健康経営の重要性

「健康経営」とは、企業が従業員の健康管理を経営戦略の一部として、従業員がより健康的で働きやすい環境を作るための一連の活動を指します。健康経営を行うことで、「従業員の欠勤率低下」や「労働生産性の向上」を見込むことができ、さらには高齢化が進む我が国の重要課題である「健康寿命の延伸」にも繋がるため、国の重要施策の一つとして、経済産業省が主導し推進が行われています。

目次

健康経営で期待される効果

健康経営に取り組み、社員が働きやすい環境を作ることで、従業員の生産性や外部からの評価向上など、様々な効果が期待できます。健康経営に関する具体的な投資リターンについては、米ジョンソンエンドジョンソンが、2011年に同社グループ250社・約11万4000万人に対し行った健康促進プログラムの成果を報告しており、「1ドルの投資が3ドルの効果に繋がる」と、3倍もの費用対効果があるとしています。
社員の健康管理は「費用」と見る経営者も多いですが、その効果を考えると、「投資」として十分価値のある取組みであると言えます。

プレゼンティーズムとアブセンティーズムの改善

健康状態が原因で、出勤している従業員の生産性に支障が出ている状態を「プレゼンティーズム」、病欠や就労できない状態にあることを「アブセンティーズム」と呼びます。「健康状態の仕事への影響」、という意味ではアブセンティーズムを思い浮かべる方が多いかと思いますが、下図にある通り、従業員の健康関連コストの中で大部分を占めているのがプレゼンティーズムです。企業は、従業員が万全のコンディションで高いパフォーマンスを発揮できるよう、労働環境や就業ルール等を整備することが、組織全体の生産性を高めるうえで重要となります。

(参考文献:厚生労働省データヘルス・健康経営を推進するためのコラボヘルスガイドラインP20

企業イメージの向上

健康経営に取り組んでいる企業は、「従業員を大切にする会社」というイメージがつき、取引先等外部企業からの評価が高まるほか、人材確保の面でも大きなアピールポイントとなります。採用時に健康経営の取り組みについてアピールできるだけでなく、働きやすい職場づくりが離職率の低下にも繋がります。

金利優遇や助成金

各金融機関や自治体も、企業の健康経営を重要視してきており、健康経営を行っている企業に対して融資の金利優遇や助成金制度を整備しています。以下一例ですが、健康経営に関する基準を一定満たすことで、下記のような恩恵を享受することができます。
※以下はあくまで一例であるほか、本記事執筆時点での情報のため、自社と同じ地域の金融機関や自治体、国の支援情報を各事業者でご確認ください。

《金利優遇》
・四国銀行
5,000万円以内の運転資金・設備資金に関する融資に対し、最大▲0.5%までの金利優遇。
・東邦銀行
3億円以内の運転資金・設備資金に関する融資に対し、最大▲0.2%までの金利優遇。

《助成金》
・ストレスチェック助成金
従業員数50人未満の事業場のストレスチェックにおいて、ストレスチェック後の医師による面接指導などを実施した場合、費用の助成を受けることができる制度。ストレスチェックの実施費用として、1従業員あたり500円(税込)の助成がされるほか、医師の活動費に関する助成金は、1事業場あたり1回の活動で21,500円(税込)が助成される(上限3回)。

https://www.johas.go.jp/tabid/1952/Default.aspx

・働き方改革推進支援助成金(労働時間短縮・年休促進支援コース)
時間外労働の上限設定に取り組む中小企業・小規模事業者に対し、実施内容の結果に応じて費用の一部を助成する制度。所定労働時間短縮や有給取得促進のための各種施策に取り組む事業主に対して助成が行われる。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000120692.html

健康経営表彰制度

健康経営の重要性がますます注目される中、経済産業省は2017年より「健康経営優良法人認定制度」を開始しました。本制度は健康経営実践企業の中でも、特に優れた企業を大規模法人部門/中小規模法人業部門に分けて顕彰する制度で、2020年は大規模法人部門1,476社、中小規模法人部門4,815社が受賞しました。認証を取得することで、自社の健康経営取り組みレベルをわかりやすく対外的にアピールできるほか、金融機関・自治体の優遇制度を受けやすくなる等のメリットがあります。

大規模法人部門

大規模法人か否かは常時使用する従業員人数によって判断され、各業種で以下の基準で判断されます。

  • 製造業その他:301 人以上
  • 卸売業:101人以上
  • 小売業:51人以上
  • サービス業:101人以上

上記に当てはまる企業は大規模法人と判断され、下記要件を満たす企業が、健康経営優良法人としての認定を受けることができます。その中でも、特に優れた取り組みを行っている上位500位の企業は「ホワイト500」と呼ばれ、健康経営をリードする存在として認定されます。

中小規模法人部門

中小規模法人部門は、大規模法人部門に比べて必須項目や必要要件数が変わり、以下の基準で審査されます。認定を受けた中で特に優れた取り組みを行う上位500社は「ブライト500」となり、中小規模事業者の健康経営模範企業となります。

健康経営アドバイザー制度

2016年より、東京商工会議所が主導で、健康経営の必要性を伝え、実施のきっかけを作る人材である「健康経営アドバイザー」の育成プログラムがスタートしました。2021年には延べ3万人以上が同プログラムを受講し、アドバイザーとしての資格を取得しています。中でも、より深く実践的な知識を取得した人材は「健康経営エキスパートアドバイザー」として、企業に対し健康経営面での課題抽出・改善提案・計画策定の実践支援を行っております。
本制度の主催は東京商工会議所ですが、各地方商工会議所・商工会・自治体なども同アドバイザー派遣制度を推進しております。無料でアドバイザーを派遣してもらえることが多く、健康経営実施における重要ポイントを専門家から学ぶことが出来るので、興味のある企業は一度地元の商工会議所・商工会・自治体のホームページ等を確認することをお勧めします。

健康経営関連のサービス

最近では、企業の健康経営をサポートするサービスも増えてきております。株式会社iCAREは、企業の産業保健・健康経営に関する数値を可視化する”Carely”というシステムを開発しており、多くの企業が導入し、従業員の健康管理に活かしています。

また、株式会社OKANでは、健康的な総菜をオフィスで利用できる置き型社食”オフィスおかん”というサービスを展開し、食事面から企業の健康経営をサポートしています。

このように、健康経営の重要性の高まりから、それをサポートする企業やサービスも増えてきています。外部サービスをうまく活用することとで、従業員の健康管理をより一層向上していくことができます。

まとめ

従業員の健康管理は、企業にとって重要な「投資対象」の一つです。長時間労働の慢性化や身体的・精神的ストレス負荷の高い職場などは、従業員の欠勤や労働生産性の低下、延いては離職率の増加にも繋がるため、長期的に大きな損失に繋がる可能性が高いです。
健康経営を進めるための制度やサービスが増えてきている今、積極的に外部資源を活用しながら、健康的で働きやすい職場づくりを進めていきましょう。

(執筆)奥山大地/中小企業診断士・健康経営エキスパートアドバイザー

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この記事を書いた人

【中小企業診断士】
生命保険会社、人材会社、戦略コンサルタント会社での経験を経て、2021年に中小企業診断士として独立。強みであるマーケティングとテクノロジーを軸に、中小企業の売上拡大を目的として活動

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