事業再構築促進事業の背景にある中小企業の置かれた状況と事業転換のモノサシ

国が大規模予算で進める中小企業等事業再構築促進事業の主力、「事業再構築補助金」は、経営革新の度合いと補助額の大きさから、注目度の高い補助金のひとつです。

<中小企業向けの注目度の高い補助金のポジショニングマップ>

出所:各補助金の公募要領をもとに執筆者作成

その主たる目的は「日本経済の構造転換」であり、日本の中小企業等には思い切った事業再構築を求められています。しかし、なぜ事業再構築(のための事業転換)を求められているのか、中小企業等が置かれた状況をふまえ、その背景をみていきます。

目次

事業転換が喫緊の課題に!?

現在の中小企業等の置かれた状況は、下記のように、ゆるやかな経済社会の環境変化に、コロナ禍が拍車をかけたことで、急速に事業転換を迫られています。

<中小企業等の置かれた状況の変化>

コロナ禍の前から、個人消費ニーズの多様化など、じわりじわりと経済社会の環境変化が起きていた

その環境変化からマイナスの影響を受けた業界・市場は、伸びしろ・利益ポテンシャルが徐々に低下

その結果、その業界・市場で展開していた既存事業が徐々に儲からなくなっていった(この時点では、事業転換が喫緊の課題だったとまではいえない)

新型コロナウイルスが発生し、環境変化のスピードが急激に加速

コロナ禍を契機に、伸びしろ・利益ポテンシャルの低い業界・市場に取り残された事業は、自助努力ではどうしようもないレベルにまで陥り、大幅な売上低下など、企業の存続が危うくなった

そのため、利益ポテンシャルの高い業界・市場への事業転換が喫緊の課題になりました。

新たな市場であればどこでもよいわけではない

構造的に難しい市場を脱出し、新たな市場での事業展開を目指すのはよいとして、その市場がレッドオーシャンでは意味がありません。
ブルーオーシャンの市場をみつけることが鍵です。

転換先の市場が良好な事業環境かどうかのモノサシ

転換先の市場が良好な事業環境であることを計るため、業界の構造分析法である「5フォースモデル」でみていきます。
業界の構造によって、上げられる利益の最大値が決められてしまうため、経営者や従業員が努力をしても、それ以上に利益をあげにくい、あるいは全く利益をあげられない業界が存在することを示しています。

利益ポテンシャルを左右する要因とは

業界・市場の利益ポテンシャルは、5フォースモデルの各要因によって、決定されてしまいます。

<5フォースモデル>

出所:「競争の戦略」(マイケル・E・ポーター著)をもとに執筆者作成

各要因について、やや一般論ですが、具体例や特徴と併せてみていきます。

業界内の敵対関係

業界内の敵対関係とは、自社が属している業界の競合他社との競争環境の激しさの度合いを意味します。
競争環境が激しい業界は魅力が低いといえます。

具体的には、以下のような特徴があります。

  • 競合企業の数が多数存在し、競合企業の規模が同程度である
  • 業界の市場成長率が低い
  • 業界内での差別化がきかない
  • スイッチングコストがかからない
  • 固定費が高いコスト構造 等

新規参入の脅威

新規参入の脅威とは、業界に新たに参入する可能性のある企業の度合いを意味します。
参入する企業が多ければ、業界の競争激化につながるため、業界の魅力は低下します。
この脅威の大きさは、参入障壁の高さによって左右されます。

具体的には、以下のような参入障壁があります。

  • 規模の経済、シナジー効果(が適用される業界)
  • 製品の差別化の程度が高い
  • 仕入先を変更するコストが大きい
  • 流通チャネルへのアクセスが難しい
  • 政府の規制 等

顧客(買い手)の交渉力

顧客(買い手)の交渉力とは、商品・サービスを購入する顧客が業界に対してもつ影響力の度合いを意味します。

供給者の交渉力は、以下のような場合に高まりやすいです

  • 顧客が商品・サービスに関して多くの情報をもっている
  • 商品・サービスが差別化されていない
  • 顧客にとって、その業界の商品・サービスが重要ではない
  • 顧客が仕入先を変えるコストが低い 等

供給者(売り手)の交渉力

供給者の交渉力とは、価格交渉など、売り手の交渉力の強さの度合いを意味します。
希少な原料を独占的にもつメーカーなど、売り手の力が強い場合、価格交渉で不利になって利益を逼迫させるため、業界の魅力は低下します。

供給者の交渉力は、以下のような場合に高まりやすいです

  • 供給業者の業界が寡占状態にある
  • その業界にとって、供給業者の商品・サービスに代替するものが存在しない
  • 供給業者にとって、その業界が重要ではない
  • 供給業者を変えるコストが高い 等

代替品の脅威

代替品の脅威とは、業界の商品・サービスと同じような機能をもつ商品・サービスによる代替性の度合いを意味します。
同じような機能の代替品が生み出しやすければ、その業界の商品・サービスの価値は低下するため、業界の魅力は低下します。

たとえば、

  • 携帯電話からスマートフォンへの代替
  • 刃のカミソリから電気シェーバーへの代替
  • CDから音楽配信プラットフォームへの代替 等

まとめ:経営者の志を途絶えさせないために

事業再構築には、単に新しい商品をつくればよいということではなく、競争する土俵を変えることが根底にはあります。
また、事業転換した先の市場が良好な環境であり、その市場で健全な利益を生み出す成長ができることが重要です。
そして、中小企業の置かれた状況をふまえ、事業転換において、その企業にとって望ましい転換先をご支援することが、中小企業診断士には求められています。

執筆者:中小企業診断士 居戸 和由貴

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この記事を書いた人

【中小企業診断士】
生命保険会社、人材会社、戦略コンサルタント会社での経験を経て、2021年に中小企業診断士として独立。強みであるマーケティングとテクノロジーを軸に、中小企業の売上拡大を目的として活動

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