ドローンのすすめ(操縦士スクール運営編)|ものづくり補助金の活用例

ものづくり補助金は、中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的サービス開発等による生産性向上に役立つ設備投資等を支援するための補助金です。昨今の革新的機器、またそのサービスの代表的なものとしてドローン(無人航空機)が挙げられるでしょう。さまざまな分野で積極的にドローンが活用されています。

その中でも、前々回の記事「ドローンのすすめ(測量編)|ものづくり補助金の活用例」では、ドローンを活用した測量によって、従来の手法と比較して測量に要する時間や経費の縮減、成果物の高付加価値化が実現することをご紹介しました。

また、前回の記事「ドローンのすすめ(インフラ点検編)|ものづくり補助金の活用例」では社会インフラの点検業務にドローンその他の新技術活用を国土交通省が推進し、低コストで高品質な成果物が可能となることをご紹介しました。

本記事では、ドローンが各分野で大いに活躍する大前提である「操縦士スクール」に着目し、最新の動向を紹介します。本記事が、ドローン操縦士スクール事業に関心をお持ちの事業者の方々にとって、前向きな検討の材料となれば幸いです。

目次

ドローン操縦士スクールの開設・運営

2022年12月5日から、改正航空法が施行され、ドローンの操縦士資格は国家資格化され、一等無人航空機操縦士および二等無人航空機操縦士の各資格が創設されました。もっとも、後に詳述する通り、従来の民間ドローンスクールの修了者が国家資格者の実質的な供給元となる構造となり、要件を満たす場合には実地試験の免除制度が設けられています。

ドローン操縦士スクールの開設・運営には、練習用ドローン機体等の高額な設備投資が必要となりますが、経済産業省が公表している令和5年度ドローン関連予算では、「開発等関連予算」「導入・実証等関連予算」いずれの筆頭にも、ものづくり補助金による支援が明記されています。

もっとも、一般的な開校の手段は、認定団体からドローンスクール認定を受けて運営する方法です。認定団体とは、航空局ホームページに掲載されている講習団体を管理する団体で、2022年12月期の数で92団体あり、管理数は1,511団体に上ります。

ドローンスクール認定団体には次のような団体があります。

これらの団体の認定スクールを開校するには、それぞれの団体の基準がありますが、ものづくり補助金の「機械装置・システム構築費」「専門家経費」などを主に活用できる可能性があります。

もっとも、開校費用の全てをものづくり補助金で賄うのは困難で、元から土地・建物を所有または借りている、もしくは練習場となる土地・建物を賃借したり、オンライン講習を活用するといった手段も検討の価値があるでしょう。

ちなみに、ドローン練習場の広さとして引き合いに出されるサッカーコート一面の広さはFIFA基準で105m×68m=7,140㎡=約2,163坪です。例えば、都市部からある程度離れた郊外の土地公示価格が坪単価約20万円とすると、2,000坪の土地の地価は4億円となります。地代の相場は、1.5%〜3%と言われていますので、年間600万円〜1,200万円ということになります。事業化計画の1つの参考となれば幸いです。

採択結果より(第11次締切分・第12次締切分)

2022年10月20日に発表された第11次締切分の採択結果では、採択された2,786者のうち、次の2者がドローン操縦士スクールと関係のある事業で採択されています。

都道府県 商号又は名称事業計画名
東京都ジェネラルエイチ株式会社講習のノウハウを生かしたドローン操縦ライセンススクール
神奈川県株式会社キャリアドライブ陸から空へ!!卒業後の活躍も視野に入れたドローンスクールの実現

(出典:ものづくり補助金 第11次締切 採択案件一覧

2022年12月16日に発表された第12次締切分の採択結果では、採択された1,885者のうち、次の1者がドローンを活用したインフラ点検と関係のある事業で採択されています。

