不動産業界の開業時に活用できる補助金や助成金について~中小企業・個人事業主も活用できるチャンスです~

不動産業を開業するためには、店舗や事務所の費用以外にも登録料や供託金など、多額の資金が必要になります。しかしその際に活用できる補助金や助成金を知っておくと、自己資金だけに頼らずに事業を開始することができます。 不動産業において活用できる補助金には一体どのようなものがあるのでしょうか。

目次

不動産業界における補助金の概要

不動産業を開業するためには、多額の資金が必要になります。

開業のための資金をすべて自分で準備することがむずかしいこともあるでしょう。

また、事業が軌道に乗るまでは何かと心配なことも多いため、十分な運転資金を用意しておくことも必要です。

そこで紹介したいのが、不動産業を開業する際にも利用できる補助金や助成金の存在です。

国や自治体が様々な補助金や助成金を用意しているので、活用できるものはしっかりと活用して役立てていきましょう。

不動産業の開業にかかる費用はいくら?

不動産業の開業にはおおよそいくらぐらいの資金が必要なのでしょうか?

簡単にまとめたいと思います。

まず、不動産業を営むためには供託金を収める必要があります。

供託金には営業保証金と弁済業務保証金の2種類があり、どちらかを必ず供託しなければなりません。

不動産業というのは非常に大きな金額を扱う事業のため、何かトラブルがあった際には、その解決のための損害賠償金を供託金から使用する形になります。

一般の消費者や業者同士が取り引きをする際に何かあっても安心できるよう、不動産業者には供託金の預け入れが義務付けられています。

では、その2種類の供託金についてまとめてみましょう。

供託金(保証金)

①営業保証金

不動産業の開業時に、法務局へ供託します。

営業保証金の場合、主たる事務所(本店など)の供託金は1,000万円、その他の事務所(支店など)の供託金は1ヶ所につき500万円です。

この供託所に収めた供託金の金額が弁済できる上限額になります。

ちなみに、営業保証金を供託する場合、現金以外に有価証券で支払うことも可能になっています。

②弁済業務保証金

全日本不動産協会・全国宅地建物取引業協会連合会(宅建協会)へ加入して、保証協会へ供託します。

その金額は、主たる事務所(本店など)の供託金は60万円、その他の事務所(支店など)の供託金は1ヶ所につき30万円です。

営業保証金と比べると多額の金額が抑えられるため、よく利用されています。

全日本不動産協会・全国宅地建物取引業協会連合会(宅建協会)への加入は任意なのですが、営業保証金の供託が免除になるほかにも、会員同士のつながりができて情報を共有できたり、講習会に参加できたり、事業に対する助言や相談に乗ってもらえたりもするので、メリットが大きいです。

一般的には不動産業を開業する場合は、全日本不動産協会・全国宅地建物取引業協会連合会(宅建協会)に加入することが多くなるでしょう。

宅建協会への入会金・年会費

宅建協会に加入すると営業保証金の支払いが免除されるため、加入することが一般的になると思われます。

ただし加入するためには入会金・年会費の支払いが必須です。

各地域の協会によって金額は変わるのですが、およそ100万程度の支払いが必要になるでしょう。

そのため、主たる事務所(本店など)の場合だと供託金と合わせて160万程度、その他の事務所(支店など)の場合は供託金と合わせて80万程度の資金が必要になります。

事務所の設置費用

地域や場所、その規模にもよりますが、それなりの出費があると思われます。

事務所を借りて契約する場合は敷金・礼金・内装の工事や改装費なども必要ですし、その他OA機器やオフィス家具(デスクなど)も揃えなければなりません。

ちなみに基本的に必要な資金は、事務所や店舗を借りる際には「敷金6ヶ月・礼金2ヶ月」、内装のための費用が2ヶ月以上の、「賃料10ヶ月~1年分」が目安とされています。

