ものづくり補助金は、中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的サービス開発等による生産性向上に役立つ設備投資等を支援するための補助金です。最近の革新的機器、またそのサービスの代表格としてドローン(無人航空機)は、多くの分野での新サービスの創出、業務効率・生産性を大きく向上するツールとして欠かせない存在でしょう。
直接に関係がなくても、農業にドローンが活用されていることは有名です。農薬の空中散布は長い間、無人ヘリコプターを利用して行われてきました。しかし、2016年頃を境目に、農業用ドローンが活用され始めるようになりました。
本記事では、農薬散布の1点だけでは説明のつかない農業用ドローンを巡る解説を多側面から試みます。
日本の農業を巡る現状・特徴
国土条件による小規模農業
日本は傾斜が急で険しい地形が多く、国土面積の約7割を森林が占めている一方で国土の広さに比べて人口が多いという特徴があります。そのような事情もあり、日本の一農業経営体ごとの経営耕地面積は、令和4年2月1日時点で3.3ha(33,000㎡)にとどまります。
また、日本の農地面積約442万haに対して、広大な農地が多い他国、例えばドイツは約1,673万ha、フランスは約2,873万ha、英国は約1,714万ha、米国は40,585万ha、オーストラリアは約36,514万haと大きな差があります。
2019年の数値により、他国の平均経営耕地面積と比較すると、日本の経営耕地面積を1とした場合、ドイツおよびフランスは約20倍、英国は約30倍、米国は日本の約60倍、オーストラリアは約1,497倍になっています。
(出典:農林水産省「令和4年農業構造動態調査」)
(出典:農業協同組合新聞「【数字で見る日本の農業】第1回」)
国土の地形等に合わせた農業用ドローン
日本は特に中山間地域に農地が多くあり、大型ドローンの利用には適していません。近年、日本国内に流通する農業用ドローンには、小型のものでは幅・奥行がともに1m未満の大きさで、農業従事者が1人でも持ち運べるくらいにコンパクトで軽量な機種もあります。国産ドローンメーカーの機体の多くは、このような日本特有の農地特性を十分に考慮した結果として、小回りの利く大きさで設計・開発されています。そのため、例えば10a(100㎡)程度の小さな農地にも対応可能な機種も出回っています。
ドローンは農業でどのように活用できるか
農薬・肥料散布
元来、農薬の散布は、農作業に従事する方が農薬の入ったタンクを背負って耕地に分け入り、人力で撒いていました。
農業においてもさまざまな機械化が進む中、無人ヘリコプターを活用して空中散布する方式が広まり、現在でも主流の方法として認知されています。無人ヘリコプターによる農薬散布は地上からラジコンで操作して行われますが、一般社団法人農林水産航空協会による技能認定を受けた産業用無人ヘリコプターオペレーターが担当します。一般的には業者に委託料金を支払って依頼し、農薬の散布時期になったら目印として耕地に旗を立てておきます。無人ヘリコプターは機体重量が100kg程と大きく農薬の積載可能量も多いので、1回の作業で農薬散布できる耕地も広く効率的です。ただその一方で、運搬等を含む作業に最低3人以上はオペレーターが必要なので比較的小規模な農地の場合は機体の大きさから作業が困難であったり、コスト面でも必ずしも効率的と言えない可能性もあります。
多くの分野でドローン関連技術が進歩し活躍する中、日本では2016年頃から農薬散布にドローンを導入して活用する例が増加し始めました。一般的な農業用ドローンは、農薬や肥料を耕地に散布することを目的として利用される、マルチローター型(3つ以上の複数のローター(回転翼)を機体に装備しており回転翼航空機とも呼ばれる)の無人航空機を指しています。農業用ドローンには薬剤を積載するタンクや散布用のノズルが取り付けられていたり、均一に農薬散布できるよう飛行するために自動飛行機能を搭載している機体が多くあります。
人力の場合、まる1日かけた重労働で1ha(10,000㎡)(資料によっては2.5ha(25,000㎡))ほどの耕地に農薬散布できるのに対して、一般的な機種の農業用ドローンは時速約15kmで幅約4mに農薬散布できるため、10a(1,000㎡)の耕地を1分程度のスピードで散布可能です。1ha(10,000㎡)の耕地への散布に要する時間は水汲み時間を入れても20分ほどとなり、そのスピードの速さが分かります。
小麦に防除する場合の比較例
農業用ドローン | 無人ヘリコプター | |
