「ものづくり補助金」の概要と事例

ものづくり補助金とは、「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」の略称であり、中小・中堅企業の事業拡大のための革新的な投資を支援するものです。他の補助金との位置づけの違いについては、下表をご覧ください。

補助金の種類補助金の位置づけ支給額経営改革
の程度
事業再構築補助金コロナ後を見据えた事業再構築が必要
ものづくり補助金事業拡大のための「改革的」な投資が必要大〜中大〜中
IT導入補助金簡易な電子ツールがすでに導入されている中〜小中〜小
小規模持続化補助金まだIT化されていない

本記事では、ものづくり補助金の概要を簡単に紹介した後に、実際の採択事例を5つ取り上げます。ものづくり補助金に興味はあるが、どのように活用したらいいかわからない方は、ぜひ参考にしてください。なお、最新の情報は中小企業庁の特設サイトで確認していただきますようお願いいたします。

参考:全国中小企業団体中央会「ものづくり補助金総合サイト」

目次

ものづくり補助金とは?

ものづくり補助金の目的

ものづくり補助金の公募要領(9次締切)では、ものづくり補助金について以下のように記述してあります。

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金は、中小企業・小規模事業者等が今後複数年にわたり相次いで直面する制度変更(働き方改革や被用者保険の適用拡大、賃上げ、インボイス導入等)等に対応するため、中小企業・小規模事業者等が取り組む革新的サービス開発・試作品開発・生産プロセスの改善を行うための設備投資等を支援するものです。

また、特別枠として低感染リスク型ビジネス枠を設けています。

また、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け、社会経済の変化に対応したビジネスモデルへの転換に向けた新型コロナウイルスの影響を乗り越えるために前向きな投資を行う事業者に対して、通常枠とは別に、補助率を引き上げ、営業経費を補助対象とした「新特別枠」として低感染リスク型ビジネス枠を新たに設け、優先的に支援します。

以下の図を見ればわかるように、ここ数回の公募では採択率が増加しており、事業再構築補助金に次いで、中小企業の経営革新を大きく支援する補助金になっています。

出展:データポータル|ものづくり補助事業公式ホームページ ものづくり補助金総合サイト

補助対象事業の類型

ものづくり補助金の対象事業の類型としては3つあり、それぞれの補助金額と補助率は下表の通りです。

類型補助金額補助率
一般型100万円〜1,000万円通常枠:1/3、2/3(小規模企業者・小規模事業者)
低感染リスク型ビジネス枠:2/3
グローバル展開型1,000万円〜3,000万円1/2、2/3(小規模企業者・小規模事業者)
ビジネスモデル構築型100万円〜1億円1/2(大企業)、2/3(それ以外の法人)

ほとんどの中小・中堅企業は、上記のうち一般型に該当すると思われます。

ものづくり補助金の要件

ものづくり補助金に採択されるには、以下の3つの条件を全て満たす3〜5年の事業計画を策定する必要があります。

・給与支給総額を年率平均1.5%以上増加
・事業場内最低賃金を地域別最低賃金+30円以上の水準にする
・事業者全体の付加価値額を年率平均3%以上増加

また、低感染リスク型ビジネス枠では、補助対象経費全額が以下の3つの要件のいずれかに合致しなくてはなりません。

・物理的な対人接触を減じることに資する革新的な製品・サービスの開発
・物理的な対人接触を減じる製品・システムを導入した生産プロセス・サービス提供方法の改善
・ウィズコロナ、ポストコロナに対応したビジネスモデルへの抜本的な転換に係る設備・システム投資

グローバル展開型は、下図のいずれかに該当する必要があります。

ものづくり補助金の採択事例

ここでは、ものづくり補助金の採択事例を5つ紹介します。下図(ものづくり補助金申請者の業種)を見ればわかるように製造業の申請が多いため、今回は製造業の事例を選定しました。

出展:データポータル|ものづくり補助事業公式ホームページ ものづくり補助金総合サイト

事例1:NC機械による箔押し技術への設備投資(小林製本株式会社)