都道府県商号又は名称事業計画名
東京都日本ドローン機構株式会社航空法改正に対応したドローンスクールの講習機関管理システム開発事業

(出典:ものづくり補助金 第12次締切 採択案件一覧

採択件数は決して多くはないものの、まさに始まったばかりの制度変更に機会を見出し挑戦する姿勢がうかがわれます。後述する情勢から、将来の市況を見据えた大胆な先行投資と捉えることもできるでしょう。

ドローン関連市場規模と将来性

国内ドローンビジネスの市場規模

(出典:ドローンビジネス調査報告書2023|インプレス総合研究所)

ドローンビジネスの市場規模は、機体、サービスおよび周辺サービスの3つで構成されています。
機体市場は、業務用ドローン機体完成品の国内販売金額で表されています。軍事用機体は含みません。
サービス市場は、ドローンを活用した業務の提供企業の売上額で表されています。ただし、ソリューションの一部分でのみドローンが活用される場合は、その部分のみの売上が推計されます。また、企業や公共団体が自社保有のドローンを活用する場合は、外部企業に委託した場合を想定し推計されます。
周辺サービス市場は、バッテリー等の消耗品の販売額、定期メンテナンス費用、人材育成や任意保険等の市場規模です。

今後、機体の販売市場よりも、ドローンを活用した業務を提供するサービス市場や周辺サービス市場の拡大が予測されます。機体市場を除いた、2023年度のサービス市場と周辺サービス市場を合計した市場規模は2,765億円ですが、2028年度の予想値はなんと7,153億円、2023年度の3.5倍以上に上ると見込まれています。そして、この市場拡大を支えているのがドローンサービスの進歩と多様化であり、そして社会へのスムーズな浸透がカギとなるのかもしれません。

そして、これらのサービス分野の中でも、農薬散布、老朽化が進んでいる社会インフラの点検、また「レベル4」飛行が肝煎りで目標としている物流用途への需要・機運は高まりつつあり、技術的・法的課題をクリアしていけば、そこに非常に大きな市場が生まれると考えられます。ドローンには、本シリーズで扱った分野以外にも以下のような多くの場面(サービス)での活躍が期待されています。

運搬運搬
搬送・物流通常搬送(拠点間・個別)
緊急搬送
農林水産業農薬散布(肥料散布、種まきなど含む)
精密農業
害獣対策
水産業
林業
土木・建設工事進捗
測量
点検橋梁
トンネル・洞道
ダム
送電網
基地局鉄塔・通信鉄塔
ソーラーパネル
一般住宅
大規模構造物(ビル・工場・倉庫など)
下水道
ブラント
風力発電
建築物設備
船舶
鉄道施設
天井・屋根裏空間
水中構造物
空撮映画・ドラマ・CMなどの商業空撮
観光空撮
不動産空撮
報道空撮
イベント撮影
警備施設警備
イベント監視
倉庫工場 (屋内利用)部品・商品搬送
在庫管理
計測・観測環境アセスメント
エンターテインメントドローンレース
イベント演出
通信基地局・中継局
公共消防
災害調査

規制緩和に向けた取組

小型無人機の飛行形態が分類される

2016年4月28日に開催された「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会(第4回)」において「小型無人機の利活用と技術開発のロードマップ」が示されました。この中で初めて、小型無人機の飛行形態が、以下のように、目視内/外、有人/無人地帯といった基準で分類されました。

(出典:内閣府「トピックス無人航空機の登録制度の創設と有人地帯上空での
目視外飛行(レベル4)の実現に向けた制度整備について
」)

このように「レベル4」が定義されてから7年の間、各方面でレベル4飛行の実現に向けて努力が重ねられました。そして2022年12月、航空法上のドローンに関する新ルールが施行され、機体認証や技能証明等の新たなスキームが始まったのです。

また、ドローンは大きいもので数十kgに及び、これが空を飛ぶことには接触や墜落等、非常に大きなリスクを伴います。そこで、無人航空機の飛行形態については航空法で規制が設けられ、飛行場所および飛行方法のリスクに応じ、次の通りカテゴリーⅠ〜カテゴリーⅢに分類されています。