1ha当たり 作業時間 | 約20分 (水汲み時間含む) | 約20分 (水汲み時間含む) |
散布用 タンク搭載量 | 10L | 8L×2 |
投下水量 | 0.8L/10a | 0.8L/10a |
散布高度 | 1.5m〜2m | 3m〜4m |
散布幅 | 3m〜4m | 5m〜7.5m |
散布作業速度 | 時速10km〜15km | 時速10km〜15km |
農薬補充間隔 | 1回/15分 | 1回/30分 |
ドリフトリスク | 低 | 中 |
ダウンウォッシュ ダメージ | 小 | 大 |
オペレータ数 | 1名 (距離制限なし) | 2名〜3名 (距離150m超える場合) |
連続作業時間 | 15分/1バッテリー | 90分/燃料満タン時 |
(出典:SMART AGRI「ドローン 、無人ヘリ、スプレーヤーの防除効率と使い分け方」)
→ドリフトリスクとは、農薬散布の際、隣接地の作物への残留や周辺住民への危害、魚などの水産動植物や蚕への影響を起こしてしまう周辺飛散リスクを指します。
→ダウンウォッシュダメージとは、ヘリコプターやドローンが浮上する際に発生する吹き下ろしの風による作物へのダメージを指します。
農地のリモートセンシング
昨今、農業業界では「精密農業」または「精緻農業」というキーワードや考え方が広まっています。これらは2000年代の初頭からフランスやオランダで導入され始めた概念で、農林水産省の定義によると、精密農業とは、農地・農作物の状態をよく観察し、きめ細かく制御し、その結果に基づき次年度の計画を立てる一連の農業管理手法であり、農作物の収量および品質の向上を目指すためのものです。
(出典:農林水産省「日本型精密農業を目指した技術開発」)
精密農業の作業サイクルの基礎となるのが「観察」や「解析」であり、この領域でリモートセンシング技術を活用することができます。リモートセンシングとは、直接農地へ赴いて温度や湿度の測定や作物の観察を行うのではなく、AIやロボットを活用して遠隔地から農地の様子を確認することです。
その手法として、汎用型ドローンにマルチスペクトルカメラ(太陽光や照明の光、また、その光が農作物や物体に当たって返ってくる、人の目では見えない紫外線、赤外線、遠赤外線などの不可視光線を捉えて記録するカメラ)を搭載して植物による光の反射の特徴を活用して植生の状況を把握することが可能です。
害鳥獣対策
害鳥獣被害対策、鳥獣による農作物への被害は、積年にわたって農業の悩みの種でした。駆除しても駆除しても繰り返し現れ、まさにイタチごっこ状態の続いてきた農家もたいへん多かったことでしょう。
精密カメラやサーモカメラを搭載したドローンに走行経路を設定し撮影することで、害鳥獣の生息地や活動範囲を把握できます。その上で音声などにより害獣を追い払う、特殊なテープを木の上に巻きつけるなどして巣作りを防止して害鳥の繁殖抑制等を行う、捕獲効率が高い場所への罠の設置など、より効率的な捕獲活動が可能になります。なお、着目する問題によっては、農作物の盗難被害に適応できる可能性もあります。
農業用ドローン導入のメリット
農業用ドローンの汎用性
農業用ドローンは一般に、液剤だけでなく、粒剤、水和剤、水溶剤、乳剤など多くの剤型(製剤形態)の農薬にも対応して農薬散布が可能です。加えて、肥料散布にも利用でき、一部の機種によっては播種(種まき)まで対応可能で、たいへん汎用性に優れていると言えるでしょう。
作業負担の軽減・重労働の改善
人力による農薬散布作業から農業用ドローンを活用した農薬散布作業に移行した場合における作業時間および作業負担がどれだけ軽減されるかについては、比較例を先述しましたが、改めて検証してみましょう。例えば人力で午前5時頃から午後6時頃まで食事や休息を挟みつつ12時間前後の重労働で農薬散布できるのが1h(10,000㎡)と言われています。
また、これも人力を要しますが、動力噴霧器で2時間かけて農薬散布による防除作業を行えるのが1h(10,000㎡)となります。
一般的な農業用ドローンは時速約15kmで幅約4mに農薬散布できるため、1ha(10,000㎡)の耕地への農薬散布には、農薬の補給と移動も考慮すると、約15分間〜30分間を要します。
農業用ドローンの散布時間を30分/haとしますと、全て人力で行っていた時代と比べると約24倍に、動力噴霧器と比較すると約4倍となりました。農業用ドローンの活用は、大きな作業負担の軽減となったと言えるでしょう。
業務効率向上・農薬散布請負事業
作業時間の大幅短縮など業務効率の向上
- 無人ヘリコプターと比較し、機体が小さく安価であるため、作業性の向上やコスト削減の効果がある。
