マーケティングという片仮名のビジネス用語を聞くと、中小企業の経営者である自分とはあまり関係がない、大企業や外資系企業、スタートアップが取り組むべき華々しい戦略であると思い込んではいませんか。
確かに、昔ながらの営業スタイルと受発注に慣れ親しんでいる中、それらの業務を大きく方向転換することになるマーケティングは、自社とは無関係のように思えるかもしれません。
しかしながら、マーケティングの本質とは「売れる仕組みづくり」です。これは中小企業が今まさに必要としていることではないでしょうか。
本記事では、マーケティングの理論ではなく中小企業の成功事例を紹介します。マーケティングを一番早く実践するには、上手くいっている中小企業を模倣することが一番の近道だからです。ぜひ最後までご覧ください。
中小企業とコア・コンピタンス
本章では、中小企業とコア・コンピタンスの関係について言及します。コア・コンピタンスとは「競争力の源泉」という意味です。つまり、競合他社と比べて特に秀でている強みです。たとえば、アルファベット社(Google)だったら企業文化。IDEA社ならば、デザイン思考。マッキンゼー社だったら優秀な人材、などがコア・コンピタンスであるといえます。
どんなに小さな中小企業であっても特定の分野では他社に負けないところがひとつやふたつは見つかるはずです。コア・コンピタンスの見つけ方はさまざまですが、3C分析やSTP分析などのフレームワークで論点を整理して、ブレインストーミングしてみると思わぬ気づきがあるでしょう。
中小企業マーケティングの肝は、コア・コンピタンスを起点に「売れる仕組みづくり」をすることです。理想としては、売り込みで販売するプッシュ型ではなくお問い合わせから案件化するプル型の体制をつくりあげたいところです。そのためには、コア・コンピタンスを噛み砕いてきちんと言語化して発信できるようにならなくてはなりません。
次章では、コア・コンピタンスを生かしたマーケティングの成功事例を3つご紹介します。規模感や課題感は、みなさんの会社とそれほど大きな差異はないはずです。
中小企業マーケティングの成功事例3選
ここでは、中小企業マーケティングの成功事例を3つ紹介します。3社の事例に共通するマーケティングの本質とは何かを考えながら、読み進めてみてください。
事例1:日笠工業株式会社
日笠工業株式会社(兵庫県/1948年設立)は、地域の大手製鉄所の建造物や設備の洗浄、清掃、メンテナンスを中核とする企業です。地域密着型で堅実に経営をしてきた同社ですが、鉄鋼業界のグローバル化と主要顧客の事業内容の大幅な変更などの事業環境の変化を受けて、新市場開拓の打ち手を探していました。
新規に顧客を捕まえる第一歩として、自社の技術を可視化してわかりやすく伝えるための取り組みを行いました。そして、工場・設備クリーニングを総合的に清掃するワンストップソリューションを清掃のエキスパートにより提供することが自社の競争優位性であるとして、サービス名を一新したのち、潜在顧客へと発信しました。そのイメージづくりが顧客の同社に対する信頼感の醸成へとつながり、段階的な販路開拓を実現。経営の安定化に成功しました。
同社のようにマーケティングにおいては、自社のコア・コンピタンスを特定して、正しいポジショニングをして、一貫性のある発信を行うことが何より大切です。
事例2:タカハ機工株式会社
タカハ機工株式会社(福岡県/1979年設立)は九州で唯一のDC(直流)ソレノイドの製造・販売メーカーです。ソレノイドとは、同線に電流を流すことで磁界を発生させ、磁性体の可動鉄心を吸引させる電気部品です。同社は、大手企業の下請けビジネスからの脱却をテーマに掲げて、経営改革に取り組みました。
同社の取り組みで特筆すべきは、原価管理という守りのプロセスにおける競争優位性を見出し、その強みをさらにブラッシュアップしたことです。また、苦しい時期にも新製品の開発・研究を続けて、特許を獲得。ソレノイドを生産するメーカーとして、正しいポジションを築き、「ソレノイドの使い方を競うコンテスト(ソレコン)」の主催やSNSでの発信に力を入れ、一般ユーザーとの双方向チャネル開拓にも努めました。それらの活動が功を奏し、大手アミューズメントメーカーからの大口受注の引き合いへとつながり、社員の自社製品と製造プロセスにおける自信となっています。
同社も日笠工業株式会社と似ている点は、自社のコア・コンピタンスに目を向けて、それを尖らせる方向へと経営の舵取りをしたことです。これによって、ニッチな市場で存在感を放つことができました。
事例3:株式会社トクピ製作所
株式会社トクピ製作所(大阪府/2007年設立)は、超高圧ポンプをコアに周辺ユニットも開発できる高い技術力を持つ研究開発型企業です。同社の技術力は高い評価を受けており、主力製品である「超高圧クーラント装置」の市場開拓に力をいれるため、トップセールス依存からの脱却と営業力強化に取り組みました。
同社の技術は、製造現場からは賞賛を受けていましたが、ビジネス革新に重きをおく、潜在顧客の経営層へとその強みが訴求できていない点が課題でした。そこで、プロダクトアウト(製品重視)ではなくマーケットイン(顧客重視)のマーケティング企画を策定して、顧客メリットの最大化に努めます。その結果、自社の価値を言語化して、汎用的に営業活動の改善へと還元することに成功しました。
製造業ではプロダクトアウトな視点に陥りがちですが、マーケットインで考えることによって、自社のコア・コンピタンスを客観的に認識することは、マーケティングにおいて非常に重要です。
まとめ:中小企業マーケティングに必要なこと
ここまでの成功事例を読んで、マーケティング活動が中小企業に無縁であるという考え方は払拭できたでしょうか。マーケティングとは小手先の施策ではなく、戦略レベルでのコア・コンピタンスの有効活用です。したがって、まずは自社の強みをきちんと明確にすることが肝要。それによってはじめて、どのような施策を打つべきかを考えることができるでしょう。
文:Harmonic Society株式会社CEO・師田賢人/監修者:中小企業診断士事務所ハッシュタグ代表・居戸和由貴
居戸 和由貴
【中小企業診断士】
生命保険会社、人材会社、戦略コンサルタント会社での経験を経て、2021年に中小企業診断士として独立。強みであるマーケティングとテクノロジーを軸に、中小企業の売上拡大を目的として活動