介護施設の経営に補助金・助成金を活用するメリットとは?具体的な制度も紹介

介護施設の経営安定化に役立つ施策に、補助金・助成金の活用が挙げられます。補助金・助成金を活用すると、介護施設は費用負担を軽減しながら、現場環境の改善や介護職員の確保や育成に着手できるからです。

この記事では、介護施設の経営に補助金・助成金を活用するメリットを解説します。介護施設が活用できる制度も紹介しますので、介護施設経営者の方はぜひご覧ください。

目次

はじめに厚生労働省が実施した介護事業経営実態調査※の結果をもとに、介護施設の経営実態を解説します。

※介護事業者の経営状況を把握するため、3年に1回の頻度で全国の介護サービス事業者を対象に行う調査のこと

同調査では、介護サービス別の収支差率を確認できます。収支差率とは、売上金額に対する利益の割合のことです。収支差率の数値が大きければ利益は大きくなり、数字がマイナスの場合は赤字となります。

収支差率の計算式はこちらです。

収支差率=(介護サービスの収入額-介護サービスの支出額)÷介護サービスの収入額

参照:厚生労働省|令和5年度介護事業経営実態調査結果の概要(案)各介護サービスにおける収支差率

「令和5年度 介護事業経営実態調査結果の概要」によると、令和4年度決算におけるすべての介護サービスの平均収支差率は2.4%でした。この数値は令和3年度決算の2.8%を下回る結果となります。

サービス別の収支差率を確認すると、施設サービスにおいて収支差率の低下が顕著にみられます。介護老人福祉施設(特別養護老人ホーム)は、令和3年度の1.2%に対して令和4年度は-1.0%と2.2ポイントのマイナスです。介護老人保健施設は、令和3年度1.5%なのに対して令和4年度は-1.1%と2.6ポイントのマイナスという結果になりました。

参照:厚生労働省|令和5年 介護事業経営実態調査結果の概要

介護施設の経営課題

介護施設の経営課題に介護現場の人手不足が挙げられます。

公益財団法人 介護労働安定センターが調査した「令和4年度 介護労働実態調査」の結果をみてみましょう。

同調査では、介護事業所における『人材の不足感』に関するアンケート調査が行われました。それによると、介護職員の不足感について、「大いに不足」「不足」「やや不足」と回答した事業所は全体の69.3%[1] 。一方、「適当」「過剰」とした回答割合は全体の30.7%[2] と、不足を感じている事業所が多いという結果になりました。特に訪問介護員に不足感を感じている回答割合は83.5%[3] と高い数値を示しています。

引用:公益財団法人 介護労働安定センター|令和4年度「介護労働実態調査」結果の概要について

さらに、厚生労働省が発表した「第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」では、2023年度に約233万人の介護職員が必要という試算が出ています。2025年度には約243万人の介護職員が必要という試算が出ており、今後も介護の担い手が社会に必要なことがわかります。

引用:厚生労働省|第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について

こうした背景を踏まえると、これからの介護施設が安定した経営を実現するためには以下の2点が重要だと考えられます。

  • 介護の担い手を確保して利用者に切れ目なく介護サービスを提供すること
  • 介護職員を育成して質の高いケアを提供すること

上記の項目を達成するためには、新たな人材を確保・育成することや介護現場の環境を改善して既存の職員が負担に押しつぶされないようにすることが大切です。

介護施設が補助金や助成金を活用することで、費用負担を軽減しながら、働きやすい職場づくりや職員の確保・育成に取り組めるようになります。補助金・助成金を活用する3つのメリットを解説します。

働きやすい環境作りの実現

補助金・助成金を活用する1つ目のメリットは、ITツールを導入して介護職員が働きやすい環境作りに取り組めることです。

例えば、IT導入補助金[4] [5] の通常枠を活用すると、ソフトウェアの購入費用、クラウド利用費、導入関連費用に対して最大450万円の補助を受けられます。

ソフトウェアには、介護ソフトやコミュニケーションツールなどの業務効率化に役立つツールが該当します。介護施設は、経費を抑えながら介護職員の負担軽減や業務効率化を目指せるわけです。