カテゴリーⅢ特定飛行のうち、無人航空機の飛行経路下において立入管理措置を講じないで行う飛行。(=第三者の上空で特定飛行を行う)
カテゴリーⅡ特定飛行のうち、無人航空機の飛行経路下において立入管理措置を講じたうえで行う飛行。(=第三者の上空を飛行しない)
カテゴリーⅠ特定飛行に該当しない飛行。 航空法上の飛行許可・承認手続きは不要。

※立入管理措置とは、無人航空機の飛行経路下において、第三者(無人航空機を飛行させる者およびこれを補助する者以外の者)の立入りを制限することを指します。

機体認証及び操縦者技能証明の取得により、カテゴリーⅡ飛行のうち一部の飛行許可・承認手続が不要になる場合があります。

飛行カテゴリーの決定、ならびに必要な機体認証、操縦者技能証明および許可・承認申請の要否については、下図のフローチャートの通り定められています。

(出典:国土交通省「無人航空機の飛行許可・承認手続」)

ドローン操縦士の国家資格

前掲のフローチャートにある通り、カテゴリーⅡおよびカテゴリーⅢの特定飛行には一等無人航空機操縦士技能証明または二等無人航空機操縦士技能証明を有する必要があります。

これらの資格が2022年12月に施行された改正航空法によって創設されたドローン操縦士の国家資格です。2023年1月24日、二等無人航空機操縦士の技能証明も交付され、2月14日には、日本で初めての一等無人航空機操縦士の技能証明が4人に対して交付されました。

さらに、二等無人航空機操縦士については1月24日時点で874件の学科試験申請が受け付けられており、一等無人航空機操縦士については2月14日時点で458件の学科試験申請が受け付けられています。

無人航空機操縦士資格を取得する方法

一等無人航空機操縦士、二等無人航空機操縦士ともに、原則として、指定試験機関(国土交通大臣により、法令の基準に適合するとして指定された、無人航空機技能証明の試験を実施する民間事業者)である一般財団法人日本海事協会が実施する学科試験、実施試験および身体検査により技能判定を行い、無人航空機操縦者技能証明を受ける必要があります。

指定試験機関における無人航空機操縦士試験の手数料は次の通り定められています。

学科試験

種別手数料
一等学科試験9,900円
二等学科試験8,800円

学科試験の合格基準は、一等が90%程度、二等が80%程度となっている。

実地試験

機体の種類等級試験の種類手数料
回転翼(マルチローター)一等基本(昼間・目視内・25kg未満)22,200円
限定変更20,800円
二等基本(昼間・目視内・25kg未満)20,400円
限定変更19,800円
回転翼(ヘリコプター)一等基本(昼間・目視内・25kg未満)22,600円
限定変更21,200円
二等基本(昼間・目視内・25kg未満)20,900円
限定変更20,300円
飛行機一等基本(昼間・目視内・25kg未満)23,800円
限定変更22,400円
二等基本(昼間・目視内・25kg未満)21,500円
限定変更20,900円
  • 基本とは、昼間(日出から日入までの間)に目視内(目で見える範囲)にて最大離陸重量25kg未満の機体を飛行させるために必要な技能を測る実地試験です。
  • 限定変更とは、以下のいずれかの限定を解除するために必要な実地試験であり、「夜間飛行」・「目視外飛行」・「最大離陸重量25kg以上の機体での飛行」のいずれかの飛行を実施する方は各実地試験が必要となります(それぞれの限定を解除するための講習を登録講習機関にて受講・修了した場合は、その内容に応じた実地試験が免除になります)。
    ・昼間飛行の限定(日出から日入までの間のみ飛行させることが可能)
    ・目視内飛行の限定(目で見える範囲でのみ飛行させることが可能)
    ・最大離陸重量25kg未満の機体限定(最大離陸重量25kg未満の機体のみ飛行させることが可能)

身体測定

受検方法手数料
書類での受検5,200円
会場での受検19,900円

●書類での受検とは、受験者が以下のいずれかの書類を提出することで書面にて身体検査を受検する方法です。
・自動車運転免許証(自動二輪免許、小型特殊免許及び原付免許を除く。)
・指定航空身体検査医による航空身体検査証明書
・無人航空機操縦者技能証明書
・医師の診断書(指定の様式あり)

