働き方改革で考える中小企業の打ち手

「働き方改革」は、大手企業だけではなく中小企業の経営戦略にとっても非常に重要なトピックです。厚生労働省は働き方改革を、“働く方々が個々の事情に応じた多様で柔軟な働き方を自分で「選択」できるようにするための改革”と定義しています。

政府が働き方改革に真剣に取り組む理由は、少子化・高齢化による生産年齢人口の減少および企業での労働生産性の低さが、日本の経済成長を大きく妨げると考えているからです。

国土交通白書より作成

一方、企業が働き方改革に取り組む理由は次のふたつです。

・生産性の向上
・人材の確保

この記事では、中小企業の経営をよくするために、綺麗事ではない働き方改革について考えます。

目次

働き方改革の目的は生産性の向上と人材確保

平成29年度 働き方改革実行計画より作成

働き方改革を実現するために、厚生労働省は9つの基本方針(上図)を公開しています。ただし、全てのテーマに取り組むことは、簡単ではありません。

働き方改革では、国家と企業それぞれの利点が必ずしも一致するわけではありません。そのため、ここでは特に中小企業が注目すべき点を3つ選びました。

・非正規雇用の処遇改善
・長時間労働はNG!
・柔軟な働き方

これらは、「生産性の向上」および「人材の確保」と密接に関係があります。

非正規雇用の処遇改善

働き方改革では、同一労働・同一賃金の徹底を目標に掲げ、非正規雇用の処遇改善を企業に求めます。実際のところ、正規の職員の賃金を非正規の職員の賃金まで引き下げることは難しいでしょう。非正規の職員の賃金は、正規の職員の賃金の約60%といわれているからです。以下の図は、正規の職員数と非正規の職員数の割合を示しています。

労働力調査(詳細集計)2021年(令和3年)より作成

資金力に乏しい中小企業が、パートやアルバイト、派遣社員などの非正規の職員の賃金を正規の職員の賃金にまで近づけることは、非常に厳しい。その人件費の増加を補うには、社員一人ひとりの生産性を向上させることが、一番現実的です。

OECD諸国の労働生産性の国際比較より作成

上図を見るとわかりますが、OECD諸国(37ヶ国)の中でも日本の労働生産性は20位付近で推移しています。働き方改革を契機に、企業の労働生産性を向上させることなくして、これからの社会に生き残る道はありません。

長時間労働はNG!

働き方改革の中で中小企業の経営に最も影響を与えるものは、労働時間の上限規制でしょう。

改正 労働基準法(第36条)の施行により、2020年4月1日から中小企業での残業時間は、

・月45時間以内
・年360時間以内

と定められています。

一方、臨時的な特別の事情がある場合には、年720時間以内の残業も認めています。
ただし、以下3つの要件をクリアすることが条件です。

・複数月平均80時間以内
・月100時間未満
・月45時間超:年間6ヶ月分まで

このように残業が規制されると、企業は限られた時間で結果を出す必要があるため、労働生産性の向上へと結びつきます。また、長時間労働をしないことが認知されれば、人材の確保にもプラスとなるでしょう。

柔軟な働き方

令和2年版厚生労働白書より作成

上図のように、共働き世帯数は急激に増えてきています。中小企業は、女性労働者の雇用の受け皿になることで、高齢化による社内の人材不足に対応できます。また、リモートワークをはじめとする柔軟な働き方を実践することで、優秀な若者を雇用しやすくなるでしょう。

働き方改革で取り組むべき3つの戦略

働き方改革を中小企業の視点で見たときに、ふたつのことが大切でしたね。

・生産性の向上
・人材の確保

これらを達成するには、中小企業は何をすればいいのでしょうか? 具体的に考えていきます。

ITの活用による生産性向上

中小企業が労働生産性を上げるにはITの活用が近道です。例えば、定型的な業務をRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)で自動化する。また、一連のマーケティングをMA(マーケティング・オートメーション)で効率化・最適化する。さまざまな方法で、ITは生産性向上の戦力となるはずです。以下の記事では、中小企業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)戦略について具体的に説明してあります。

中小企業によるDX(デジタル・トランスフォーメーション)の論点

多様な働き方の実現

多様な働き方の実現では、短期的なリターンを求めずに自社が競争力を中長期的に持ち続けるための基盤作りだと考えてください。冒頭で述べた、労働力人口の減少に伴いこれから企業では常に人材が不足するようになるでしょう。そんなときに活躍するのが、共働き世帯の女性や就労していない若者、定年退職した高齢者です。彼らを活用するには、今までの画一的な労働環境を用意するだけではなく、育児・介護休暇の充実、フレックスタイムやリモートワーク、障害者や高齢者への就労支援など、新しい取り組みをする必要があります。

業務効率化(BPO・BPR)

働き方改革は、中小企業にとって大きな負担となります。しかし経営においては、常にピンチをチャンスに変える姿勢が求められます。経営のスリム化のために、BPO(ビジネスプロセス・アウトソーシング)やBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)を試してみるのもいいと考えます。コスト体質を改善することで、厳しい環境でも生き残れる組織を作ることができます。

働き方改革は政府による企業の選別

本政府は、働き方改革に本気です。労働力人口の減少と労働生産性の低さは、日本経済にとって国際競争力の上では致命的な問題だからです。彼らは人々の働き方を変えることで、この弱みを根本的に解決しようとしています。中小企業の従業員数は全体の7割を占めるので、働き方改革の明暗を分かつのは、中小企業の経営者の手腕です。国の意向はこの通りですので、この記事で述べたITによる生産性向上、多様な働き方の実現、業務効率化の3つに対しては必ず打ち手を準備するようにしてください。

執筆:師田賢人

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この記事を書いた人

【Harmonic Society株式会社 CEO】
外資系コンサル、Webエンジニア、Webライター、フォトグラファーを経て、2023年にHarmonic Society株式会社を設立。企業の経営の悩みを言葉で解決している。一橋大学商学部卒。

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