インダストリー4.0を支える技術とビジネスチャンス|IoT技術編

本記事では、インダストリー4.0が中小企業に与える影響をお伝えするために、インダストリー4.0を実現するための主要な技術であるIoT技術の革新に焦点を当てます。IoT技術を活用して新たなビジネスモデルを構築して競争力を高める分野を紹介するとともに、成功事例や展望についても触れます。経営者の皆様が未来に向けたアクションプランを立てるのに役立てば幸いです。

目次

IoT技術とは

前回の記事「インダストリー4.0|製造業の未来を再定義する」では、インダストリー4.0を実現するための主要な技術の1つとしてIoTを挙げました。本記事では、インダストリー4.0の実現過程、また実現後に、IoT技術がどのようなビジネスを作り出すのかに着目します。

IoTは「モノのインターネット」で、様々な製品をインターネットで操作・制御する技術です。インダストリー4.0は製造業の革新に焦点を当てていますが、家庭の活用例から理解しましょう。

家庭で活用されているIoT技術

スマート家電

家電製品にIoT機器を組み込むことで、外出先からアプリを通じて遠隔制御が可能です。例えば冷蔵庫では、食材の在庫確認や賞味期限の管理、食材の注文支援などができます。

スマートスピーカー

スマートスピーカーは音声認識機能付きのAIアシスタントを搭載したスピーカーです。話しかけるだけでの操作が可能なため、子どもや年配者を含む多くの人が利用できます。IoT技術と連携し、天気予報の提供やスマート家電の音声制御、音楽ストリーミングの再生などができます。IoT技術により、単なるスピーカーから多機能なデバイスへと進化した成果の1つです。

スマートウォッチ・ヘルスケアデバイス

これらのデバイスは、健康データのモニタリングやフィットネストラッキングに使われ、心拍数や歩数などのデータを収集します。IoT技術により、スマートフォンとのデータ共有やリアルタイムモニタリング、クラウド保存などが実現し、効果的な健康管理が可能となっています。

セキュリティシステム

IoT技術を利用したセキュリティデバイスは、家のセキュリティを強化します。動きやドア・窓の開閉を検出し、そのようなイベント発生時に警告を送ったり、リアルタイムでの映像閲覧ができます。

これら家庭で活用されているIoTデバイスは、家庭の快適性やセキュリティの向上に貢献しています。

そして、IoT技術は、家庭だけでなく、製造業などの産業にも革命をもたらす重要な技術となっています。

インダストリー4.0とIoT技術の関係

インダストリー4.0は、製造業や産業全体をデジタル化することで自動化するための基本理念です。その変化において、IoT(Intrnet of Things:モノのインターネット)技術は、インダストリー4.0の実現に非常に大きな役割を果たします。

というのも、IoT技術は、物理的なデバイス(機器)やセンサー(検出器)をインターネットに接続し、データの収集、通信、制御を可能とするからです。これらIoT技術を実装したデバイスは、原則として人間が介在することなく自動的にデータを収集し、分析するのです。そして、生産工程で何らかの異常が発生したときには、これを即時に検知し・分析し、迅速な対応を実施することが可能となるのです。

IoT技術には、さまざまな産業やアプリケーションに適用され、物理的な世界とデジタルの世界を結び付ける機能があり、収集した情報を活用する重要な役割を担っています。

IoT技術でつながるモノのイメージ
(IoT技術を活用することによって、物理的な世界に存在するあらゆる製品やサービスが、
インターネットでデジタル接続され、収集したデータを利用し、制御し合っています。

IoT技術がもたらす変化

インダストリー4.0は大企業のみのトピックではなく、中小企業にも関係しています。インダストリー4.0市場は巨大な市場になると予測されており、中小企業へも恩恵があると予想されます。

IoT技術によって生まれる中小企業のビジネスチャンス

製造業で活用されるIoT技術

インダストリー4.0は製造業の復権と躍進を目指すもので、IoT技術はインダストリー4.0の実現を支える必要不可欠で重要な技術の1つです。このことは、IoT技術を活用した革新的な製品や生産プロセスはビジネスチャンスへとつながり、裾野はたいへん広いものとなるでしょう。したがって、中小企業であっても、IoT技術を活用した製品やサービスに積極的に取り組むことは、企業としてとても有益な方針です。IoT技術を活用した中小企業の取組分野を以下に数例挙げます。

