インダストリー4.0を支える技術とビジネスチャンス|クラウドコンピューティング編

本記事では、まずクラウドコンピューティングとは何かを確認した後、一般企業にとっての利点に触れます。そして、インダストリー4.0の実現におけるクラウドコンピューティングの高度の必要性に注目します。

参考記事:

「インダストリー4.0|製造業の未来を再定義する」

「インダストリー4.0を支える技術とビジネスチャンス|IoT技術編」

また、インダストリー4.0の実現過程、実現後に、クラウドコンピューティングと関連したビジネスチャンスの可能性についても探っていきます。実のところ、クラウドコンピューティング分野の成長は、製造業等、他の産業のバックアップがなければ達成できないのです。そこで、この機会にインダストリー4.0やクラウドコンピューティングについて把握を深め、関連事業を検討する上で、本記事が参考となれば幸いです。

目次

クラウドコンピューティングとは、その利点とは何か

クラウドコンピューティング(「クラウド」とも表現します。)とは、インターネットを通じて、必要な時に必要なだけの「コンピューティングリソース」(コンピュータが情報処理を行うために必要な機能や資源)を提供・利用する技術を指しています。別の視点で表現するなら、個々の向上、企業、個人等が、自身で物理的なサーバや記憶装置(領域)を保有・維持しなくても、必要なリソースをインターネットを通じて「借りる」ことができる技術と言えます。

一般ビジネスにおけるクラウドコンピューティングの利点

インダストリー4.0が対象としている製造業以外でも、クラウドコンピューティングは、業務の多岐にわたり多くの情報システムを活用している一般の企業活動にもメリットがあります。次のように多くの利点が提供され、ビジネスの効率化、柔軟性の向上、リスクの低減等を実現するための強力なツールとなります。

◾️コスト削減
◾️スケーラビリティ
◾️バックアップとリカバリ
◾️アクセスしやすさ
◾️最新技術の利用
◾️セキュリティ向上
◾️効率的なコラボレーション
◾️自動アップデート

コスト削減

物理的なサーバーやデータセンターの設置・運用に必要なコストを削減できるため、初期投資を低く抑えることができます。また、使用したリソースのみを支払う従量制モデルにより、運用に必要なコストも最適化することが可能となります。

スケーラビリティ

事業の成長や変動するニーズに応じて、利用するクラウドのコンピューティングリソースを早急に増減できる迅速かつ柔軟な拡張性の利便性を享受できます。
スケーラビリティとは、システムの利用や負荷の増大、または用途の拡大に応じ、どれ ほど柔軟に性能や機能を向上し拡張できるか、その拡張性および拡張可能性を指します。

バックアップとリカバリ

クラウド上での自動バックアップやデータリカバリサービスを活用できるため、データの喪失リスクの軽減が可能となります。

アクセスしやすさ

クラウドコンピューティングにおいては、インターネット環境があれば、どこからでもデータやアプリケーションにアクセスできます。

最新技術の利用

クラウドサービスの提供事業者によって、最新の技術や機能が継続的にリリースされており、ユーザ企業はこれを利用してビジネスの進化に役立てることができます。

セキュリティ向上

多くのクラウドサービスプロバイダは、高度なセキュリティ対策や専門のセキュリティチームを持っており、ユーザ企業が自前で提供するよりも高いセキュリティを享受できる場合が多いため、セキュリティ上のリスクの低減に役立ちます。

効率的なコラボレーション

全社的にクラウドサービスを活用することによって、ファイル共有、同時編集等の機能により、チームのコミュニケーションや協力が効率化し、業務の生産性の向上に役立つ可能性があります。

自動アップデート

クラウドコンピューティングを利用すると、自社によるITリソースの管理やアップデートの手間を省けるので、経営資源の効率的な分配に役立ちます。メンテナンスやアップデートはクラウドサービス事業者に任せられるため、社員は本来業務に専念できるようになります。

クラウドコンピューティング利用イメージ

インダストリー4.0には、産業のデジタル化と自動化を進めることによって、生産性の向上、効率化、カスタマイズ能力の強化を目指す構想があります。この構想の中心には、さまざまなデバイスやシステムが互いに連携し、自動的に情報をやり取りしながら稼働する「スマートファクトリー」の実現があります。この構想を具現化するために、クラウドコンピューティングは必要不可欠な技術として位置付けられています。

