ものづくり補助金第15次締切分公募での変更点|意外な影響も!?

中小企業や小規模事業者は、昨今の人手不足等、労働市場における構造的な変化に加えて、制度面でも、働き方改革への対応、被用者保険(労働契約を結んで雇用されている従業員が加入する健康保険)の適用範囲の段階的拡大、賃金の引上げ、インボイス制度の導入など、近い将来、現状を維持するだけの経営方針では乗り切れない可能性を持った環境が訪れるであろうことは厳しくも確かな現実と見込まれています。

そこで必要とされるのが、経営革新であり、生産性の向上です。ものづくり補助金は、まさに中小企業・小規模事業者が取り組む革新的な新サービスの開発、新商品(試作品)の開発、新しい生産方式の導入、サービスの新しい提供方式の導入といった、経営革新による生産性向上に必要となる設備投資等を後押し・支援する補助金事業です。

この記事では、早くも第15次締切分の公募を迎えたものづくり補助金が、前回と比較してどのような変更が加えられたのかを解説します。

さらに、やはり大型の補助金事業として並び立つ事業再構築補助金の第10回公募における変更に触れながら、ものづくり補助金に公募申請すべきケースとそうでない場合との違いについて若干の考察を加えます。

この記事を参考に、ぜひともイノベーティブな取組へと大きな一歩を踏み出す助けとしていただければ幸いです。

目次

ものづくり補助金第15次締切分公募でも引き継いでいる事項と、加えられた変更点

第14次締切分公募から変わらず引き継いでいる点

第14次締切分の公募内容と比較して、ものづくり補助金第15次締切分の公募内容には大規模な変更は加えられておらず、申請類型や補助上限額、補助率、基本的な補助要件等については大きく変わっていません。

付加価値額増加要件(ものづくり補助金)

事業計画期間において、事業者全体の付加価値額を年率平均3%以上増加させる事業計画を策定していること。

給与支給総額増加要件(ものづくり補助金)

事業計画期間において、給与支給総額を年率平均1.5%以上(被用者保険の適用拡大の対象となる中小企業が制度改革に先立ち任意適用に取り組む場合は、年率平均1%以上)増加させる事業計画を作成していること。

※給与支給総額の増加目標が未達の場合は、事業者の事情により、補助金の一部返還を求められる場合があります。

賃金引上要件

事業計画期間において、事業場内最低賃金(補助事業を実施する事業場内で最も低い賃金)を、毎年、地域別最低賃金+30円以上の水準とする事業計画を作成していること。

※ 申請時点で、申請要件を満たす賃金引上げ計画を策定していることが必要です。交付後に策定していないことが発覚した場合は、補助金額の返還を求められます。

※ 補助事業を完了した事業年度の翌年度以降、事業計画期間中の毎年3月末時点において、事業場内最低賃金の増加目標が達成されていない場合は、原則として、補助金額を事業計画年数で割った額の返還を求められます。

第15次締切分公募で加えられた変更点

(政策加点)「技術情報管理認証制度」の認証を取得している事業者

加点項目のうち「政策加点」の1つとして、「技術情報管理認証制度」の認定を取得していることが加えられました。技術情報管理認証制度とは、産業競争力強化法に基づき、企業や研究機関等の事業者の技術等の情報の管理について、国で示した「守り方」に即して守られているかどうかを、国の認証を受けた機関による認証を受けられる制度です。

※ 認証取得の手順、取得するメリット、具体的取組内容等の詳細については、「技術情報管理認証制度」をご覧ください。

(ワーク・ライフ・バランス等の推進の取り組み加点)
「女性活躍推進法」に基づく「えるぼし認定」を受けている事業者等

女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(女性活躍推進法)によれば、常時雇用する労働者の数が100人を超える事業主は、実施する女性の職業生活における活躍の推進に関する取組について、一般事業主行動計画を定め、厚生労働大臣に届け出なければなりません(100人以下の事業主は努力義務)。そして、届出を行なった事業主のうち、取組の実施状況が優良な企業は、都道府県労働局への申請により、厚生労働大臣が一定の基準を満たした事業主を認定する「えるぼし認定」を受けることができます。