参照:IT導入補助金2024|ITツール活用事例

参照:IT導入補助金2024|ITツール活用事例 施設運営マネジメントのデジタル化で業務負担軽減

介護職員が働きやすい環境を構築して、職員の定着率アップや利用者満足度の向上を目指しましょう。

人材確保・人材育成に対する無理のない投資

補助金・助成金を活用する2つ目のメリットは、人材確保や人材育成に対して、無理のない投資が可能になることです。

例えば、厚生労働省が管轄する雇用関係助成金には、事業主(介護施設)が一定の要件を満たすことで、助成を受けられる制度などがあります。

同制度には、介護職員の確保や育成に活用できる制度が複数存在しています。介護施設はこうした助成金を活用することで、職員の確保や育成に投資する経費を軽減できます。

参照:厚生労働省|事業主の方のための雇用関係助成金

利用者満足度の向上による利益率アップの達成

補助金・助成金を活用する3つ目のメリットは、利用者満足度を高めて、利益率アップを目指せることです。

施設側が、介護職員が働きやすい環境作りや人材確保・育成に取り組んだ場合、介護職員のパフォーマンス向上を期待できます。

その結果、質の高いケアを提供できるようになり、利用者満足度の向上を実現できるのです。さらに利用者の家族や担当のケアマネージャーからの高評価も獲得しやすくなります。

そうして、より多くの方が利用してくれるような地域に選ばれる施設になれば、大幅な利益拡大も見込めるのです。

では、介護施設が活用できる補助金・助成金にはどのような制度があるのでしょうか。ここでは、以下の補助金と助成金を紹介します。

  • ICT導入支援事業補助金
  • IT導入補助金
  • 業務改善助成金
  • 雇用関係助成金

それぞれの概要や施設側のメリット等をみていきましょう。

ICT導入支援事業補助金

ICT導入支援事業補助金とは、介護事業所がICTを導入する際に、導入経費の一部を補助する制度です。

補助金額は、職員数(常勤換算)が1名以上10名以下の場合で上限100万円です。職員数が一定数以上になると区分が上位に変更され、補助上限額も引き上げられる仕組みとなります。

ICT導入支援事業補助金の補助対象はこちらです。

  • 情報端末
  • 介護ソフト等
  • 通信環境機器等
  • 保守経費等
  • バックオフィス業務のソフト導入にかかる経費

参照①:愛知県|介護事業所ICT導入支援事業

参照②:大阪府|2023年8月版 令和5年度 大阪府ICT導入支援事業 補助金交付申請等の手引き

介護施設がICT導入支援事業補助金を活用することで、費用負担を抑えながら介護現場の環境改善に取り組めます。

例えば、紙ベースで介護記録を管理している介護施設なら、介護ソフトを導入して介護記録のデジタル化を推進できます。

手元のスマートフォンやタブレット端末から、ケア内容を記録する仕組みを導入すれば、介護職員は同じ記録を別の用紙に転記する必要がなくなります。また、共有機能を持つツールを導入すれば、介護職と看護職の他職種連携もスムーズに進むでしょう。利用者のADLやケア内容を共有することで、より質の高いケアの実現を効率的に目指せます。

なお、ICT導入支援事業補助金は、地域医療介護総合確保基金※により各都道府県が実施している制度です。

※医療・介護従事者の確保や勤務環境の改善等を目的として、消費税増収分を活用した基金のこと

参照:厚生労働省|医療と介護の一体的な改革 地域医療介護総合確保基金

IT導入補助金

IT導入補助金は、中小企業や小規模事業者を対象に、業務効率化やDXの推進、セキュリティ対策に向けたITツール等の導入経費の一部を補助する制度です。正式名称は「サービス等生産性向上IT導入支援事業補助金」といいます。

IT導入補助金の補助率は1/2以内となり、最大補助額は450万円です。

介護施設の場合、業務効率化を目的とした介護ソフトの導入、オンラインでのコミュニケーション促進を目的としたタブレット端末や通信機器の導入が補助対象となります。

先ほどのICT導入支援事業補助金と同様に、介護現場の環境改善を図るための介護ソフトの導入も補助対象と考えられます。IT導入補助金の詳しい採択事例は、以下のページで確認できます。

参照①:IT導入補助金2024|ITツール活用事例 施設運営マネジメントのデジタル化で業務負担軽減

参照②:独立行政法人 中小企業基盤整備機構|事例紹介 「福祉はチーム!」ITを導入して高まる結束力

なお、ICT導入支援事業補助金は、都道府県によって申請開始されていないケースがあります。もしも施設所在地の都道府県でICT導入支援事業補助金が申請開始されていない場合は、IT導入補助金の活用を検討してみてはいかがでしょうか。

