生成AIのポテンシャルを最大限引き出すプロンプト・エンジニアリング!中小企業向けの活用事例と実践ポイント

生成AIは、近年ビジネス分野で広がりつつあり、中小企業の業務効率化や意思決定に影響を与えはじめています。本記事では、生成AIを最大限活用するためのプロンプト設計とその実践的な活用事例について解説します。

目次

生成AIは、テキスト、画像、音声など、多様なコンテンツを生成する「人工知能」の一種です。野村総合研究所では「さまざまなコンテンツを生成できるAI」と定義しています。

生成AIは与えられた入力データ(プロンプト)に基づき、文書の自動生成や画像作成、プログラムの自動記述などを行うことができます。この技術は、データベースに蓄積された膨大な情報からパターンやルールを学習し、指定された目的に応じたアウトプットを作成する能力を持っています。

しかし、生成AIがどれだけ優れたツールであっても、完璧な結果を一度に生み出すわけではありません。

生成AIの限界

生成AIが単独で達成できる品質はせいぜい70%程度だと考えており、人間の手で補完されるべき部分は残ります。すなわち、人間と生成AIの補完関係があります。

図:生成AIのアウトプット品質と人間による補完

たとえば、文書を作成する場合、生成AIは文法的には正しい文章を生成できますが、以下のような質の面では完全とはいえません。

・内容にオリジナル性があるか
・文脈にマッチしているか
・読者にとってわかりやすい内容か
・具体性があるか
・正しい内容か、事実か 等

一方で、生成AIは70%のポテンシャルをもっていますが、その性能を十分に発揮しなければ、効果的に活用できません。そこで、生成AIを最大限に活用するためには「プロンプト設計」が重要です。

プロンプトとは、生成AIに対して何をどう出力するかを指定する「指示」や「条件」のことであり、これを正確に設計することで、AIのアウトプットの精度を向上させることができます。この点については、私が『企業実務』2023年11月号に寄稿した「チャットGPTを使いこなす『プロンプト・エンジニアリング』とは」でも触れており、プロンプト設計の基本が効率的なAI活用の鍵であることを強調しています。

プロンプト設計の基本構造

精度の高いアウトプットを得るためには、プロンプトを構造的に設計することが重要です。プロンプト設計では、「指示」「条件」「インプット情報」の3つの要素が鍵となります。これらを組み合わせてAIに明確な指示を与え、結果(アウトプット)を生成します。また、生成された結果をもとに追加質問や再質問を繰り返し、期待する結果に近づけていくサイクルを回すことが重要です。

図:生成AIにおけるプロンプト・エンジニアリング体系

「指示」の内容

指示とは、生成AIにどのような役割を与え、どの作業を依頼したいかを具体的に示すものです。以下のパターンをご参考ください。

パターンサンプル
情報収集/リサーチ・中小企業診断士の資格取得方法について教えて
・製造業の現状と課題を教えて
文章の作成、校正、添削・事業計画書をつくるために、中小企業の経営者に、  どんな質問をするとよい?
・以下の文章を添削して  [添削対象の文章を記載]
数式、 プログラミング の作成、修正・エクセルで以下のエラーが表示されたけどどうすればよい?  [エラー内容を文章で記載]
・エクセルで、以下のような関数をつくって  [要件を文章で記載。]
・エクセルのマクロで以下が動かないから、バグを探して  [ソースコードを記載]
言語翻訳・以下を英語にして  [日本語の文章を記載]
・以下を日本語にして  [英語の文章を記載]
企画、アイデア出し・ものづくり補助金に関する記事のタイトル案を考えて
・新製品のコンセプトメッセージを考えて

「条件」の内容

条件とは、生成AIが出力する結果の形式や範囲を制限する要素です。これにより、目的や意図に沿った結果を得やすくなります。以下のパターンをご参考ください。

パターンサンプル
役割あなたは経験豊富な中小企業診断士です。
目的・背景・見込み客を増やしたい
・新しいプロモーション施策を始めたい
・ターゲット顧客は中小企業の管理部門の管理職
要件・50文字以内で
・15個考えて
・理由と併せて教えて
アウトプット例・箇条書きで
・表形式で
・ビジネス用に
・(フォーマットを指定して)

「インプット情報」の内容

インプット情報は、生成AIが回答を作成するために必要な背景データや参考情報のことです。適切なインプット情報を提供することで、精度の高いアウトプットが得られます。

たとえば、
・議事録の殴り書きメモを文章で記載
・会社の概要、変遷、理念、強みなどを文章で記載
・自分がつくったメール文面を記載 等

プロンプト設計における「空間を絞る」イメージ

生成AIに高精度な回答を求める際は、「空間を絞る」ことが重要です。

図:生成AIのポテンシャルを最大限引き上げるコツのイメージ

生成AIに曖昧で広範な質問をすると、抽象的で範囲の広い回答しか得られません。具体的で狭い範囲の指示を複数与えることで、より的確な回答を引き出すことができます。つまり、重なり合う小さな円の中に求める答えを誘導するイメージです。