というのも、前回記事「インダストリー4.0を支える技術とビジネスチャンス|IoT技術編」で示した通り、あらゆる機器やセンサーがIoT技術によって情報を収集するデバイスとして機能すると、膨大な量の情報が集まるためです。これをクラウドコンピューティングではなくオンプレミス(自社内のデータセンターやサーバー)で管理する場合には、収集した情報が十分に活用できない結果が想定されます。以下に、クラウドコンピューティングの必要性と、オンプレミスの場合の問題点を示します。

◾️データの集中管理
◾️スケーラビリティ
◾️コスト削減
◾️最新技術へのアクセス
◾️グローバルな連携
◾️セキュリティとバックアップ
◾️オンプレミス方式か、クラウドコンピューティングか

データの集中管理

工場や機械からの膨大なデータを、クラウド上で一元的に収集・管理することができます。これにより、データ分析や機械学習の活用が容易になります。
しかし、クラウドコンピューティングを利用せず、クラウドが提供する中央集権的なデータストレージがないならば、データの集約、整理、アクセスが困難になります。これにより、リアルタイムのデータ分析や迅速な意思決定が難しくなる可能性もあります。

スケーラビリティ

クラウドサービスのスケーラビリティは、製造現場のニーズが変わったとき、クラウドは柔軟にリソースを拡張・縮小できるため、ビジネスの変動に迅速に対応することに役立ちます。
クラウドサービスを利用していなかった場合は、急なデータ増加や処理負荷の変動に対応するための迅速なスケーリング(システムやアプリケーションの性能や能力を向上させるためにリソースを追加すること)が難しくなるリスクを常に抱えることになります。

コスト削減

クラウドコンピューティングを導入することにより、物理的なインフラを自社で持つ必要がなくなり、初期投資や運用コストを削減できます。
他方で、クラウドを利用しない場合、企業は自社のデータセンターを持つ必要が生じますが、これには大きな初期投資が必要で、特に中小企業にとっては負担となるでしょう。

最新技術へのアクセス

クラウドサービスプロバイダは最新の技術やアップデートを提供しているため、ユーザ企業は常に最新の技術環境でビジネスを進めることができます。
しかし、クラウドを利用していない場合、最新の技術やアップデートの恩恵は受けられず、技術のアップデートや導入に時間とコストがかかる可能性があります。

グローバルな連携

クラウド上にデータやアプリケーションを持っていれば、世界中の拠点やパートナー企業との情報共有や連携が容易になります。
しかしながら、クラウドがないと、異なる場所にある工場や拠点間での情報共有や連携が難しくなり、またはコストが増加する可能性があります。

セキュリティとバックアップ

クラウドサービスプロバイダは高度なセキュリティや定期的なバックアップを提供している場合が多く、データの安全性確保が期待できます。
クラウドを利用しないとなると、これらのサービスを自前で行うことになり、その負担は自社にかかってくることとなります。

オンプレミス方式か、クラウドコンピューティングか

以上のことを総合して考えると、IoT技術で収集される膨大なデータの処理に対して、オンプレミス方式はその柔軟性、コスト効率、運用の手間などの面で制約や課題が多く、適切な処理方式ではありません。一方、クラウドコンピューティングはこれらの課題を軽減する機能や特長を持っており、大量のIoTデータの処理に適していることは明らかです。

なお、主要なクラウドサービスはIaaS(イァース:Infrastructure-as-a-Service)、PaaS(パース:Platform-as-aService)およびSaaS(サァース:Software-as-a-Service)に分類され、それぞれサービスの利用形態による区分です。

下表は、オンプレミス方式と、3つのクラウドサービスの内容を比較したものです。

IaaSは、システムを構築するための基盤のみをクラウド上で提供するサービスで、利用者側からすると、思い通りの注文住宅を建てるための地盤調査、地盤改良や基礎工事までのサービスが提供される方式です。

PaaSは、アプリケーションを開発し導入する一歩手前までのプラットフォーム(アプリケーションを作るための基盤)の準備まで完成させるサービスです。PaaSを利用すると、アプリケーションを作るための複雑な環境設定や準備を自分で行う必要がなく、すぐに開発を開始できるのが大きなメリットです。注文住宅ほどの自由度はありませんが、例えるならば、デザインや間取りは決まっている建売住宅に自分好みの内装を施す準備ができた状態と同様です。

SaaSの特徴は、クラウドを利用するユーザー企業の目的に合わせ、多様性豊かなサービスが提供されている点にあります。例えば、会計、文書作成、ビデオ通話、チャット機能など、業務の効率化に資する一切の機能が提供されているのです。これらの機能を備えたアプリケーションが、契約すると即座に導入でき、しかもソフトウェアのバージョンアップといった管理や更新も任せられる建て付けとなっています。また、一般的に利用されている各種ソフトウェアも追加サービスの対象となっています。住宅に例えるならば、高品質な家具や家電が揃ったマンションというところでしょう。