また、常時雇用する労働者の数が100人以下の事業主で「女性の活躍推進企業データベース」に、同法に基づく一般事業主行動計画を公表している事業者も加点対象となります。

(ワーク・ライフ・バランス等の推進の取り組み加点)
「次世代法」に基づく「くるみん認定」を受けている事業者等

次世代育成支援対策推進法(次世代法)によれば、常時雇用する労働者の数が100人を超える事業主は、厚生労働大臣の定める行動計画策定指針に即して、一般事業主行動計画を策定し、厚生労働大臣に届け出なければなりません(100人以下の事業主は努力義務)。そして、その行動計画に定めた目標を達成するなどの一定の要件を満たした場合、必要書類を添えて申請を行うことにより、「子育てサポート企業」として厚生労働大臣の「くるみん認定」を受けることができます。

また、常時雇用する労働者の数が100人以下の事業者で「両立支援のひろば」に、同法に基づく一般事業主行動計画を公表している事業者も加点対象となります。

「参考:サイバーセキュリティ対策について」の追加

第15次締切分公募要領には、「審査項目・加点項目」の後に、「参考:サイバーセキュリティ対策について」と題した項目が新しく設けられています。設計や開発段階からセキュリティを考慮することが強調され、セキュリティ対策に取り組もうとする企業が最初に検討すべき対策として【対策1】から【対策6】までの具体策が示されています。

この新しい項目は、補助対象事業の申請要件そのものではありませんが、昨今、IoT機器に対するサイバー攻撃が増えていることを経済産業省が強く問題視していることの現れと言えるでしょう。革新的で生産性向上に資する製品やサービスの開発においてはセキュリティ確保が特に重大な課題であることを再認識しましょう。

「常勤従業員」に当てはまらない者を常勤従業員として手続した場合

ほとんどの申請類型では、従業員数が多いほど補助金額が高くなりますが、この場合の従業員とは、応募時の常勤従業員(中小企業基本法上の「常時使用する従業員」)を指します。申請時の添付書類でも、従業員数の確認資料として、法人事業概況説明書の写しや所得税青色申告決算書または所得税白色申告収支内訳書の写し、あるいは労働者名簿を提出することになっています。

それにもかかわらず、代表取締役や専従者等、常勤従業員に当てはまらない者が人数の中に含まれていることが判明した場合は、採択取消等になり得ることが今回の公募要領で明らかになりました。

事業化状況・知的財産権等の報告懈怠、虚偽報告があった場合

補助事業の完了した日の属する会計年度(4月〜3月)の終了後5年間、毎会計年度終了後60日以内に補助事業に係る事業化等の状況を事業化状況(収益状況含む)・知的財産権等報告書により報告しなかった場合、あるいは虚偽報告があった場合には、補助金の返還を求められることがあると明記されました。

補助事業期間中テスト販売費の原材料費の取り扱い

補助事業期間中の販売を目的とした製品、商品等の生産に係る機械装置・システム構築費以外の諸経費は原則として補助対象外ですが、例外として、テスト販売費のうち原材料費については補助対象となると明示されました。

賃金引上げ計画の誓約書の取り扱い

申請時に必要となる賃金引上げ計画の誓約書の提出方法が、以前はPDFファイルでの提出でしたが、電子申請システム上で誓約する方式に変更となりました。

ものづくり補助金と事業再構築補助金の基本要件の類似と公募申請時の判断例

ものづくり補助金の趣旨は、生産性向上を目指す中小企業等が、高い付加価値を創出できる革新性のある製品やサービスを、その優れた価値が隠れている段階、試作段階からの開発を行うための設備投資等を支援することにあります。

他方、事業再構築補助金は、主に新型コロナウイルス感染症の影響を被った事業者を支援する側面からスタートし、現在に至ってもポストコロナ・ウイズコロナ時代の経済社会の変化に対応するために、事業の大胆な再構築に挑戦する中小企業等の取組を応援する点に意義があります。