- リモートセンシング技術を用いたピンポイント散布が開発され、効率的な防除が可能に。
- 農地のリモートセンシングにより畑の植生や健康状態を調査することで、雑草や害虫による被害状況、土壌の状態も測定でき、効率的な作業が可能となる。また離れた場所からでも耕地の管理ができ、低コストで収穫量の最大化を図ることができる。
- ドローンを活用した農地のリモートセンシングは、より容易に情報を取得できるため、目視で行ってきた農地の見回り、生育状況の確認に要する時間を大幅に削減するとともに、適切な防除や追肥、収穫による品質・収量の向上が可能となっている。
- 赤外線カメラ搭載のドローンによる空撮による鳥獣の生育実態把握や、ドローン空撮をリアルタイムで通信して捕獲現場の見回り等をおこなうことにより、捕獲作業が効率化される。
業務効率の向上から農薬散布請負事業への展開
既述の通り、農業従事者の業務作業時間が大幅に短縮されると、そこには余剰時間が生まれ、新事業展開する余地が生まれます。そこで、その時間を活用し、近傍から、ある程度の離れた地域まで、農薬散布を請負業務としてお受けする農業支援事業を積極的に展開する農業従事者の方もおられます。
また、自身が元々農業従事者でない個人事業主や法人が、各地域の農家のニーズを調査して同様の事業展開を行う可能性もあるでしょう。
農家のニーズとしては、「現在は無人ヘリコプターを依頼してるけれども、もっとコストを削れないか」「地域団体等が取りまとめている共同防除(特定の農作物を基準として、地域で一斉に液剤農薬を散布する活動。農薬の安全性、効率性、環境保全に役立つとされている)も、多様な品種を手掛けて事業展開している場合など、育てている品種にとって適切な農薬散布時期は必ずしもタイミングが合わない」「地元団体が斡旋する農業用ドローンによる農薬散布の費用設定は高過ぎる」など、多々あると考えられます。
そんな多くの需要や機会が未だ収穫され切っていない中、ドローンを活用した農薬散布等のビジネスが育つ余地は十分にあるのではないでしょうか。
農業用ドローン導入に必要なコスト
農業用ドローンの機体本体
農業用ドローンの機体本体価格は、積載できる農薬の量(≒機体の大きさ)や性能などによって、100万円未満のものから200万円を超えるものまで、価格帯の幅が比較的大きいと言えます。活用する耕地の広さや必要な機能等をよく考慮して選ぶ必要があるでしょう。
農林水産省ウェブサイトの「スマート農業」ページに集められているスマート農業関連の情報の中に、農業用ドローン本体や関連技術・関連機器のカタログが掲載されています。「農業用ドローンの普及拡大に向けた官民協議会」のページにも農業用ドローン関連のカタログを閲覧することができます。
これら農林水産省の農業用ドローンカタログによると、おおむね100〜250万円ほどの機体が主力商品となっているようです。
運用費用
農業用ドローンを実際に運用するためには、機体の購入費用だけでなく、機体の周辺機器や、毎年の運用に必要となる「諸費用」が発生します。法令上の義務とはなっていませんが、安全の確保やリスク管理の観点から、保険料や、定期的な点検・整備に要する費用は必ず発生すると見込んでおきましょう。
2021年度、国土交通省に報告のあった事故トラブル等の件数は139件に上ります。うち、人が死傷する人身事故は、操縦関係者が軽傷を負った3件で、操縦不能になって墜落し行方不明になる「自損事故」や、高度の高い構造物や施設に接触する「物損事故」が大多数を占めました。しかしながら、ドローンは空高く飛行するもので、かなりの重量もあるため、万が一の場合の衝撃の大きさは想像に難くありません。人を巻き込んだ大事故を起こすリスクを常に認識しておくべきでしょう。 一定の安全点検・整備を怠ってはいけません。
(出典:国土交通省「令和3年度 無人航空機に係る事故トラブル等の一覧」)
ある程度の余裕を持たせると、損害保険料は年間20万円、点検・メンテナンス費用は年間30万円程度が目安となるでしょう。
また、ドローンを飛行させるための国土交通省航空局への申請を行政書士等に代行依頼すると1〜2万円程度かかります。
周辺機器
ドローン機体本体だけでは農薬散布等の作業はできず、電源さえ起動しません。まずはドローンを駆動させるためにリチウムポリマーバッテリー(充電池)を、機体に入れて使う2本と充電のローテーションのため4本常備します。1本が2万5千円ほどなので、バッテリー4本で10万円かかります。そして、それらのバッテリーを充電する装置(充電器)が必要で、およそ15万円します。
