近年、介護業界では、厚生労働省主導のもと、ICT(情報通信技術)の普及や開発が推進されています。その理由は、現場の業務負担軽減と介護サービスの質向上を図り、介護人材不足に対処するためです。
では、介護施設の人材不足にICTはどのように役立つのでしょうか。この記事では、介護施設の人材不足にICTが役立つ理由と具体例を紹介します。また、ICT導入の際に活用できる補助金も解説します。
介護業界における人材不足の現状
はじめに介護業界における人材不足の現状をみていきましょう。
厚生労働省が令和6年に公表した「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」によると、都道府県が推計した介護職員の必要数の合計(※)は、2026年度に約240万人に達する見込みであることがわかりました。2022年度の介護職員の必要数は約215万人のため、およそ25万人の介護職員が必要となります。
画像元:厚生労働省|第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について
介護職員の必要数は年々右肩上がりになっており、今後も介護人材の確保は多くの介護施設の経営課題となるでしょう。
続いて、公益財団法人 介護労働安定センターが公表している「令和5年度 介護労働実態調査結果」を紹介します。
同調査では、介護事業所に対して、従業員の過不足感に関するアンケート調査を実施。その結果、訪問介護職員の不足感について、「大いに不足」「不足」「やや不足」と回答した事業所は、全体の81.4%という高い数値を示していました。また、介護職員の不足感について、「大いに不足」「不足」「やや不足」と回答した事業所は全体の66.0%にのぼりました。
画像元:公益財団法人 介護労働安定センター|「令和5年度 介護労働実態調査結果」
こうした背景をふまえると、介護業界における人材不足は今後も続いていくと予想されます。
※介護職員の必要数(約240万人・272万人)については、足下の介護職員数を約215万人として、市町村により第9期介護保険事業計画に位置付けられたサービス見込み量(総合事業を含む)等に基づく都道府県による推計値を集計したもの
介護施設の人材不足にICT化が役立つ理由
介護施設の人材不足を解決する手段としてICTの活用が挙げられます。ICT導入によって実現可能な施策をみていきましょう。
介護ソフトで記録業務を効率化
介護ソフトとは、介護施設や事業所の業務を支援するソフトウェアを指します。主な機能は以下のとおりです。
- 介護報酬請求の作成支援や入金管理
- 介護計画書の作成支援や予実管理
- 介護記録の作成支援
- 職員のシフト管理など
従来の介護ソフトは、介護報酬請求をサポートするものがほとんどでした。しかし、現在の介護ソフトは、介護記録に関する作成支援や管理機能も充実しており記録業務の効率化に役立ちます。
例えば、クラウド型の介護ソフトを導入した場合、手元のスマートフォンから提供したケアの内容を記録できるようになります。入力したケア記録は介護ソフトで管理されるため、後からデータの修正や閲覧も可能です。
このように介護ソフトを導入することで、現場の記録業務を効率化できます。記録業務の効率化は介護職員の負担軽減につながるため、結果的に人材不足の解決に役立つのです。
介護ロボットで現場スタッフの負担を軽減
介護ロボットとは、ロボット技術を応用して利用者の自立支援や介護者の負担軽減に役立つ介護機器を指します。
介護ロボットの主な種類がこちらです。
- 移乗支援
- 移動支援
- 排せつ支援
- 見守りやコミュニケーション
- 入浴支援
- 介護業務支援
移乗支援や移動支援の介護ロボットを活用すると、介護職員は自身の腰や肩に大きな負担をかけずに安全に介助できるようになります。また、見守り支援の介護ロボットを導入すれば、介護事故の発生防止に役立つでしょう。
こうした介護ロボットの活用も、介護職員の負担軽減や介護サービスの質向上に効果的な施策です。
コミュニケーションツールでスムーズな情報共有を実現
コミュニケーションツールとは、介護現場の円滑なコミュニケーションを支援するシステムを指します。
具体的なツールがこちらです。
- チャットツール(ChatWork、Slackなど)
- ファイル共有システム
- 社内専用SNS
コミュニケーションツールを活用すると、オンライン上で必要なやり取りが可能になるため、介護現場のスムーズな情報共有を実現できます。介護現場でトラブルが発生しても、ツールを通じて迅速な「報連相」が可能になります。
また、介護職員が気軽に相談できる環境を構築すれば、新入職員も働きやすい風通しのよい職場を実現できるでしょう。
コミュニケーションツールを導入することで、介護サービスの質の向上や離職率の低下も期待できます。
介護施設のICT化に役立つ補助金
介護現場の人材不足解消にICTは有効ですが、導入や運用には一定のコストがかかります。介護報酬には上限が設けられているため、予算の問題からICT導入を躊躇する介護施設も少なくありません。
そこで、介護施設のICT化に役立つのが補助金の活用です。補助金を活用することで、介護施設は費用負担を軽減しながら、ICTを導入できるようになります。
例えば、「IT導入補助金」を活用すると、導入にかかる経費の一部に最大450万円の補助を受けられます。また、「ICT導入支援事業補助金」を活用すると、以下の項目に一定額の補助を受けられます。
- 情報端末(スマートフォンやタブレット)
- 介護ソフト
- 通信環境機器
- 保守経費等
- バックオフィス業務のソフト導入にかかる経費
さらに、介護保険外サービスを展開したい場合は「事業再構築補助金」がおすすめです。事業再構築補助金は、中小企業や小規模事業者を対象とした補助金で、「成長分野進出枠」では最大4,000万円の補助金が用意されています。
こうした補助金を活用することで、介護施設はICT導入にかかる経費に補助を受けながら、自社に必要なICTを導入しやすくなるのです。
介護施設のICT化に補助金を活用した事例
ここで介護施設のICT化に補助金を活用した事例をみてみましょう。
法人名:社会福祉法人 三恵会
介護施設の種類:特別養護老人ホーム
導入したICT:介護ソフト
社会福祉法人 三恵会は、補助金を活用して導入経費の一部に補助を受け、業界トップシェアの介護ソフトを導入しました。
介護ソフトの導入により、オンラインで業務が完結したりタブレット端末での連携操作が可能になったりした結果、現場からは「使い勝手がよくなった」という声があがったそうです。
インタビュイーの施設長の方は「作業工数は、これまでに比べて、1人当たり10分~20分ほど削減できているという実感はあります」と答えられています。
参照:IT導入補助金2024|施設運営マネジメントのデジタル化で業務負担軽減
介護ソフトの導入には一定の経費がかかります。しかし、補助金を活用することで導入のハードルを下げることが可能です。ICTの導入経費がネックになっているなら、補助金の活用を検討してみてはいかがでしょうか。
まとめ
介護施設のICT化を進めることで、介護施設は介護職員の負担軽減や利用者満足度の向上に取り組めます。さらに、補助金を活用することで、経費負担を減らしながらICT化を推進することが可能です。
自社の介護施設に適切なICTを導入して、介護職員や利用者から選ばれる介護施設を作っていきましょう。
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執筆者:千葉 拓未
監修者:Harmonic Society株式会社 代表取締役兼CEO 師田 賢人、中小企業診断士 居戸 和由貴