中小企業の商品・サービス力を改善するには

中小企業の多くが商品・サービス力の不足に対する打ち手を考えています。本記事では、3つのステップを示すことで、中小企業の商品・サービス力の改善を考える上で必要な思考を整理します。

  • 市場・顧客の変化を捉える
  • 自社の強みを知り経営資源の配分を考える
  • 大企業に打ち勝つ戦略を考える

上記のステップを踏まえて、自社の商品・サービス力の改善の一助にしてください。

目次

1.市場・顧客の変化を捉える

商品・サービス力の向上を考える上で市場・顧客のニーズがどのように変化しているかという視点は非常に大切です。ここでは、ふたつのトレンドを解説します。

プロダクトアウトからカスタマーインへ

プロダクトアウト型の商品・サービス開発は、大量消費・大量生産の時代(市場の拡大期)に重視された売り手視点のモデルです。プロダクトアウトの特徴は、顧客の潜在的なニーズを掘り起こして新しい市場を生み出すこと。ところが、プロダクトアウト型の商品・サービス開発は今の世の中では相対的に重要性が低くなっています。なぜなら、このモデルは企業と顧客の間の情報の非対称性が大きい場合に効果的であり、誰でも簡単かつ即座にさまざまな情報を手に入られる現代社会には適合しにくいからです。

マーケットイン型の商品・サービス開発は、市場ニーズを分析・調査してターゲット顧客の抱える課題を把握、それらを解決するような商品・サービス開発を進める買い手視点のモデルです。マーケットインの特徴は、市場ニーズを軸にして商品・サービス開発を行うため、売上を予測しやすく、顧客満足度の向上につながりやすいことです。しかし、顧客一人ひとりの価値観が多様化する昨今、市場という大きな網でターゲティングを行うのが限界になりつつあります。

カスタマーインは、顧客一人ひとりの多様化するニーズにきめ細かく対応、コンシェルジェのように柔軟かつ迅速に商品・サービスを提供するモデルです。これを支えるのは、AIをはじめとするデジタル技術です。顧客の行動データをビッグデータとして収集・整備してAIにインプットすることで、人間では発見できない規則性・関連性などの洞察を得ることができます。これらは、商品・サービス開発に活用することができます。例えば、MA(Marketing Automation)などのツールを導入・運用すれば、リアルタイムなフィードバックを得ることができるため、商品・サービス開発のPDCAサイクルを高速で回して、顧客のロイヤリティを高めることができます。

ここまで3つのモデルを解説しましたが、商品・サービスとフィットするかという視点もあるため、必ずしもプロダクトアウトが悪で、カスタマーインが善だということはありません。ただ、現在の市場・顧客のマクロなニーズの変化を知ることは有意義だと考えます。

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販売形態の多様化

現在、SaaS(Software-as-a-Service)に代表されるサブスク型のビジネスモデルがトレンドになっています。顧客側としては、常に最新の商品・サービスを利用できるだけではなく、出費を分割できる心理的なメリットもあります。企業側としては、売り切り型と比べてサブスク型は安定した売上を得ることができ、企業のキャッシュフローを安定させやすいです(下図)。

もちろん全ての業界・業種において、企業はサブスク型のビジネスモデルを目指すべきということではありません。自社の主力とする商品・サービスが、どうしてもサブスク型と適合しないケースは多くあるでしょう。したがってサブスク型の隆興を、商品・サービスの販売形態が多様化している(下図)と捉えることが現実と近しく、今後の新規事業を考える上では参考になるはずです。

2.自社の商品・サービスを分析する

市場・顧客という外部環境を把握した後に必要となるのは自社の内部環境を分析して投資すべき事業領域を明確にすることです。それによって新しい商品・サービス開発を考えるときに方向性で迷うことがなくなり、競争力の向上へとつながります。

自社のドメインを意識して商品・サービス開発にシナジーを効かせる

自社の事業についてよく知っているつもりでも、ほとんどの場合バイアスがあり客観的に認識することは困難です。特に、会社を育ててきた経営者であれば自社の事業に対する思い入れが強く、バイアスは大きくなります。そこで自社の事業領域(ドメイン)について、①ターゲット②ニーズ③コアコンピタンスの3つの視点から分析してみましょう。

シンプルな3要素に絞って考えるのには理由があります。それは複雑なフレームワークだと社内でワークショップを開いても、社員が直感的に理解することが難しいからです。自社のことをよく知っている経営者よりも経験の浅い新入社員の方が、ドメインを分析する上では客観的な視点を持ちやすく、彼らが理解できるシンプルなフレームワークが有効です。

どの商品・サービスに重点投資すべきかを知る

商品・サービス力の向上を実現するには、既存事業と新規事業に分けて考えて、経営資源の配分を最適化する必要があります。下図のフレームワークは思考を整理して、重点投資すべき商品・サービスを把握する上で役に立つでしょう。

「金のなる木」に配置される既存事業があれば、そこで得た利益を「花形」や「問題児」に供給します。自社の利益の大部分を「金のなる木」の事業から得ていても、市場の成長性が低いのでやがて利益は減少していきます。商品・サービス力の向上は大切ですが、あくまでも継続的な利益を得るための手段にすぎません。大局観を持って、経営資源の配分を考えましょう。

3.大企業に勝てる戦略を考える

これまで解説したことを踏まえて、市場・顧客の変化という「外部環境」と自社の商品・サービスの強み、経営資源の配分という「内部環境」に関する洞察は高まったはずです。ここでは時間軸を現在から将来に移して、経営戦略を考えましょう。これによって、商品・サービス力の向上という本記事のメインテーマへの道筋が生まれます。

大企業のように資本が多ければ、商品・サービス力の向上に結びつけることは比較的容易です。一方、中小企業は資本が少なく商品・サービス開発に多額の投資をすることが難しい。競争に勝つためには、大企業とは異なる戦略が必要です。下図は、中小企業がどのような経営戦略をとるべきか、5つのエリアに分けて示したものです。

①〜⑤の戦略に共通することは、ふたつあります。

  • 選択と集中
  • 顧客との対話

①〜③は全て選択と集中に関する話です。経営資源が乏しい中小企業は狙いを絞り一点突破を試みるのが大企業との競争に打ち勝つために重要です。また④・⑤の例にあるように、中小企業の強みのひとつは経営者と顧客との距離が近いことです。大企業はさまざまなデータを分析して顧客理解を行いますが、中小企業はコミュニケーションによって顧客と対話する傾向にあります。このような違いによって、中小企業の勝機が見えてきます。

まとめ:商品・サービス力の向上へ

ここまで、中小企業の商品・サービス力の向上のために必要な3つのステップを解説しました。今回のアプローチはマクロ視点なものが多かったため、具体的にどのように着手すればいいか少し迷う読者の方もいるかもしれません。よりミクロ視点のアプローチは、これから別記事でも解説していきますので、ぜひそちらもご参考にしてください。

執筆:師田賢人

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この記事を書いた人

【Harmonic Society株式会社 CEO】
外資系コンサル、Webエンジニア、Webライター、フォトグラファーを経て、2023年にHarmonic Society株式会社を設立。企業の経営の悩みを言葉で解決している。一橋大学商学部卒。

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