●会場での受検とは、受験者が指定試験機関が準備する会場で直接身体検査を受検する方法です。

(出典:一般財団法人日本海事協会「技能証明試験の種別・手数料」)

登録講習機関(ドローン操縦士スクール)は自動車教習所のようなもの

指定試験機関が実施する無人航空機操縦士試験のうち、実地試験については、登録講習機関(登録申請を行、国土交通大臣により、法令の基準に適合するとして登録された、無人航空機の操縦に関する知識および技能その他の無人航空機を飛行させる能力の習得させるための課程を設置した民間事業者)の所定の講習を修了することで免除されます。

この仕組みは、多くの方が運転免許を取得する際、公安委員会が指定する自動車教習所に通って卒業し、実技試験の免除を受けることに似ています。

本記事執筆現在、登録講習機関は日本全国に485箇所あり、無人航空機操縦士試験を目指す多くの方が、学科講習や実地講習を受講しています(修了により免除になるのは実地試験のみです)。

登録講習機関の受講費用

登録講習機関の受講費用はスクールごとに異なるため、受講しようとするスクールへの問い合わせが必要です。

もっとも、大まかに以下のような価格設定になると考えられます。

  民間資格を取得する人 民間資格を取得しない人
 民間資格 20万円 取得なし
 国家資格 1等:30万円  2等:15万円 1等:70〜100万円  2等:30〜50万円
 総額 1等:50万円  2等:35万円 1等:70〜100万円  2等:30〜50万円

物流の担い手が足りなくなる? じゃあドローン操縦士を育成しよう!

2022年12月末現在、自動車教習所は1,240所で、2022年中の卒業生は1,500,050名でした。1年で約150万人の自動車運転手が増加している一方、2022年の道路貨物運送業における輸送・機械運転従事者の平均は86万人です(総務省「労働力調査基本集計全都道府県全国年次調査」より)。しかし、宅配の需要が年々増加しているなどの要因から、公益社団法人鉄道貨物協会の将来予測では、2028年のドライバーの不足数が27.8万人に達するとされており、今後より深刻化すると予想されています。

実際には遅延しているものの、政府が定めたロードマップでは、2020年代にはレベル4飛行による物流サービスの実現が掲げられています。技術的なハードルはまだ少なからずありつつも、国土交通省のレベル4・カテゴリーⅢ飛行の推進への意欲に鑑みると、例えばドライバーの労働条件の改善、若年者へのドライバー就職勧奨などにリソースを割くよりも、ドローンを利用した物流の実現の加速化に舵を切ると予測するのが自然です。

すなわち、今後しばらくの間、無人飛行機操縦士の育成については社会的ニーズがあるだけでなく、操縦士となる方にとっても活況な産業で活躍する可能性が高いと言えるのです。この分野の中心的役割を果たすドローン操縦士スクールの開校・運営に、ものづくり補助金を活用しつつ挑戦してみてはいかがでしょうか。

まとめ

本記事では、直近の制度改正や動向を踏まえ、ものづくり補助金を活用したドローン操縦士スクール運営について取り上げてきましたが、いかがだったでしょうか。

ドローンを活用したビジネスの市場規模の推移において、とりわけサービスに分類されるものが大きく伸びると予想されています。そして、その中には新たな国家資格を有する操縦士でなければ提供できないサービスも多く含まれています。

率直なところ、ドローン操縦士スクールの開設・運営は、現在の事業者様の経営状況によって積極的な検討の余地があるかどうかが分かれるところです。

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執筆者:池谷 陽平、監修:中小企業診断士 居戸 和由貴

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この記事を書いた人

【中小企業診断士】
生命保険会社、人材会社、戦略コンサルタント会社での経験を経て、2021年に中小企業診断士として独立。強みであるマーケティングとテクノロジーを軸に、中小企業の売上拡大を目的として活動

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