トヨタ「TNGA」の効果は決算書上に現れない部分が最大

新型コロナウイルスのパンデミックにより売上高が急激に減って、トヨタの「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」による経営基盤の強さが目立っている。売上げダウンに強い体質、つまり変動に強いからだ。それを、決算書から利益率の高さ、固定費の削減幅の大きさ、速さなどで説明が出来るかもしれない。

しかし、「ではなぜ利益率が高いのか?」と考えて「販売力の強さ」を取り上げても、答えにならないであろう。借金(有利子負債)が実質ないことに着目しても、利益率の高さは「金利負担が少ない」としか説明できないであろう。「なぜ金利負担が少ないのか?」と問われると、「利益率が長期に渡って高かったから」となる。論理が回ってしまう。

トヨタの強さの源泉は、「ビジネスモデルに対して大幅に総資金量が少ないから」とだけ答えておいて、話を展開してみよう。

目次

【1:資金効率の高さは「総資金量」の削減で得られる】

どの様な業種・業態であっても、資本主義である以上、「資金効率」がビジネスモデルの基本的課題である。資本主義の場合、投下された資金に対して配当を求めることとなる。すると、株式市場での視野からは「配当の良い投資が、資金効率が良い」となる。しかし、「経営」の視野からは「いかにして自社のビジネスモデルの資金効率を上げるか」とならねばならない。

「総資金量」は、現在までの企業会計の言葉ではない。税務会計、企業会計で捉えられていない数字だ。しかしこれを捉えていないと、かつて日産自動車がトヨタに敗れたストーリーとなる。

例えば、自動車ディーラーのショールームでは、平日の昼間、ほとんど客の人影はない。使われていないのだ。「看板だから」と考えているようだが、「ムダ」だ。「販売」になっていない。納品待ちの完成車があれば、それも総資金に含まれているし、ムダなのだ。「なぜ、輸送されてきたと同時に納車して換金できないのか?」と疑問に感じなければならない。現在処理出来ていないとしても、問題点として常に捉えていることが必要なのだ。

❶『販売とは、人々のライフスタイルに提案すること』。
❷『市場は人々の心の中にある』。
これが全業種に共通の認識である。

【2:資金効率から見る業種の分けかた】

[1]製造業

製造業は、『[1]製造+[2]物流+[3]サービス』の3つのビジネスモデルを合わせて持っている。
例えば、トヨタ自動車は製造から販売、サービスを全て持つビジネスモデルだ。そのため、受注から販売までリードタイムも長く資金量は膨大となる。そこで、「資金量の削減」が「資金効率」を決めると言っても良い内容となる。

『製造業の「ムダな資金」がどこにあるのか?』と考えた時、材料仕入れから販売までのリードタイムもムダである。設備産業であり設備投資に膨大な資金を必要とするし、設備投資の中に敷地(土地)が含まれるが、通常、何らかの形で土地が必要になり総資金量を押し上げる。それは金利を産み出すこととなり、ムダなのだ。

そのため「ファブレス経営」が注目されるが、企業単体のビジネスモデルとしては、方法論として大いにあり得る。だが、産業全体としてはどこかで必要となる資金であり、海外進出などの手法も現れてくる。

こうして資金面から見ていくのだが、「総資金量削減」は、製造業ではリードタイムが長く在庫量の問題があり、それを削減するのは「生産技術次第」と言うのが正解である。それは、トヨタ自動車のビジネスモデルの変遷をみると良く分かる。現在の最強の製造業ビジネスモデルがTNGAだ。その中で、サプライヤーシステムに2つの方向性が示されている。❶トヨタの日本独特の「下請け制度」と❷日産も目指してきた「グローバル発注」の「独立サプライヤー」である。

中小企業の中には1次下請け、2次下請け、3次下請けなどの形態が多くあるが、これらのメーカーを中心とした生産工場の取り組みも「インダストリー4.0(第4次産業革命)」を目指している。中小企業の独立系メーカーでも、その構造は独立したサプライヤーと下請け制度を持つ系列に別れる。

[2]物流業

物流業は、『[2]物流業+[3]サービス業』を併せ持つビジネスモデルだ。商品は何らかの形でユーザーの手元に届いて、お金になるビジネスモデルだ。現在は、ネットの登場で物流革命が起こりつつある。それは同時に製造業をも巻き込む「インダストリー4.0(第4次産業革命)」と言われる状態になっている。

インダストリー4.0は、ネットの技術革新により起こりつつある『生産革命であり、物流革命でもあり、サービス革命』でもある。その中心は、テスラのやり方を見れば金融知識であり、ユーザーの動向や資金効率に密接に関係する「オーダーメイド商品を、量産品の値段で、短期間にいつでも」が目標となっている。「ジャスト・イン・タイム」の究極の形だ。