また、散布する農薬にも多くの剤型があることは前述しましたが、このうち粒剤を散布するためには専用装置を追加する必要があり、15万円ほどかかるそうです。
ドローンスクール等の講習受講費用
農業ドローンは、購入したら自由に飛行させて差し支えないものではありません。他人の生命、身体および財産に対して損害を加える可能性があること、機体の紛失や損壊のリスクがあること、また農地内に均一に散布を行い、農薬を散布した区域外への飛散(ドリフト)が起こらないようにすべきことから、「無人航空機飛行マニュアル」や「無人マルチローターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン」において、一定の知識および技能を習得するべきものと定められています。なお、後者「ガイドライン」では、農薬を空中散布する際には、実施場所、実施予定年月日、作物名、散布農薬名、10a(1,000㎡)当たりの使用量または希釈倍数等について記載した計画書を作成することになっています。このような計画のためにも基礎的な知識が求められるのです。
講習は、ドローンの関係団体、メーカー、販売店、ドローンスクール等が実施していますが、受講費用は一般的に20万円前後が相場となっています。
人材開発支援助成金
人材開発支援助成金は、従業員の人材育成、スキルアップに活用するため、事業主等が雇用する労働者に対して、職務に関連した専門的な知識および技能を習得させるための職業訓練等を計画に沿って実施した場合等に、訓練経費や訓練期間中の賃金の一部等を助成する制度です。ドローンスクールでの受講も、一定の要件を満たせば支援対象となりますので積極的に活用したいものです。
例えば、正規雇用の雇用保険被保険者が人材育成訓練に該当するドローンスクールの講習(20時間・受講料25万円)を受けた場合、受講料の45%に当たる112,500円の経費助成、1時間当たり760円の賃金助成が20時間分15,200円の合計127,700円の助成金が支給される試算となります。
※受講するコースと支給要件により助成額および助成率は異なりますので、申請に当たっては、厚生労働省による公式情報をよく確認しましょう。
農業でのドローン活用はものづくり補助金の対象
ドローン機体本体も、ドローンに搭載する機器も高額な設備投資となりますが、経済産業省が公表している令和5年度ドローン関連予算では、「開発等関連予算」「導入・実証等関連予算」いずれの筆頭にも、ものづくり補助金による支援が明記されています。そして、ものづくり補助金のドローン関連活用イメージに「⽣産性向上に資する⾰新的なドローン製品やサービス開発のために必要な設備の導⼊」が挙げられています。
さらに、以下のようにドローンを用いた農薬散布関連事業が採択された実績もあります。
採択結果より(第10次締切分〜第14次締切分)
採択結果が発表された直近5回の公募では次表の通り、合わせて6者がドローンを活用した農薬散布と関係のある事業で採択を勝ち取っています。事業計画名から見るに、スマート農業を志向して業務効率や生産性の向上にドローンを活用しようとしているようです。今後も継続してドローンが活用される分野の1つでしょう。
採択 | 都道府県 | 商号又は名称 | 事業計画名 |
10次 | 滋賀県 | 東洋エンジニア株式会社 | 滋賀から全国へ!先端ドローンによるDX型スマート1次産業への進化 |
11次 | 北海道 | 株式会社WNK | 最新ドローンによるスマート農業の拡大とインフラ点検参入の実現 |
12次 | 北海道 | 株式会社十勝ふじや牧場 | 農薬散布用ドローン導入によるスマート農業の実践 |
13次 | 北海道 | 遠藤農場 | 間作播種・肥料散布・農薬散布の3作業を農業用ドローンでスマート化。 |
13次 | 山口県 | 株式会社MYメカニカル | ドローン等によるスマート農家化で顧客の出荷増加需要に応える |
14次 | 新潟県 | 燕三条AIRPORT合同会社 | 農業用ドローン活用による新分野展開 |
(出典:ものづくり補助金総合サイト「採択結果」)
まとめ
本記事では、直近の制度改正や動向を踏まえ、ものづくり補助金を活用した農業用ドローンの導入にまつわる話題を取り上げてきましたが、いかがだったでしょうか。
農林水産省を中心に「スマート農業」を旗印として多彩な先進技術を投入した精密農業を実践することがトレンドとなっています。農業の生産性向上を目指しており、これは社会的に大きな課題でもあります。
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執筆者:池谷 陽平、監修:中小企業診断士 居戸 和由貴