業務改善助成金

業務改善助成金は、生産性向上・労働能率の増進に資する設備投資等にかかった費用の一部を助成する制度で、医療・福祉に関する経費も助成対象としています。

事業所内で最も低い賃金を30円以上引き上げて、生産向上に資する設備投資等を行った場合に助成の対象となります。

業務改善助成金の最大助成額は450万円※です。助成率は申請前の事業所の最低賃金額によって異なります。申請前事業所の最低賃金額が900円未満の場合は、かかった費用の9/10が助成されます。

※下表の90円コースで7人以上の労働者の最低賃金を引き上げた場合

引用:厚生労働省|業務改善助成金

介護施設の場合、福祉車両の導入が送迎時間の短縮につながったケースが助成対象となります。例えば、デイサービスにリフト付き送迎車両を導入して、送迎時間を短縮したり送迎スタッフを削減できたりした場合、助成要件を満たすと考えられます。

参照:厚生労働省|業務改善助成金種別事例集(医療・福祉編)

送迎時間の短縮は、送迎車に乗車する利用者の負担を軽減できます。また、送迎スタッフが早く事業所に戻れるようになれば、空いた時間を記録業務にあてたりミーティングしたりできるため、現場の生産性向上も期待できるのです。

雇用関係助成金

雇用関係助成金は、厚生労働省が定めた人材の雇用に関する条件を満たすことで、助成を受けられる制度です。

介護施設が雇用関係助成金を活用することで、介護に従事する職員の雇用や育成につなげられます。

例えば、「キャリアアップ助成金」を活用すると、有期雇用労働者(契約社員、派遣社員など)を正社員に登用した場合に、中小企業で最大80万円、大企業で最大60万円の助成を受けられます。

参照:厚生労働省|キャリアアップ助成金のご案内(令和6年度版)

ほかにも「両立支援等助成金」を活用すると、介護職※が育休を取得した場合に30万円の助成を受けられます。介護職が職場復帰した際も同じく30万円の助成金を中小企業の事業主が受け取れるのです。

※無期雇用者、有期雇用労働者各1人に限る

参照:厚生労働省|両立支援等助成金(令和6年度)

介護業界は、他の業界に比べて働く女性の割合が高い業界です。こうした制度を活用することで、多くの介護職員が安心して働ける職場を実現できるでしょう。

なお、雇用関係助成金の主な受給要件がこちらです。

  • 雇用保険適用事業所であること
  • 雇用保険被保険者にあたる従業員が在籍していること
  • 法令に違反していないこと
  • 支給のための審査に協力すること

助成金によって個別の要件が設置されている場合もあります。申請の際は、必ず申請要件を確認しましょう。

介護施設が補助金・助成金を活用する際の注意点は、制度の調査や申請書類の作成に時間がかかることです。

補助金や助成金には必ず申請要件が存在するため、まずは自社施設が要件を満たしているか確認しなくてはいけません。

また、補助や助成を受けるためには書類を揃えて不備がないように必要事項を記載する必要があります。

介護施設では、事務職員が介護報酬にかかる請求業務を担当しているケースが多いでしょう。そのため、同じ事務職員に補助金・助成金の導入を任せた場合、担当者の負担が増大するおそれがあります。

介護施設が補助金・助成金を活用するメリットは、費用負担を抑えながら、介護職員が働きやすい環境作りや人材確保・育成に取り組めることです。

介護職員が生き生きと働ける環境を作り上げることができれば、よりよいケアの提供につながり、結果的に自社施設の利益拡大を実現できるでしょう。

ただし、補助金や助成金には申請要件が存在するほか、補助を受けるためには採択を受ける必要があります。つまり、補助金や助成金を受け取るまでにある程度の人手や労力が必要となるのです。

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無料でのご相談を承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。

執筆者:千葉 拓未

監修者:Harmonic Society株式会社 代表取締役兼CEO 師田 賢人、中小企業診断士 居戸 和由貴


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この記事を書いた人

【中小企業診断士】
生命保険会社、人材会社、戦略コンサルタント会社での経験を経て、2021年に中小企業診断士として独立。強みであるマーケティングとテクノロジーを軸に、中小企業の売上拡大を目的として活動

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