スマート製品の開発・生産・販売

中小企業としての1つの戦略として、大企業が参入しないニッチ市場で、中小企業向けの低価格で簡易なシステムの生産販売が挙げられます。また、そのシステムを導入し新しいサービスを顧客に提供する事業も挙げられるでしょう。

いま1つの方向性としては、大企業の外注先として、①ネットワークの端末機器(センサー、ライブカメラ、計測器など)など、ビッグデータを収集する機器の生産販売、②システムに組み込む部品の生産販売、③ビッグデータ解析の周辺業務、すなわち、ビッグデータ解析の一部の受注、解析ソフトウェアの生産販売、ビッグデータ解析に必要なデータベースの生産販売、ビッグデータ解析用クラウド環境提供サービスなどを供給する分野も拡大していくでしょう。

予防保守サービスの提供

製品や設備にIoT検知器を統合し、リアルタイムのデータを収集してメンテナンスの必要性を予測することができます。このような予防保守サービスを提供することによって、顧客が利用している設備のダウンタイム(中断時間)を削減し、製品や設備の信頼性向上が可能となります。

【事例:三浦工業株式会社(愛媛県松山市)】

三浦工業は、1959年5月の設立以来、ボイラの生産販売とメンテナンスを行ってきた。順調に事業拡大し、今や国内のボイラ市場の約40%を占める国内トップ企業となっています。

同社が大きく成長した要因の1つとして、IoT、M2M、インダストリー4.0などという概念、言葉、技術が出現するよりもずっと以前の1989年から「故障予知」サービスを行っていたことが挙げられます。

このサービスでは、まず顧客が使用しているボイラに埋め込んだセンサーから得られるデータを通信会社の回線を介してメンテナンス拠点が収集し、その情報が転送されたオンラインセンターで稼働状態を監視します。そして、異常が感知されたときには、まずは顧客に電話して対処方法を案内し、それでも解決しない場合にはメンテナンス要員が現地に急行する仕組みを確立しています。

今後、インダストリー4.0の実現に伴い、ますますシームレスなサービスのためにIoT技術が必ず役立つことでしょう。

カスタマイズ製造とデータ分析・予測

IoTデバイスやセンサーは、製品や製造プロセスのリアルタイムデータを収集することができ、製品の現在の状態や顧客の要求に関する情報を瞬時に入手可能です。そして、個々の顧客や利用者の要求に対応するためにデータを活用したり、製品やサービスの設定や機能を調整することができます。顧客自身もIoTデバイスを使用して製品を遠隔制御でき、自分の好みに合わせてカスタマイズしやすくなります。

また、IoTデータの分析によって顧客の好みを把握し、それに基づいたカスタマイズ製品を提供することができるようになります。その予測モデルにより、将来的に顧客が必要とするカスマイズを予測できます。さらに、IoTデバイスには自己調整機能を持っており、環境の変化や利用者の要求に応じて自動的に調整します。IoT技術を活用したサーモスタットがその例として挙げられるでしょう。

これらのIoT技術の活用法によって、製品やサービスをカスタマイズするプロセスが強化されます。顧客に合わせた個別化が可能となり、顧客満足度の向上につながります。

スマート農業と農業技術

IoTセンターを農地に配置し、土壌の温湿度、栄養状態などをリアルタイムで観測できます。これにより、必要に応じて適切な管理措置を実施することができます。また、IoTデバイスを活用して、肥料散布、収穫などの農作業を自動化していくことができます。農業従事者としては、最適な収穫タイミングや品質管理を意思決定するためのデータを入手できます。

IoT技術は水やエネルギーの消費の最適化にも役立ちます。農地の持続可能な管理は土壌の品質を維持・向上させ、環境に優しい方法で作物を生産するのに役立ちます。同時にIoTセンサーは農産物の品質を追跡し、品質管理を改善し、高品質な農産物は市場価値を向上させるのです。

セキュリティ

IoT技術はセキュリティを向上させ、脅威からのリスクを低減し、安全なシステム運用を実現します。

まずは物理的な面で、監視カメラやセンサーによって施設の監視をリアルタイムで行い、不正侵入や異常な活動を検出できます。また、IoTデバイスそのものにもセキュリティ機能を組み込み、不正アクセスからの保護を強化します。そして、収集されたデータは暗号化などの措置により安全に転送・保存され、適切なアクセス制御と権限管理が実施されます。