もちろんどれだけお金をかけるかは個人や事務所の規模によるのですが、最低限必要な資金の目安として覚えておくといいでしょう。

また、最近はネット環境の充実に伴い、自宅で開業するパターンも増えています。

ただし自宅で開業するにも「宅建業法」にて条件がありますので、開業する際には要件を満たしているじゃ確認するようにしましょう。

登録免許申請料

2以上の都道府県で営業をする場合は、国土交通大臣免許の新規登録が必要です。

国土交通大臣免許:90,000円 更新の際には収入印紙33,000円が必要

1つの都道府県のみで営業する場合は、都道府県知事免許になります。

都道府県知事免許:33,000円 更新の際には収入証紙33,000円が必要

その他の費用

細かい費用だと、事務用品費や社用車の用意、人件費、光熱費やリース料などの維持費、当面の運転資金なども必要でしょう。

以上が、不動産業を開業するにあたって、おおよそ必要になる費用になります。

事業の規模や場所、内容にもよりますが、おそらく数百万から1千万ほどの資金が必要になるでしょう。

自己資金で用意できる見込みがなければ、開業する人に向けた補助金や助成金を利用することも視野に入れて考えていきましょう。

不動産業の開業に利用できる補助金・助成金について

ここからは、不動産業の開業に利用できる補助金・助成金について紹介します。

その前にまず、補助金と助成金との違いについて説明しましょう。

補助金と助成金の違い

補助金も助成金も、国や自治体から給付されるお金で、金融機関からの融資のように返済する必要はありません。そのため、活用できると資金繰りがかなり楽になるでしょう。

では、この2つはいったい何が違うのでしょうか?

補助金は、主に経済産業省、または地方自治体から支給されます。主な目的は、企業における事業の支援や推進になります。

また、補助金は国や自治体の政策に則った事業に対して給付されるもので、基本的には審査があります。もちろん審査に通らないこともあり、そうなると給付されません。

助成金は、主に厚生労働省、または地方自治体から支給されます。主な目的は、企業の雇用促進や、労働環境の改善などです。

助成金は補助金のような審査はなく、基本的には要件を満たせば給付されることになります。そのため、補助金よりも受給しやすいと言えるでしょう。

不動産業の開業時に活用できる補助金

IT導入補助金

中小企業や小規模事業者が対象になります。情報技術の導入や活用を促進するために、経済産業省が提供している補助金制度です。

具体的には、パソコンやソフトウェアの本体費用、クラウドサービスの導入費用、インターネット回線などの導入費用などが挙げられます。

そういったITツールの導入費用の、最大1/2の金額が補助されることになります。

IT導入補助金は、IT化による企業の業務効率化やビジネスの展開など、中小企業や小規模事業者の事業力を高める支援が目的です。

不動産業では、賃貸物件や売買物件の、管理物件などの管理システムや、管理ソフトの導入などに使用することができるでしょう。

通常枠として、A類型(補助額:30万~150万未満)とB類型(補助額:150万~450万以下)の2種類があり、それぞれ業務工程や業務種別のプロセス要件を満たす必要があります。そのほかに特別枠も用意されています。

詳しくは、経済産業省のサイトを確認するようにしましょう。

IT導入補助金とは | 経済産業省 中小企業庁 (mirasapo-plus.go.jp)

②小規模事業者持続化補助金

その名の通り、小規模事業者が対象になります。

対象となる企業は、従業員数が20人以下の法人か個人事業主、また、宿泊業や娯楽業を除く商業・サービス業の場合は従業員数5人以下の法人もしくは個人事業主、という基準になります。

事業の販路拡大や生産性向上に取り組むための費用に対して支払われます。

補助金の上限は、かかった費用の最大2/3の金額です。(※赤字事業者は最大3/4の金額)

不動産業では、ホームページやWEBサイトの作成費、チラシの作成費、店舗や事務所の改装費用などが対象になるでしょう。

小規模事業者持続化補助金には「通常枠(上限50万)」「インボイス枠(上限100万)」「賃金引上げ枠・卒業枠・後継者支援枠・創業支援枠(上限200万)」の3つの枠に分かれています。

詳しくは経済産業省のサイトを確認しましょう。

小規模事業者持続化補助金 採択結果 | 経済産業省 中小企業庁 (mirasapo-plus.go.jp)

③事業再構築補助金

ポストコロナや長引くウィズコロナ時代における経済社会の変化に対応するための、企業の思い切った事業再構築を支援する補助金です。

対象は個人事業主や中小企業、中堅企業等になります。

新たな事業を始めるための経費や、事業の再編のためにかかる費用に対して支払われます。

不動産業だと、他業種から新たに不動産事業に参入する場合にかかる費用や、そのための内装工事費やシステム導入費、広告宣伝費などが対象になります。

(例:宿泊業者が、テレワークの普及に伴って一部の建物をコワーキングスペースに改装。   そこを貸し出すことでシェアオフィスの事業を始める等)