オンプレミス方式とクラウドサービス3種類との比較
(クラウドを利用しないオンプレミス方式は全てを自社で賄わなければならない。
クラウドサービスを利用する際も、ソフトやOSの入替など先を見越した選択が必要。

改めて確認するに、あまたのIoT機器その他のデバイスで収集されるデータはたいへん膨大な量に上り、そのデータに埋もれている有効なものを業務効率化に活かすためにはデータを「処理・分析」する必要があります。そうであるのに、費用が高くつく上に融通が利かず、バージョン管理やメンテナンスは全て自社で対応することとなるオンプレミス方式を採用するならば、それは疑いもなく合理性を欠く選択に違いありません。

今後、インダストリー4.0の実現に向けて、クラウドコンピューティングのサービスを提供する産業が大きく拡大するに伴い、中小企業にあっても、以下に挙げるようなビジネスチャンスが生まれると予測されます。

低い参入コスト

クラウドサービスの利用については、物理的なインフラストラクチャを設置する大きな投資が必要がないため、新しいビジネスやプロジェクトを低い初期投資で始められる可能性が高まります。

高度な技術の活用

クラウド上では、人工知能、ビッグデータ解析、機械学習などの最新の技術が利用可能となり、これらの技術は中小企業でもビジネスに取り入れやすくなります。

新しいビジネスモデルの創出

クラウド上でのサービスやアプリケーションを提供することによって、サブスクリプション方式や、顧客が利用した分のコンピューティングリソースに対して使用量に応じて料金の請求と支払いを行う従量制モデルなどの新しいビジネスモデルを構築できるでしょう。

専門的なサービスの提供

クラウドの導入や運用に関するコンサルティング業務や、導入する企業等に合わせて変更や追加を加えるカスタマイゼーション、そしてセキュリティ対策などの専門的なサービスを提供する、クラウドコンピューティング導入や旧式のシステムからの移行ビジネスが盛んとなることでしょう。

新しいパートナーシップ

大手クラウドプロバイダとのパートナーシップや、他の中小企業との協業を通じて、新しい顧客層へのアクセスやビジネスの拡大が期待できます。

セキュリティソリューションの提供

クラウド環境専用のセキュリティ対策やソリューションを開発・提供することができれば新しく大きなビジネスチャンスが生まれる可能性があります。

このように、クラウドコンピューティングの普及と拡大は、中小企業にとっても多くの新しいビジネスチャンスや業績向上の機会をもたらすと考えられ、この大きなトレンドに沿って事業展開することによって、競争力を強化し、持続的な成長の実現が期待されるのです。

本記事の中心として紹介したクラウドコンピューティングは、一見したところ情報通信業の分野の市場が拡大していく観測が際立ち、関連して発生する可能性のある中小企業のビジネスチャンスについても、製造業ではなく情報通信業が担う機会が目立ちました。

しかしながら、現実に情報通信事業者がクラウドコンピューティングを導入、運用する際には、「電子部品・デバイス・電子回路製造業」や「情報通信機械器具製造業」なしには実現できないことからすると、インダストリー4.0を支える技術の1つ、クラウドコンピューティングの分野も、その大幅な成長に伴い製造業の躍進をも相乗効果の1つとして期待されるのです。

【事例】「IoT技術を活用したESG評価クラウドサービスの事業化」

ESG評価への円滑な対応に着目

令和4年6月9日、事業再構築補助金第5回公募の採択者が発表され、東京都港区の株式会社MIも含まれていました。同社の事業計画には、IoT通信技術を用いて事業所の消費電力や環境情報をリアルタイムに取得し、ESG活動レポートを自動生成するクラウドシステムの開発と事業化が予定されていました。

ESGは「環境」「社会」「企業統治」の3要素を示し、企業の持続可能な経営を評価する基準です。2000年代初頭より、企業の社会的責任(CSR)が重視され、企業活動は利益だけでなく、従業員や地域社会、環境への配慮が求められるようになりました。これに伴い、持続可能な経営が強調され、企業の社会的価値や信頼性が高まりました。この流れを受け、将来の持続性やリスク管理を重視したESG投資が増え、世界中でESG評価が普及しています。

ESG評価は、企業の環境、社会、企業統治に関する実績と取り組みを評価するプロセスです。この評価は評価機関や専門家が担当し、企業からの情報を基に行われます。主な情報源には、持続可能性報告書や年次報告書などの公開情報が用いられますが、詳しいデータを求めて直接企業へ問い合わせることもあります。

