今、国内回帰すべき理由!事業再構築補助金第10回公募でサプライチェーン強靭化枠が創設

事業再構築補助金第10回公募で創設された「サプライチェーン強靭化枠」では、他の申請類型と比較して著しく高額な補助上限額が設定されています。また、補助事業として実施する内容についても、たいへん大胆な内容を達成するよう求められています。サプライチェーン強靭化枠は、時勢に即した積極的な経営判断・決断を強力に支援するものとして新設されました。この申請類型は、製造業の生産拠点の国内回帰にフォーカスされたものです。

この記事では、創設されたサプライチェーン強靭化枠について、創設された趣旨や背景、具体的な補助内容・要件等を解説します。

海外に生産拠点を持って稼働している中、その体制の持続性に疑問や不安を覚えておられる経営陣の方々におかれては、この記事で解説する内容を参考として、サプライチェーン強靭化枠を活用し、国境をまたぐ大きな事業再構築を積極的に検討してはいかがでしょうか。

なお、この記事内の海外法人への投資は、ここ10年余り、海外全体への投資に対する比率が約20%程度で推移している対中国投資を念頭に置いて解説します。

目次

製造業企業にとっての国内回帰インセンティブ

海外に生産拠点を置く製造業事業者が、日本国内に回帰し、再び日本国内に生産拠点を移そうとするインセンティブ・動機は、以下の2つの観点からのものに大別されます。
つまり、

  • 生産コストの観点から…安く生産できなくなっている
  • 経済安全保障の観点から…国際的な政治的・経済的なリスクがある

生産コストの観点から

日本企業がなぜわざわざ中国等の海外に生産拠点を持ってきたのか、そして現在、その思惑通りに事は進んでいるのでしょうか。

海外進出したインセンティブ

日本国内のメーカー・製造業者は、国内だけでなく海外市場へ多くの製品を輸出してきました。しかしながら、日本国内で製品を製造して海外へ輸送するには多大な輸送費や時間を要するため、販売先の国や地域に直接製造拠点を構えた方がコストが抑制できると考えたのです。国によっては人件費の安い現地人を雇用することも費用対効果を大きくしました。

とりわけ1990年代以降、日本を含めた世界中の製造業企業は、人口や国土の広大さから、中国が持つ潜在的に巨大な需要に大きな関心と期待を持ち、大挙して中国へと進出しました。

国内外コスト競争力の縮まり

前述の通り、現地へ生産拠点を置いていた理由の1つは、人件費の安さでした。しかし近年にあっては、現地の賃金は上昇しています。

他方、日本国内においては、「製造業DX」「地産地消によるリードタイムの短縮」などの取組の成果によってコスト競争力が上昇しており、現地製造拠点の機能を代替する自動化等が進みつつあります。

したがって、海外に生産拠点を設けるインセンティブは今後より小さくなると考えられます。

経済安全保障の観点から

経済安全保障とは、経済的手段によって国の安全保障を確保することです。より具体的には、国の経済活動・経済体制や、社会における国民生活における脅威を取り除き安定を維持するために、エネルギー・資源・食料などの安定供給を確保するための措置を講じることを指します。

そして、その目的を達成するために、特定重要物資の指定、民間事業者の計画の認定・支援措置、政府による特別な対策としての取組等を措置することをいい、これが「サプライチェーン強靭化」と呼ばれています。

以下の実例を参考にしてみても、自国と直接関係ない突発的な事故・災害・戦争等が発生した際、現段階では「グローバル経済」を推し進めた代償として、世界のどこかで何かが起きたらサプライチェーンが機能しなくなり、経済から家庭生活まで広く混乱が生じ、極端な場合には国の存立にさえ関わる可能性があると言っても過言ではありません。

鎖国しても持続できる社会生活水準に移行することは不可能なわけですから、日本の場合は特にエネルギー・食料を優先課題として経済的手段により確保しなければなりません。そして、経済活動に必要となる、例えば半導体、その他の原材料・部品を調達できるサプライチェーンの強化が必要です。

まさに、この文脈において、海外進出し生産拠点を持つ企業が、国内回帰することにより、国内でサプライチェーンを構築できる範囲が広がり、ひいては経済安全保障へとつながるのです。

米中貿易摩擦

米中貿易摩擦が始まったのは2018年と言われています。翌年5月10日には、2,000億ドル相当の中国からの輸入品に対する関税が、10%から25%へと大幅に引き上げられました。

このことで、中国に現地法人を持つ日本企業としては甚大なマイナス影響を受けることとなり、生産拠点をタイやベトナムに移管する流れも生まれました。そして何より、日本へと国内回帰しようとするトレンドが強まり始めました。

円安

コロナが社会を席巻し始めた2020年年初の為替レートは対米ドルで1米ドル=108円台半ばでした。その後、感染症対策への緊急的対策として、米国、EU、英国などでは政策金利を0%近くまで大幅に引き下げ、当面の企業活動、ひいては市民生活の安定を図りました(日本は従前と変わらず-0.1%を維持)。

しかし、2022年3月頃、ちょうどロシアがウクライナに侵攻した時期から、各国が政策金利を段階的に引上げ始め、政策金利-0.1%の金融緩和政策を継続し続ける日本と大きな金利差が生まれ、広がっていくことになりました。本記事執筆時点の米国政策金利5.125%と比較すると、明らかに米ドルの投資需要が高まり、その結果、円安ドル高が進行し、一時は1米ドル=150円まで円安が進み、本記事執筆時点では1米ドル=140円強となっており、2020年初頭から約30%もの円安となっています。
今後の為替水準を正確に見定めるのは不可能ですが、現在、たいへんな勢いでの円安が進行中なのは事実です。