ただし、対象外となるものもあるため注意が必要です。

※対象外になる費用

・新たな不動産の購入費・仲介手数料(建設費、リノベーション費用は対象になり得る)

・従業員の人件費

・従業員の旅費

・汎用品の購入費

こちらは対象外なので気を付けるようにしましょう。

また、事業再構築補助金を申請するには必須条件が設けられています。

・事業計画について認定経営革新等支援機関や金融機関の確認を受けること

・補助事業終了後3~5年で付加価値額の年率平均3~5%(申請枠により異なる)以上増加、または従業員1人当たり付加価値額の年率平均3~5%(申請枠により異なる)以上増加の達成

この必須条件に加えて、それぞれの申請枠によって定められた要件をさらに満たす必要があります。

申請枠は、「成長枠」「グリーン成長枠」「卒業促進枠」「大規模賃金引上促進枠」「産業構造転換枠」「サプライチェーン強靭化枠」「最低賃金枠」「物価高騰対策・回復再生応援枠」の8つに分かれています。

それぞれの要件、補助額、補助率など、詳しくは経済産業省のサイトにて確認するようにしましょう。

事業再構築補助金 【随時更新】 | 経済産業省 中小企業庁 (mirasapo-plus.go.jp)

④キャリアアップ助成金

キャリアアップ助成金とは、企業の非正規雇用労働者(有期契約社員や短時間労働者、派遣社員など)における社内での、キャリアアップを促進するための助成金です。

非正規雇用労働者を正社員化したり、処遇を改善する取り組みを実施した企業に対して、国から助成金が支払われます。

対象となる企業は中小企業や個人事業主です。

助成金額は企業の規模やコースによって異なり、7つのコースが設定されています。

①正社員化コース

②賃金規程等改定コース

③健康診断制度コース

④賃金規程等共通化コース

⑤諸手当制度共通化コース

⑥選択的適用拡大導入時処遇改善コース

⑦短時間労働者労働時間延長コース

※それぞれのコースの詳細な条件や助成額については厚生労働省のサイトを確認しましょう。

キャリアアップ助成金|厚生労働省 (mhlw.go.jp)

キャリアアップ助成金は、企業内での非正規雇用労働者のキャリアアップを促進するために設けられた制度です。

この制度を活用することによって、労働者の意欲向上、能力の向上、そしてそれが事業の生産性の向上へとつながることを目的にしています。また、事業主にとっても、助成金を使って優秀な人材の確保ができるという利点もあります。

まとめ

以上が、中小企業・個人事業主等の不動産業者が活用できる代表的な補助金・助成金制度になります。

補助金や助成金を受け取るためには、それぞれの制度に応じた条件や手続きが必要です。

また、補助金・助成金制度は定期的に見直され、改正や廃止が行われることもあるため、最新の情報を把握することが重要です。

また、これ以外にも不動産業者が活用できる補助金・助成金制度は多岐にわたるため、それぞれの企業の状況やニーズに合わせて適切な制度を選択し、活用することを心掛けましょう。

また、補助金を受け取るためには、各種書類や報告書の提出、それに伴う審査などが必要になることがあります。手続きや申請には時間やコストがかかることがありますが、効果的に補助金を活用することで、新規事業の立ち上げや業務拡大などに向けての資金調達をサポートすることができるでしょう。

さらに、補助金制度に関する情報は、地方自治体や商工会議所などが提供する相談窓口やホームページから入手できることもあります。

中小企業診断士や金融機関などの専門家に相談することもおすすめです。

こうした情報を収集し、積極的に補助金・助成金制度を活用して事業の安定やさらなる発展に役立てていきましょう。

執筆者:ライター いしげまやこ 監修:中小企業診断士 居戸和由貴

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この記事を書いた人

【中小企業診断士】
生命保険会社、人材会社、戦略コンサルタント会社での経験を経て、2021年に中小企業診断士として独立。強みであるマーケティングとテクノロジーを軸に、中小企業の売上拡大を目的として活動

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