ソフトウエアや情報システムの問題ととらえられがちなのだが、どの商品も最終的には「物」にならなければならない。多くのソフト開発が必要であるが、「衣・食・住」の基本は「物」にならねば価値を生まないということだ。

物流では、完成品在庫が大きな資金効率向上の障害になっている。ここでも「在庫」の削減、「リードタイムの短縮」が大きなテーマである。ここで製造業の「生産方式TNGA」と同じように、具体的な「販売方法」が問題となる。❶「受注生産」と❷「提案型販売」が大きく資金効率を変えることになるのだ。販売過程の「宣伝手法、ディスプレイ手法、接客手法」などと連動する。

[3]サービス業

製造も物流もなく、サービス提供が商品となる。ディズニーランド、ゴルフ場、自動車整備など設備産業である場合も多い。弁護士事務所、会計事務所、コンサル、銀行、行政などは、サービス業と捉えるべきだ。サービス業では元々資金量が少ない場合、リードタイムが短いことが多いため、コストダウンが難しい。守りの経営が難しいため、「攻めの経営」しか方向性はない。

【3:[1]製造業の資金効率向上をトヨタのTNGAに学ぶ】

トヨタは、60年ほど前から「トヨタかんばん方式」(アメリカ名:リーン生産方式)と名付けた「生産方式」を開発してきた。これは「ジャスト・イン・タイム」を目指していた。「希望される商品品質を、希望される時に、希望される値段で」提供することだ。それは、「フォード方式のロット生産」から「多種少量生産」に切り替えることで実現していった。現在、「トヨタかんばん方式」は「TNGA(トヨタ・ニュー・グローバル・アーキテクチャー)」と称するシステムまで拡大しながら開発が進んできている。

[1-1]トヨタのサプライチェーンの在り方、つまり「下請け制度」
現在のTNGAは、「混流生産」「順序生産」「スウィング生産」などの実現に向かって世界レベルでシステム化に挑んでいる。これには生産拠点ごとのサプライチェーン構築が含まれており、世界の生産拠点の「品質レベルの均一化」が課題で、どこでも同じ品質の商品が生産できることが前提となる。

トヨタは、資本関係まである下請け企業を海外の生産拠点まで連れて進出してきた歴史がある。一方で、海外メーカーは独立サプライヤーから部品を購入するスタイルを基本としてきた。経営方針として、下請けと独立サプライヤーではどのような違いと理解すればよいのか?

つまりサプライヤーの立場では、まず❶「品質管理」であり、ラインに対する❷「ジャスト・イン・タイム」の実現が原則だ。これは、どのようなサプライヤーでも変わらない。「多種少量生産」「混流生産」のコツは、「工程結合」にある。工程結合する場合、専用機を出来るだけ使わないことが「カイゼン」を連続していくために必要だ。また、こうした「カイゼン」を持続していくためには「下請け」が有効になる。独立サプライヤーも現在では、メーカーの製品企画段階、設計などにも参画して「造り方」を最適化しながらサプライチェーン構築を行ってゆくが、その時、下請けの立場のサプライヤーを多く抱えていたほうが、メーカーとしては製造実務では有利である。その後の「カイゼン」についても持続していける強みがある。

下請けのサプライヤーの立場からも、営業コストをかけなくても良いなどメリットが大きい。つまり、中小企業でも直間比率がメーカーである場合と下請けの場合では全く違ってくる。しかし、新型の部品開発などで開発費がかかるので、販売数が制限される下請けでは開発費の償却が遅れてしまい、次の開発で後れをとる危険もある。そこで、資本関係のある下請けに対しても、開発した新規部品を広くどのメーカーにも販売する方針にトヨタは変わってきている。

下請けでも独立でも、サプライヤーの方向性としては徹底的に「ジャスト・イン・タイム」を目指して、「多種少量生産」「混流生産」を進めることだ。

グローバルメーカーとしては、世界の生産拠点ごとの品質を一定にできた場合、車種にこだわらず、売れる地区に生産量の移動(スイング生産)が容易に出来ることとなり、生産拠点同士の生産量の「平準化」が可能となる。これで無駄な在庫の削減と固定費の削減が可能となり、「小ロット(1台)による生産」で仕掛在庫を総合計した在庫量の削減では目を見張る効果が発揮される。資金効率ではこれまでの1,000倍とも思われる。だが、決算書から見えるのは、利益率の高さと投下資本がそれほどでもないことだけだ。

決算書から「総資金量が適切であるのか?」を見抜ける会計士は少ない。現実に利益率が高いことからその原因究明をすれば見えてくる。しかし、ビジネスモデルを知らないと「何故、利益率が高いのか?」は見えてこない。
※)生産現場の具体策については別の機会に。

執筆者:kenzoogata

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この記事を書いた人

【中小企業診断士】
生命保険会社、人材会社、戦略コンサルタント会社での経験を経て、2021年に中小企業診断士として独立。強みであるマーケティングとテクノロジーを軸に、中小企業の売上拡大を目的として活動

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