たとえば、単に「売上を上げる方法を教えてください」と質問すると、一般的な回答しか返ってきません。しかし、「中小企業の印刷業がデジタル化に対応しつつ、売上を向上させるための具体的な施策を提案してください」と質問を絞ることで、より適切な提案を得る可能性が高まります。

プロンプト設計における4つのポイント

東京商工会議所の「中小企業のための『生成AI』活用入門ガイド」では、プロンプト設計を効果的に行うための4つのポイントが示されています。
・指示(及び条件)は明確か
・AIの役割を明示する
・ハッシュタグを活用
・逆質問をさせる

指示(及び条件)は明確か

求めていない回答が返ってくる原因の多くは、指示が曖昧であることが原因です。前提情報(お手本)、出力形式、文字数などを指定することで、生成AIが理解しやすくなり、より適切なアウトプットが得られます。
例:この文書をビジネス向けに校正してください。50文字以内で、箇条書きで出力してください

AIの役割を明示する

生成AIがどのように振る舞うべきかを明確にすることで、アウトプットの精度が上がります。
例:あなたはプロの校正者です

ハッシュタグを活用

各項目にハッシュタグ(#)を使うことで、生成AIが文脈を把握しやすくなります。これにより、複数の条件や要件を明確に区分けし、AIに正確に指示を与えることが可能です。
例:#条件、#指示、#インプット文、#出力形式

逆質問をさせる

生成AIが不足している情報を補うために、逆質問させると、より精度の高い回答が得られます。これにより、AIが必要な情報を追加で要求し、回答を精緻化することができます。
例:追加で必要な情報があれば質問してください

生成AIを用いた効率化の具体的な事例を2つ紹介します。
1つ目は、中小企業向けの提案のヒントに生成AIを活用した事例です。2つ目は、会議の録画データを基にした文字起こしと議事録作成で、生成AIを活用した事例です。

事例①: 中小企業の業績改善と製造業への提案

次のようなシーンがあったとします。

[シーン]
・ある印刷業の中小企業から、「業績が下がっているので、次の打ち手を考えたい」という相談がありました。
・しかし、この業界に詳しい訳ではなく、どういう施策の方向性があるのかもわからない
・そこで、生成AIを活用し、施策の案を出したい。

[実際のプロンプト]
そこで、以下のようなプロンプトを作成しました。

#指示
中小企業診断士として、{#会社概要}{#自社の理念}を理解したうえで、 {#当社の悩み}に対する助言をしてください。  

#会社概要
東京都文京区に所在する従業員 50 名の印刷業。オフセット印刷、大判印刷など各種印刷に対応。パンフレット、フライヤー、カタログ、年報、商品パッケージなどの企画制作・印刷・発送まで行うワンストップサービスも提供。  

#自社の理念
①お客様の要望を可能な限り形にすることを最優先にします
②最高品質の印刷物を提供することに妥協しません
③地球にやさしい印刷プロセスを推進します  

#当社の悩み
近年の社会的なデジタル化・ペーパーレス化に伴って当社でも受注量が年々減少しており、新事業・新領域への進出など、生き残る策を1年以内に打ちたい。  

このプロンプトでは、以下のような工夫をしています。

・#(ハッシュタグ)を用いて「指示」「会社概要」「自社の理念」「当社の悩み」を区切る
・中小企業診断士という役割を与える
・指示の中に、「会社概要」「自社の理念」「当社の悩み」を数珠つなぎ式に指定
この業績改善プロセスでは、生成AIに対して次のようなプロンプト設計を行いました。

[アウトプット]
以下のようなアウトプットが出力されました。

※GPT-4oを使用


このように、この会社の理念や現状をふまえて、施策のアイデア出しをしてくれました。

この結果だけでは抽象度が高いものの、回答の方向性や具体性、時間軸(短期か長期か等)を付与し、生成AIと対話を繰り返すことで、段階的に解像度が上がります。そして、提案に向けた施策イメージをもつうえでは、大いに役立ちました。

事例②: 会議録の文字起こしと議事録作成の効率化

次のようなシーンがあったとします。
[シーン]
・議事録を取って、社内に共有する。
・議事メモまでは、参加者の発言をベースに殴り書きで取りました。
・発言を載せるだけではなく、サマリや決定事項、次のアクションを、盛り込まないといけない。
・そこで、ChatGPTを活用して、会議の論点を整理したい。

