中小企業がパーパス経営をする意義

パーパス経営という言葉が近年注目を集めています。その背景には労働者・消費者の価値観の変容やSDGsやESGの考え方が一般に浸透していることがあります。中小企業においてもパーパス経営を実践することは、中長期的な競争力を発揮する上で不可欠です。

パーパス経営とは?

パーパス経営とは、「企業の独自性」と「社会的意義」を考慮して、どのように社会に貢献していくのかという「パーパス(存在意義)」を掲げる経営のことです。(下図)。

パーパスは、日本語では「目的」という意味ですが、よく企業が掲げているビジョンやミッション、バリューとの違いは何でしょうか。下図をご覧ください。

上図では、パーパスを経営理念の最上位に置いています。パーパスとは、「なぜ社会に存在するか」を端的に示すものになります。一方、ビジョンは「どこを目指すか」、ミッションは「何をすべきか」、バリューは「どう実現するか」を言語化したものです。

パーパスはゼロから作る必要はありません。これまでの事業を通じて得た知見やビジョンやミッションなどを発展させるなど、自社の活動の中にパーパスを見つけることが大切です。

パーパスでは、当たり障りのないきれいな言葉をコピーライターに書いてもらうだけでは、その効力を十分に発揮することはできません。社会課題や地球課題に対して、自社がどのような「スタンス(立場)」をとるかが最も重要です。

パーパス経営が求められる背景

パーパス経営が求められる背景として、最も重要なのはミレニアル世代とZ世代が、労働生産人口のうち多くを占める時代が到来しつつあるからです。インターネットが当たり前の時代に生まれた彼らの価値観はこれまでの世代とは大きく異なり、企業がパーパスでどのようなスタンスをとるのか冷静な目で評価を下します。

ミレニアル世代とは、1981年〜1995年に生まれた世代のことをいいます。2022年時点の日本だと、20代後半〜30代後半を指すことが一般的なようです。彼らの特徴としては、以下のようにいわれています。

  • 情報リテラシーが高い
  • 物質的な豊かさよりも精神的な豊かさを重視する
  • 社会貢献性の高い仕事に興味がある

Z世代とは、1990年代後半〜2010年代生まれの世代のことをいいます。2022年時点の日本だと、10代前半〜20代半ばの世代になるでしょうか。彼らの特徴としては、以下のような意見が多いです。

  • マスメディア離れが顕著
  • 社会問題に対する関心が高い
  • ブランドにさほどこだわらない

ミレニアル世代とZ世代の共通点としては、デジタルネイティブであることと社会問題に関心が高いことです。そのため企業がポーズとして掲げるハリボテのようなビジョンは中身がないことを見抜いてしまうので共感しません。

彼らは、SDGs(持続可能な開発目標)やESG(環境・社会・ガバナンス)の考え方になじみ深く、購買意思決定に商品の価格や品質だけではなくサステイナビリティ(持続可能性)も重視します。平たくいえば、社会に良い影響があるものを選択する傾向があるということです。

これからミレニアル世代やZ世代が、社会の中心になっていく時代では、パーパスを持たない企業は生き残るのが難しくなるかもしれません。企業には社会的意義があることを行うことが求められるのです。

パーパス経営のメリット

パーパス経営のメリットとしては、以下の3つがあります。

  • 事業の訴求力拡大に伴う収益増
  • 従業員のロイヤリティ向上
  • 人材から選ばれる企業になる

企業のパーパスがうまく生活者に刺されば、商品の品質や価格で差をつけられなくても競争優位性を確立することができます。これによって、収益拡大が期待できるでしょう。

社会貢献性を重んじるミレニアル世代とZ世代が労働力人口の多くを占めるようになれば、社会にいいことをしている企業で働きたいと思うし、働くモチベーションも向上するのは当然のことです。

企業の独自性と社会的意義がうまくマッチしたパーパスを作って実践できれば、事業・人材の側面で他社から大きなアドバンテージをとることができます。

パーパス経営のデメリット

パーパス経営のデメリットは、以下の3つです。

  • 作成に一定のコスト・ノウハウが必要
  • 短期的な成果を期待しにくい
  • ときには批判を受けることもある

パーパスはカタチだけきれいな言葉で飾っても、すぐに生活者に見抜かれてしまい逆効果になることもあります。また、パーパスの策定は非常に重要な経営戦略なため、多くの関係者とディスカッションを重ねる必要があります。そのため、作成に一定のコストとノウハウが必要となります。

パーパスは短期的な効果は期待しにくいです。基本的には中期経営計画としてパーパスを組み込んで、長い目でパーパスの効果が出るのを待たなければなりません。また、パーパスでは、社会問題に対して中立的な立場をとるのではなくYesかNoをはっきり示すスタンスが求められるため、時には批判の目にさらされることもあります。

【事例】ソーシャルプリンティングカンパニー(株式会社大川印刷)

ここまでパーパス経営について論じてきました。デメリットについても言及しましたが、大がかりな投資が必要ないパーパス経営は中小企業こそ試してもらいたいと考えています。以下、実際にパーパス経営でめざましい成果を挙げた大川印刷の事例を紹介します。

神奈川県横浜市の株式会社大川印刷(従業員38 名、資本金 2,000 万円)は、医薬品添付文書、食品包装紙、パンフレットやカレンダーの印刷を行う老舗企業です。現代表の大川哲朗氏は、業界として紙やインキをムダにしていることに強い問題意識を感じ、2004年から「ソーシャルプリンティングカンパニー」をパーパスに掲げて、環境や人体に有害なVOC(揮発性有機化合物)を含まないノンVOCインキの導入をはじめ、工場全体の電力を太陽光発電システムの設置などにより100%再生エネルギーにするなど活動を始めます。J-クレジット制度を利用した「ゼロカーボンプリント」では、森林育成事業や温室ガス吸収事業により創出されたクレジットで、自社の印刷事業で排出するCO2の全量を相殺することにも成功。

こうした取り組みが世の中に注目されて、新規開拓営業はほとんど行わずに直近3年間で175件の新規顧客を獲得、売上高も5,000万円増加、売上高経常利益率を前年度対比 2%増加を実現しました。「SDGs の中には中小企業の方が高い優位性を発揮できる項目が数多くある。まずは SDGs の取組に一歩踏み出すこと、その先に差別化や付加価値向上のヒントがある」と同社の大川社長は語っています。

参考:新たな価値を生み出す中小企業

まとめ:パーパスは手段ではなく目的である

事例からもわかるように、パーパスには事業をドライブする大きなポテンシャルがあります。しかしパーパスを手段にしてもうけようとする発想では、なかなかうまくいきません。パーパスを言葉の通り「目的」にしてはじめて、パーパスが競合他社に対する競争力となるのです。パーパス経営に興味を持った経営者の方は、市販の書籍なども数冊出ておりますので、ぜひ参考にしてみてはいかがでしょうか。