いずれの制度も中小企業等の事業展開を援護するという広い意味では大目的を同じくしたものです。しかし、それらの制度設計においては、その時勢ごとの政策目標や経緯の違い、財務状況により、一般に明らかになり実施される段階では、各々の補助金は全く性質の異なったものと映りがちです。ものづくり補助金と事業再構築補助金も、だいぶコンセプトに距離がある補助金とみなされていたことでしょう。その関係が、事業再構築補助金における要件の変更により変化したと言えます。

事業再構築補助金における基本共通要件の変化

本記事執筆時点は、まさに事業再構築補助金の第10回公募申請期間の真っ最中ですが、第10回からの大きな変更が加えられました。

そこで、さまざまに異なる環境にある事業者の状況に合わせ多くの申請類型が整備されましたが、業況が厳しい事業者向けでなく、積極的な事業拡大が企図される「成長枠」や「グリーン成長枠」においては、従来とは方向性が異なる新しい補助要件が設定されました。次の要件が多くの申請類型で必須要件となった結果、以前から賃上げや給与支払総額の増加が必須要件であったものづくり補助金との接近・共通点が生じました。

付加価値額要件(事業再構築補助金)

補助事業終了後3〜5年で付加価値額の年率平均3〜5%(申請枠により異なる)以上増加、または従業員1人当たり付加価値額の年率平均3〜5%(申請枠により異なる)以上増加する見込みの事業計画を策定すること。この要件は以前から求められていました。

給与支給総額増加要件(事業再構築補助金)

事業終了後3〜5年で給与支給総額を年率2%以上増加させること。

大規模賃金引上要件

「成長枠」や「グリーン成長枠」と同時申請することによって補助率が1/2から2/3に引上げられる「大規模賃金引上促進枠」では、補助事業終了後3〜5年の間、①事業場内最低賃金を年額45円以上の水準で引上げ、②従業員数を年率平均1.5%以上増員させることが求めらられています。

ものづくり補助金と事業再構築補助金のどちらを選択するか

このように、事業再構築補助金の基本要件に賃上げの要素が加えられたことは、補助金を事業に活用しようと考えている事業者の判断にも影響を及ぼすでしょう。それは、①ものづくり補助金で求められていた賃上げ要件による相対的な不利が減ったことや、②ものづくり補助金においても事業再構築補助金と同様に多様な申請枠・申請類型が設けられるようになったことに起因します。

ものづくり補助金を選択する例

  • これまで、賃上げ要件等を理由として事業再構築補助金を活用した方が有利と考えていた場合
  • 事業再構築補助金を既に1回受けた事業者である場合
  • 事業再構築補助金においては、非常に大きな再構築・変化が求められるが、もの作り補助金はそこまででもないので、設備投資を行い新しい事業展開をするのに活用したい場合

事業再構築補助金を選択する例

  • 広告宣伝・販売促進費や建物費等に補助経費を充てたい場合
  • 事前着手届出制度を活用して早期に補助事業に着手したい場合

補助金を活用した事業を検討されている事業者の方々は、このような例を参考に公募申請する補助金を選択してみてはいかがでしょうか。

まとめ

ここまで、ものづくり補助金の第15次締切分公募における変更点、また事業再構築補助金との選択関係についてご紹介してきましたが、いかがだったでしょうか。実施したい補助事業の内容によって、今般の変更の影響はさまざまですが、選択できる補助金のメニューが充実してきていることは確かでしょう。

ただ、選択の幅が広いだけに、どの補助金、どの申請類型を選んで活用したらよいのか迷ってしまうことも珍しくありません。

そこで、私たち「ハッシュタグ」に御社のご状況を忌憚なくお聞かせください。補助金に関する疑問点、あるいは事業展開のご意向や発想をお伝えいただければ、お悩みを解消するとともに、御社の収益力を高めるべく、時代に適した情報を見極め、現状に寄り添ったご支援を提供いたします。

ぜひとも、こちらの「お問い合わせ」まで御社の本音をお聞かせください。

執筆者:池谷 陽平、監修:中小企業診断士 居戸 和由貴

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この記事を書いた人

【中小企業診断士】
生命保険会社、人材会社、戦略コンサルタント会社での経験を経て、2021年に中小企業診断士として独立。強みであるマーケティングとテクノロジーを軸に、中小企業の売上拡大を目的として活動

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