次に、収集した情報はESGの各要因に応じた指標や基準で分析されます。特に環境面では、CO2の排出量、水の使用状況、廃棄物の管理方法などが評価のポイントとなります。分析結果を基に評価機関はスコアリングを行い、その結果は報告書としてまとめられます。この報告書には、評価の結果やその理由、そして企業への改善提案が記載されています。公開された報告書を活用して評価機関と企業との間でフィードバックや対話が行われ、評価の方法や企業の取り組みが更新されることもあります。

株式会社MIは、企業のESG評価への円滑な対応を支援するため、温度センサー、光センサー、ジャイロセンサーなど、ESG評価に関連しやすい多種のIoTデバイスとセンサーを設置しています。収集されたデータはクラウドで集積・分析され、アラートメール配信、報告書PDFの自動生成、ログデータの検索・参照、データの書き出しなど、多機能なアプリケーションをSaaS形式で提供しています。また、同社は「MI IoTプラットフォーム」を通じて、さまざまな物をIoT機器化し、サーバへ集約して、収集した膨大なデータの幅広い活用を可能にしています。これにより、ESG評価対策に必要なアプリケーションも実装可能です。

特筆すべきは、事業再構築補助金の交付決定を契機に、積極的なビジネス展開を進めている点です。令和4年7月には、複数キャリア同時通信冗長化対応LTEルータ「AirREAL-DUAL2」を販売開始。同年11月には、ISDN/PHS回線からIP網への移行を可能にする通信システムの特許を取得し、12月には環境温度-20℃〜60℃に耐える業務用の超小型LTE/WiFiルータの販売を開始しました。コロナ禍により売上高が減少していたと推測される逆境の中、補助金を活用し、MI社はビジョンに向けて大きく前進している最中にあると思われます。

取り組みたい内容を具体化し、活用できる補助金を調べる

確かに、急速に進化を続けるクラウドサービスをサポートするために、新たで革新的な製品、革新的な生産プロセスを開発するには、一定程度のまとまった資金が必要です。
そこで、「ものづくり補助金」を活用できる可能性を丁寧に調べる必要があるでしょう。

また、「事業再構築補助金」を活用して、インダストリー4.0実現に向けて成長が見込まれる製造業、あるいは情報通信業へと業種転換し、企業としての事業を再構築する施策があり得ます。補助金を活用して大胆な設備投資を実行し、新しい戦略・取り組みを実行する意義は大きいと考えられます。

さらに、既に製造業を営んでいる、または新しく製造業を創業する「小規模事業者」に当たる法人または個人事業主であれば「小規模事業者持続化補助金」を活用できます。インダストリー4.0に寄与するIoT技術を活用した製品の製造や販売に注力する経営方針を立案実行し、例えば機械装置の導入、新商品開発等に要する費用の補助を受け、事業を再び立て直すチャンスにできるでしょう。

複雑化する世の中にあっても、頭や心の中では「取り組みたい」「チャレンジしたい」と志す事柄をお持ちのことでしょう。ではまず、取り組みたい内容をできる限り具体化しましょう。次に、その取り組み・計画に活用可能な補助金を調べ、探しましょう。そして、活用可能な補助金事業に、勇気を持って公募申請しましょう。

当事務所ハッシュタグは、そのような挑戦を全力で応援いたします。

本記事では、インダストリー4.0を支える技術の1つであるクラウドコンピューティングが、インダストリー4.0が主な対象としている製造業以外の企業活動にもサービスとして有用な情報の処理、利用の方法であることも前提に、中小企業にとってどのようなビジネスチャンスが創出される可能性があるのか解説してきましたが、いかがだったでしょうか。

もっとも、補助金の申請に当たっては多くの作業が必要となり、とりわけ事業計画書の作成には一定の経験と工夫、労力が求められます。そのため、本来業務を日々抱えておられる中小企業の経営陣の方々としては、申請手続はたいへん難儀なのが現実です。

そこで、当事務所ハッシュタグでは、次のステージに歩みを進めるために補助金を活用しようとする事業者の皆様の申請手続の支援を承っております。どうぞ、皆様のアイディアやお考えを「お問い合わせ」からお聞かせください。最善の解決策に向けて、御社の業況向上のために尽力させていただきます。

執筆者:池谷 陽平、監修:中小企業診断士 居戸 和由貴

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この記事を書いた人

【中小企業診断士】
生命保険会社、人材会社、戦略コンサルタント会社での経験を経て、2021年に中小企業診断士として独立。強みであるマーケティングとテクノロジーを軸に、中小企業の売上拡大を目的として活動

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