すると、輸出産業が多くを占める製造業にとっては、日本国内で生産し、円建で輸出するモデルに目下大きなチャンスがあると言えるのです。また、自国通貨安は、米ドルや中国元で賃金を支払うよりも、円で賃金を支払う方が高い費用対効果をもたらします。

つまり、実際に断行するか・できるかは別としても、少なくとも海外の生産拠点を維持することには経営的意義は極めて小さく、事業者自身にとっても日本社会にとっても、生産拠点の国内回帰を実現することには非常に価値の高い取組というべきです。

サプライチェーン強靭化枠の内容

以上のような動向の中で創設されたサプライチェーン強靭化枠は、下図のような補助内容となっています。

項目内容
補助金額中小企業者等・中堅企業者等ともに 1,000万円〜5億円
※ 建物費がない場合は3億円以内
補助率中小企業者等 1/2 中堅企業等  1/3
補助事業
実施期間
交付決定日〜28か月以内(ただし、補助金交付候補者の採択発表日から30か月後の日まで) ※交付決定後自己の責任によらないと認められる理由により、補助事業実施期間内に完了することができないと見込まれる場合には事故等報告を提出する必要があります。補助事業実施期間の延長が認められる場合があります。
補助対象経費建物費、機械装置・システム構築費
要件【事業再構築要件】(※1)
事業再構築指針」で詳細が公表されている「事業再構築(国内回帰)」の定義に該当する事業であること 【認定支援機関要件】
事業計画について認定経営革新等支援機関の確認を受けていること。補助金額が3,000万円を超える場合は、認定経営革新機関だけでなく金融機関による確認も受ける必要があります。 【付加価値額要件】
補助事業終了後3〜5年で付加価値額の年率平均5.0%以上増加、または従業員一人当たり付加価値額の年率平均5.0%以上増加する見込みの事業計画を策定すること 取引先から校内での生産(増産)要請があること(事業完了後、愚痴的な商談が進む予定があるもの)【国内増産要請要件】 取り組む事業が事業が、過去〜今後のいずれか10年間で、市場規模が10%以上かくだいする業種・業態に属していること【市場拡大要件】 下記の要件をいずれも満たしていること【デジタル要件】 経済産業省が公開するDX推進指標を活用し、自己診断を実施し、結果を独立行政法人情報処理推進機構(IPA)に対して提出していること。 IPAが実施する「SECURITY ACTION」の★★ 二つ星」の宣言を行っていること」。 交付決定時点で、設備投資する事業場内最低賃金が地域別最低賃金より30円以上高いこと。ただし、新規立地の場合は、当該新事業場内最低賃金が地域別最低賃金より30円以上高くなる雇用計画を示すこと【事業場内最低賃金要件】 事業終了後3〜5年で給与支給総額を年率平均2%以上増加させること【給与総額増加要件】 「パートナーシップ構築宣言」ポータルサイトにて、宣言を公表していること【パートナーシップ構築宣言要件】 ※ 第1回〜第9回公募で補助金交付候補者として採択された者(補助金交付候補者として採択された事業を辞退した場合を除く)であっても、次の2要件を満たせばサプライチェーン強靭化枠に申請できます。  既に事業再構築補助金で取り組んでいる、または取り組む予定の補助事業とは異なる事業内容であること【別事業要件】 既存の事業再構築を行いながら新たに取り組む事業再構築を行うだけの体制や資金力があること【能力評価要件】 ※ 各要件の詳細につきましては、公募要領をご確認ください。

(※1)【事業再構築要件】について
サプライチェーン強靭化枠に応募できる事業再構築は「国内回帰」のみです。そして、サプライチェーン強靭化枠の申請に当たっては、「国内回帰」も類型で定められている次の各要件を満たす計画であることが必要となります。

国内回帰海外で製造等する製品について、その製造方法が先進性を有する国内生産拠点を整備することをいう。
必要となる要件海外製造等要件事業を行う中小企業等が海外で製造・調達している製品について、国内で生産拠点を整備すること
導入設備の
先進性要件
事業による製品の製造方法が先進性を有するものであること
新事業売上高
10%等要件
事業により製造する製品の売上高が総売上高の10%(または総付加価値額の15%)以上となること

「海外製造等要件」「導入設備の先進性要件」「新事業売上高10%等要件」の詳細については、公募要領をご確認ください。

まとめ

ここまで、事業再構築補助金の第10回公募において創設された「サプライチェーン強靭化枠」について、その趣旨や背景とともに解説してきましたが、いかがだったでしょうか。

続々と増えている製造業・メーカー企業の国内回帰の例は、大企業の場合が多く、投資額も数十億円〜数百億円といった大規模なものが散見されます、
しかし、例えば補助率1/2で総事業費11億円という投資額も十二分に巨額の投資であり、まして現行体制のまま、いわゆる「カントリーリスク」に晒されながらも先細る時を待つよりも前向きな取組なのではないでしょうか。この枠を活用して国内回帰したいとの意欲を持たれた経営者の方もきっとおられるでしょう。

事業再構築補助金の他の申請類型と同じく、実際に具体化する手続は、本来業務に追われる経営者や幹部の方々だけで円滑に進めるのは難しいものです。特に、サプライチェーン強靭化枠については、準備する事項や作成書類が多くあるため、できる限り早い段階で着手する必要があります。

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執筆者:池谷 陽平、監修:中小企業診断士 居戸 和由貴

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この記事を書いた人

【中小企業診断士】
生命保険会社、人材会社、戦略コンサルタント会社での経験を経て、2021年に中小企業診断士として独立。強みであるマーケティングとテクノロジーを軸に、中小企業の売上拡大を目的として活動

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