さらに、IoTセンサーのデータを用いてセキュリティイベントを検出したときには、セキュリティモニタリングで分析し、自動的に対策を講じるのです。

IoT技術の成果を活用する中小企業のビジネスモデル

インダストリー4.0の実現に必要となる技術、製品は非常に広い分野にわたり、そして1つ1つは複雑怪奇な製品ではなく、むしろ単純なものです。そのような簡易なIoTを活用した製品であれば、中小企業であっても十分に生産販売が可能であり、企業の売上げが飛躍的に伸びる潜在的な可能性があると言えるでしょう。

インダストリー4.0の実現を目指す国外企業にとっても、IoT技術を活用した日本の電子部品は非常に魅力的でしょう。日本の部品は世界的に品質が認められており、部品の販売規模に如実に現れています。電子部品協会(JEITA)による次表の統計によれば、日本の電子部品出荷額が世界の合計に占める割合が、2023年度5月には約20%、6月には約22.4%、7月には約22.7%、2023年度第1四半期(4月〜7月)では約22.1%に上り、まさに日本の独壇場です。この技術力を基礎とした部品製造の分野は、日本におけるインダストリー4.0の実現に寄与し、その過程で大きく成長すると予測されます。

(出典:電子部品部会(JEITA) https://home.jeita.or.jp/ecb/info/info_stati.html

ここまで述べてきたビジネスチャンスを中小企業が追求するに当たっては、経営資源の制約や競争環境を考慮しつつ、戦略的な提携関係の構築、積極的な技術の採用、顧客ニーズの把握が不可欠となるでしょう。

また、当然のことながら、データセキュリティとプライバシーに対する十分な配慮が必須です。それでもなお、IoT技術の活用は、中小企業も競争力を維持・強化し、新しい市場を開拓できる大きな機会を意味しているのです。

まとめ

本記事では、インダストリー4.0を支える技術の1つであるIoT技術が、とりわけ中小企業にとってどのようなビジネスチャンスを生み出すのかについて解説してきましたが、いかがだったでしょうか。

スマートファクトリーの構築をプロデュースする大企業の視点ではなく、中小企業にとっては、その裾野で必要不可欠となる製品の開発がインダストリー4.0を契機とした成長であり、そのカギとなる技術の1つがIoTなのです。

例えば、このような新たな革新的な製品の開発、そして革新的な生産プロセスには「ものづくり補助金」を活用することができるかもしれません。

他にも、事業者様の取り組まれる内容や現状により、何らかの公的支援が活用可能です。

インダストリー4.0実現の推進により今後の成長が見込まれる製造業へ別の業種から転換し、企業としての事業を再構築しようとする場合には、「事業再構築補助金」を活用することにより、大胆な設備投資を中心として新しい戦略・取組を実行できる可能性があります。

さらに、既に製造業を営んでいる、または新しく製造業を創業する「小規模事業者」に当たる法人または個人事業主は、「小規模事業者持続化補助金」を活用できます。これを活用してインダストリー4.0に寄与するIoT技術を活用した製品に注力する経営方針を立案実行するとすると、例えば機械装置の導入、新商品開発等に要する費用の補助を受ける方法があるでしょう。

補助金の申請に当たっては多くの作業が必要となり、とりわけ事業計画書の作成には一定の経験と工夫が求められることから、本来業務を日々抱えておられる中小企業の経営陣の方々としては、たいへん難儀であるのが現実です。

そこで、当事務所ハッシュタグでは、次の大きな一歩を踏むために補助金を活用しようとする事業者の皆様の申請手続の支援を承っております。ぜひとも、皆様のアイディアやお考えを「お問い合わせ」からお聞かせください。最善の解決策に向けて、御社の業況の向上のために尽力することをお約束いたします。

執筆者:池谷 陽平、監修:中小企業診断士 居戸 和由貴

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この記事を書いた人

【中小企業診断士】
生命保険会社、人材会社、戦略コンサルタント会社での経験を経て、2021年に中小企業診断士として独立。強みであるマーケティングとテクノロジーを軸に、中小企業の売上拡大を目的として活動

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