なお、会議参加者が殴り書きで作成した議事メモは以下のとおりです。

ミーティング日時:20XX年XX月XX日
ミーティング場所:会議室A
出席者:田中、佐藤、鈴木、山田、中村
田中:「それでは、今日のアジェンダについて進めていきましょう。まず、先週のプロジェクトの進捗状況について、佐藤さんから報告をお願いします。」
佐藤:「はい。先週は、新しいデザインの提案を行い、クライアントからのフィードバックを受け取りました。大体の部分は好評だったのですが、いくつか修正点も出てきました。」
鈴木:「具体的にどのような修正点が出てきたのですか?」
佐藤:「主に、ホームページのヘッダー部分のデザインと、フッターのリンクの配置についての指摘が多かったです。」
山田:「それはちょっと予想外ですね。私たちの提案したデザインは、ユーザビリティを考慮していたので、クライアントの意見を詳しく聞きたいです。」
中村:「それに、新しいデザインの実装には時間がかかると思うので、スケジュールの調整も必要かもしれませんね。」
田中:「それは大変ですね。でも、クライアントの要望をしっかりと取り入れることが最も重要ですので、再度、打ち合わせを設定して、詳しい要望を聞き出しましょう。」
鈴木:「それにしても、このプロジェクトは予想以上に難航していますね。」
山田:「そうですね。でも、これも一つの経験として、次回に活かせればと思います。」
中村:「それは確かに。失敗は成功のもと、と言いますし、この経験を元に、次回はもっとスムーズに進められるようにしましょう。」
田中:「それでは、次のアジェンダに移りましょう。」
 ・  
 ・
 ・
田中:「それでは、今日の会議はこれで終了といたします。皆さん、お疲れ様でした。」  

※議事メモの内容は架空の情報です

[実際のプロンプト]
そこで、以下のようなプロンプトを作成しました。

#指示
{#条件}をふまえ、{#議事メモ}を、{#アウトプット例}に沿ってまとめてください。  

#条件
・役割:あなたは、議事録をまとめるプロフェッショナルとして行動してください。
・ミーティング日時:20XX年XX月XX日
・ミーティング場所:会議室A
・出席者:田中、佐藤、鈴木、山田、中村  
#議事メモ
[テキストを記載]  
#アウトプット例
・サマリ:  
 -  
 -
・決定事項:  
 -
  –
・次のアクション:  
 -  
 -  

このプロンプトでは、以下のような工夫をしています。

・#(ハッシュタグ)を用いて「指示」「条件」「議事メモ」「アウトプット例」を区切る
・議事録作成のプロであるという役割を与える
・指示の中に、「条件」「議事メモ」「アウトプット例」を数珠つなぎ式に指定
・「#議事メモ」に、殴り書きした議事メモを貼り付け
・アウトプット例として、「サマリ」「決定事項」「次のアクション」を指定

[アウトプット]

以下のようなアウトプットが出力されました。

※GPT-4oを使用
このように、議事メモを基に、指定したアウトプット例に沿って整理を行うことで、議事録を効率よく作成できます。この結果を確認し、論点の抜け漏れや内容の誤り、固有名詞の相違などがあれば、正確な情報や追加の内容を生成AIに提供し、生成AIと対話を重ねることで、段階的に精度を高めることが可能です。

近年、オンライン会議が増加しています。Teams、Zoom、Google Meetなどのオンライン会議システムと連携して自動文字起こしを行うツール(例:Notta)も普及しています。これらのツールを使用し、文字起こしデータをプロンプトに沿ってChatGPTに投入することで、効率的に議事録を生成できます。

図:生成AIを活用した議事録作成の流れ

ただし、音声データが正確に文字起こしされていない場合、誤字脱字や変換ミスが生じやすくなります。この際、自社のホームページリンクや、製品・サービスの提案資料のPDFファイルなどの正確な情報をインプットすることで、生成AIによる誤字脱字や変換ミスが修正されることが多いです。最後に人間がチェックすることで、議事録が完成します。

図:生成AIを活用した議事録精度の向上のポイント

このように、生成AIと文字起こしツールを活用することで、議事録作成にかかる時間が大幅に削減されました。手作業でのメモ取りや議事録作成の負担が軽減され、他の業務に集中できる時間を確保できるようになります。

生成AIの活用は、ビジネスの効率化やイノベーションにとって非常に有効なツールです。しかし、その真価を引き出すためには、適切なプロンプト設計が重要です。明確な指示や条件をAIに与えることで、より精度の高いアウトプットを得ることができます。また、生成AIを人間の補完ツールとして活用することで、ビジネスの現場における課題解決の一助となります。

この記事をふまえ、生成AIの活用やプロンプト設計についてお困りのことがありましたら、お気軽にお問い合わせください。

執筆者:中小企業診断士 居戸 和由貴

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この記事を書いた人

【中小企業診断士】
生命保険会社、人材会社、戦略コンサルタント会社での経験を経て、2021年に中小企業診断士として独立。強みであるマーケティングとテクノロジーを軸に、中小企業の売上拡大を目的として活動

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