箔押しをした上製の表紙をつけた報告書の作成とその納品は、建設業界を中心に一定の需要があります。小林製本では、既存の箔押し技術の限界を感じたため、海外製のコンピューター彫刻機(GRAVOGRAPH IS400)を導入して独自に新技術の開発を行ってきました。しかし、この機械は作業にとても時間がかかることがボトルネックです。そこで、GRAVOGRAPH IS400を3台、画像処理ソフトを一式、画像処理用コンピュータ1台を導入。箔押しの経験が浅い人でもきれいに仕上げることができる上、作業時間が飛躍的に短縮されたため、試作開発を行う余裕と新規案件を受注する生産余力を作ることに成功しました。その結果、訪日外国人需要獲得のための施策に注力でき、今後の需要増へ先手を打つことができた。

事例2:有機EL光源デザイン照明へのファイバーレーザー溶接機の導入(有限会社英照明)

昨今、LED照明に代わり有機EL照明が注目されています。その中で、高級志向のデザイン性が高いものの需要が増えており、それを実現するための溶接技術が必要とされています。そこで、これまでのTIG(タングステン・イナート・ガスアーク)溶接機ではなく、WEL-KEN社製のファイバーレーザー溶接機を導入しました。その結果、ファイバーレーザー溶接の技術習得に一定の時間がかかったものの、その特徴を生かしたデザインで施策開発を行い、照明器具メーカーから高い評価を獲得。将来的に需要の増加が見込まれる市場に対して、適切な設備投資を行うことができました。

事例3:マスカスタマイズ切削加工へのIoT・ロボットシステムの実現(株式会社クライム・ワークス)

多品種少量生産を最大効率で切削加工するために、切削ワークの自動ハンドリング用ロボットと対応するマシニングセンタを導入しました。また、全ての加工設備に稼働状況を監視するセンサーを設置、稼働状況を5分単位で24時間監視可能なIoTシステムを導入し設備状況の見える化を実現。その結果、前年比20%の生産性向上、10%の作業者の緊急対応低減を達成することができました。現在は、導入した設備の機能を生かした、さらなる効率化の実証段階へと進んでいます。

事例4:薄物加工や0.2mmの細穴加工への設備投資(株式会社トウト工機)

トウト工機では、NC旋盤加工を主力として、高精度・高品質はもちろんのこと、薄肉・薄物といった高難易度の製品も数多く手がけています。今回、競合他社でも対応が難しいとされる細穴加工を可能とするオークマ社製のマシニングセンタMB-56VBを導入しました。これによって、加工時間は従来の機械と比べ約3割を短縮することが可能に。また同社では、高い技術力を武器に観賞用のメタルけん玉や、ペットのアルミ製骨壺など、ユニークな自社製品も開発しており、競合他社にはない柔軟性も魅力となっています。

事例5:生産システムのデジタル化による医療向け組み立て製品のリードタイム短縮(株式会社浜野製作所)

医療関係向け業界に多く見られる「工程が複雑で、部品点数が多く、少量多品種の医療向け組み立て製品」を対象に、顧客ニーズである短納期・多品種対応を実現するため、生産システムのデジタル化のための設備投資を実施しました。具体的には、各現場に進捗管理のための端末を配置、見積用ソフトおよびCAD/CAMシステムを生産管理システムとリンク、Excel管理の作業手順情報を生産管理システムの製品マスタデータへと移行。その結果、医療関連メーカーの販売拡大の見込みが拡大し、医療以外の分野においても、新たな方式の風力発電機や材料研究で使用される装置など、受注が増加しました。

まとめ:ものづくり補助金を活用するために

本記事では、ものづくり補助金について事例を中心に紹介しました。中小・中堅企業の経営者の皆様は、事業再構築補助金をはじめとする他の補助金も検討しつつ、ものづくり補助金についてもぜひ有効活用していただきたく思います。今回は5つの事例を取り上げましたが、ポータルサイトのコンテンツが充実しているので、自社のロールモデルになるような事例がないかどうか一度、検索してみることをおすすめします。

参考:ものづくり補助事業 成果事例のご紹介

執筆:師田賢人

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この記事を書いた人

【Harmonic Society株式会社 CEO】
外資系コンサル、Webエンジニア、Webライター、フォトグラファーを経て、2023年にHarmonic Society株式会社を設立。企業の経営の悩みを言葉で解決している。一橋大学商学部卒。

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