランドや企業が消費者の注目を集めるために競い合っている場合、差別化することは従来の方法だと困難です。
パーパス・ドリブンな企業は、独自のストーリーを持ち、その価値と目的を強調することで、競合他社と差別化することができます。
理由4:インパクト投資を呼び込むため
財務的リターンとともに、社会的または環境的にポジティブなインパクトを生み出すことを目指す「インパクト投資」は、パーパス・ドリブンな企業への投資方法として人気を博しています。
理由5:イノベーションの促進
パーパス・ドリブンな企業は、特定の問題の解決や満たされていないニーズへの対応に重点を置いていることが多いです。
これは、企業と社会の双方に価値をもたらす革新的な製品、サービス、ビジネスモデルを生み出す可能性が高いことを意味します。
パーパスとMVV(Mission、Vision、Values)の定義と違い
パーパスとMVV(Mission、Vision、Values)との定義と具体例を下表にまとめました。
コンセプト | 定義 | 具体例 |
Purpose | 企業が存在する根本的な理由 | TOMS Shoesのパーパスは、「靴を売るだけでなく、ビジネスを通じて生活を改善する」こと |
Misssion | 企業の中核的な活動、目標、業務範囲を定義する文言 | Googleのミッションは、「世界中の情報を整理し、普遍的にアクセス可能で有用なものにする」こと |
Vision | 企業が将来的に何を実現したいかを示すもの | Microsoftのビジョンは、「地球上のすべての人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする」こと |
Values | 企業の行動と意思決定の指針となる信念と原則 | Zapposの価値観は、サービスを通じて「WOW」を提供すること、変化を受け入れること、コミュニケーションでポジティブな関係を構築すること |
ここからは、ミッション、ビジョンおよびバリューを解説した上で、パーパスとMVVとの違いを解説します。
「ミッション」とは企業の中核となる活動や目標、事業範囲を定義した文言
ミッションには
- その企業が何を行っているのか?
- 誰にサービスを提供しているのか?
- 競合他社と何が違うのか?
についての情報が含まれています。
ミッションは、市場における他社との差別化を明確にするため、企業ブランディングにとってとても大切です。
また、優れたミッションは従業員のエンゲージメントを高める上で非常に重要です。
日本企業のミッションの例を挙げると、
- トヨタ自動車:「クルマづくりは、人づくり」
- 本田技研工業:「世界中の人々に喜びを提供する」
- パナソニック:「より良い暮らし、より良い世界」
などが代表的です。
これらの例を見てわかるように、日本企業のミッションは顧客や社会に対する責任・使命を重視しています。
「ビジョン」とは企業が将来どのような姿になりたいのかを示すもの
ビジョンは、企業が将来どのような姿になりたいのかを示すものであり、企業の成長戦略や方向性を表現しています。
企業ブランディングにおけるビジョンの重要性は主に3つあります。
- 企業のアイデンティティの確立
- 従業員のモチベーションの底上げ
- ブランド価値・競争力の向上
ビジョンは、企業のアイデンティティを示すものであり、従業員やステークホルダーが共感しやすい内容である必要があります。
優れたビジョンは、従業員のモチベーションや企業文化の形成にも大きく関わり、ビジョンに共感する従業員は、企業にロイヤリティを持ち、モチベーションが高い傾向があります。
ビジョンは、顧客や社会に対する企業の使命感や価値観を示すものでもあります。ビジョンに共感する顧客や社会からの支持を得ることで、企業のブランド価値の向上に繋がります。
企業の競争力を高める上でもビジョンは重要です。ビジョンには、企業が目指す将来の姿が示されており、それを達成するためにどのような取り組みを行っていくのかが含まれています。
このような取り組みは、企業にとって重要な課題や成長のための方向性を示しており、競争力を高める上での指針となるでしょう。
「バリュー」は企業が望む行動指針として機能する
企業のバリューは、その企業が望む行動や方針を示す「行動指針」として機能することがあります。企業のバリューが明確であれば、社員や顧客は、そのバリューに沿った行動や方針をとることができます。
例えば、企業が「環境保護」を重視している場合、そのバリューに基づいた取り組みを行うことで、社会からの評価を得ることができます。また、社員が企業のバリューに共感し、そのバリューに沿った行動を取ることで、企業のビジョンやミッションを達成することができます。
企業のバリューは、企業が望む行動や方針を示す「行動指針」として機能するだけでなく、企業のイメージや評価を左右する要因です。そのため、企業のバリューを明確に示し、社員や顧客と共有することが、企業ブランディングの成功につながると考えられます。
パーパスとMVVとの違い
ここでは、パーパスとMVVの違いを3つの視点で解説します。
1.スコープ
「パーパス」は企業の根本的な存在理由を示す広い概念であり、MVVは企業全体の戦略や文化を示すフレームワークです。
2.具体性
具体的な要素を含むMVVに比べ、パーパスは一般的で抽象的であることが多いです。
3.時間軸
パーパスは企業全体の方向性や意思決定を導く長期的な概念であるのに対し、MVVはより短期から中期的で、与えられた時間枠の中で特定の目標を達成することに焦点を当てています
まとめ
中小企業がパーパスやMVVに取り組むための最初のアクションは、経営者が自らの考えを整理し、従業員に共有することです。まずは、企業のミッションやビジョンを明確にし、それに基づくバリューを定めます。その上で、従業員が共感できるようなパーパスを示し、社員や顧客と共有します。
また、パーパスやMVVは、企業の行動指針に反映させることが重要です。具体的には、従業員の教育や研修を行い、パーパスやMVVを共有することで、企業の方向性を明確にすることができます。
中小企業は、社員数が少ないため、社員一人ひとりがパーパスやMVVを理解しやすく、取り組みやすいというメリットがあります。企業の方向性を明確にすることで、社員や顧客との共感を生み、企業のブランディングにつなげましょう。
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執筆者:Harmonic Society株式会社 代表取締役兼CEO 師田賢人、
監修:中小企業診断士 居戸 和由貴
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居戸 和由貴
【中小企業診断士】
生命保険会社、人材会社、戦略コンサルタント会社での経験を経て、2021年に中小企業診断士として独立。強みであるマーケティングとテクノロジーを軸に、中小企業の売上拡大を目的として活動