「SDGs」を中小企業の経営に活かす

出典:Communications materials – United Nations Sustainable Development

国連持続可能な開発サミットにて持続可能な開発のための2030アジェンダが2015年9月に全会一致で採択。17のゴールと169のターゲットから成る「SDGs(Sustainable Development Goals)」が国際的な開発目標として記載されました。SDGsのことは知っていても、中小企業にどのように影響するのか。本記事では、SDGsへの取り組みと中小企業の経営との関係性を論じます。

目次

SDGsに対する中小企業の意識

中小企業は、SDGsに対してどのような意識を持っているのでしょうか。下図はSDGsに対する大企業と中小企業の意識を示しています。

United Nations Sustainable Development Summit 2015

出典:SDGsに関する企業の意識調査(2021年)

この図によると、次のことがわかります。

  • 大企業と比べてSDGsに積極的な中小企業は約20%少ない
  • 企業の規模に関わらずSDGsの認知は約90%に広がっている
  • 中小企業の約半数がSDGsを知りつつも取り組んでいない

中小企業がSDGsに取り組まない理由はさまざまな要因が考えられます。次の図はSDGsに取り組んでいない中小企業が、SDGsにどのような印象を持っているのかを示しています。

出典:2020 年度 中小企業の SDGs 認知度・実態等調査 概要版

上図を見ればわかるように、その重要性・必要性は認識しつつも事業との優先順位や経営資源の制約などにより取り組めない中小企業が多くいます。一方、「国連が採択したものだから」「大企業が取り組むべきもの」と考えて、SDGsは自社と無関係であると考える中小企業も少なくない(全体の約30%)ようです。そう考える理由としては、SDGsをただの社会貢献活動の一環として捉えているからではないでしょうか。しかし次章から述べるように、SDGsは企業の経営戦略に大きく影響するトピックです。

SDGsに中小企業が取り組むべき理由

ここでは、中小企業がSDGsにどうして取り組む必要があるのか、3つの視点から解説します。

1.収益の拡大

SDGsに中小企業が取り組む最もシンプルな理由として、収益の拡大が期待できます。

まずは、消費者向け(toC)ビジネスの場合について考えます。みなさんは、エシカル(倫理的)消費をご存じですか? これは人権や環境、社会にやさしい製品・サービスを好む消費スタイルのことです。特に、10代の若者は学校でSDGsについて学んでいるため、この意識が高いとのこと。彼らが大人になり購買力を持ったときに、選ばれるブランドになるべく活動を行っていれば、売上の増加が期待できるでしょう。安くて良い商材でも、エシカルじゃなければ選ばれない時代がやってくるのです。下図は、エシカル消費への興味を示したものですが、2016年度と比べて2019年度では明らかにエシカル消費に対する関心が高まっています。

出典:エシカル消費(倫理的消費)に関する 消費者意識調査報告書の概要について

次に企業向け(toB)ビジネスについて考えます。冒頭でも述べたように、大企業の多くがSDGsの取り組みに対して前向きです。当然、彼らが取引する企業もSDGsの取り組みをしている方がいいわけです。つまり、長年の取引実績があってもSDGsに全く配慮をしていない中小企業が、サプライチェーンから除外されることは十分にあり得ます。ただ逆の見方をすれば、SDGsの取り組みを行い適切な発信をしている中小企業は、大企業に選ばれやすく取引先が広がりやすいと考えられます。

2.資金調達

近年、ESG投資に対する関心が集まっています。ご存じの方も多いと思いますが、ESG投資とは「環境(Environment)」「社会(Social)」「統治(Governance)」の3視点から企業の将来性・持続性を分析して評価した上で、投資対象を決める方法のことです。

次の図は世界のESG投資額を示したものです。2016年と比べて2020年のESG投資額は約155%の伸び率を示しています。

出典:GLOBAL SUSTAINABLE INVESTMENT REVIEW 2020

これからもESG投資の重要性は増加していくと予測できます。したがって、SDGsに取り組む中小企業と取り組まない中小企業では、資金調達の成否が分かれるでしょう。このように、SDGsは大企業だけのものではなく、中小企業にとってもクリティカルなものであるということです。

3.人材の確保

SDGsに対する取り組みの有無は、人材の確保に大きく影響します。

2023年3月卒業(修了)予定の大学生・大学院生を対象にしたアンケートでは、全体の約75%の学生が企業がSDGsに取り組んでいることを知ると「志望度が上がる」と回答しています(下図)。やはり若者のSDGsに対する意識は高く、彼らの行動規範のひとつになっていることがうかがえます。

出典:2023年卒学生の就職意識調査(SDGs) 2021年8月版

また、SDGsは採用だけではなく、既存社員の士気向上や離職防止にも効果があります。SDGsのゴールを達成するような社会貢献性の高い業務を行えば、社員が自分の仕事に誇りと価値を見いだせるようになり、内発的動機を引き出すからです。

SDGs導入のステップ

SDGsに中小企業が取り組むべき理由を述べてきました。ここまで読んだ方は、SDGsに取り組まない理由を見つける方が難しく、すぐにでも自社の経営に取り入れたいという思いが強くなったかもしれません。そうなると次に知るべきことは、どのようにSDGsに取り組むかです。ここでは、SDGsを中小企業が導入する手順を5つのステップにまとめて解説します。

STEP1.話し合いと考え方の共有

SDGsを中小企業が推進するためには、経営者のSDGsに対する深い理解が必要です。それを軸に企業のビジョンやミッションを再定義しましょう。経営者が直接指示を出せるキーパーソンを社員から選び、その人物を中心に話し合いと考え方の共有を全社的に行います。

STEP2.自社の活動とSDGsの紐付け

実際のところ、日本の中小企業の多くが意識していなくてもSDGsを実践しています。そのため、自社の活動を棚卸ししてSDGsのゴール・ターゲットとの紐付けを行いましょう。英語にはなりますが、THE 17 GOALS を参考にすることでSDGsをより深く理解することができます。SDGsは国境を越えた共通言語にもなるため、海外のリソースを上手く活用することも大切です。

STEP3.取り組みの対象、目的、内容、ゴール、担当を決める

ここまでで、SDGsと自社の活動についてかなり詳細に理解できているはずです。ここからは具体的な計画を立てて行動へと移していきましょう。SDGsのゴールとターゲットの中から取り組みの対象を決めて、目的・内容・ゴール・担当まで考えます。

STEP4.取り組みの実施と結果の評価

ここでは、PDCA(Plan,Do,Check,Action)のサイクルを回していきます。STEP3での計画を基に取り組みを実行。その後、結果の評価を行い改善策を考えて再び行動に移します。これを繰り返し実施することによって、目的の達成に近づくことがわかるでしょう。

STEP5.外部への発信

SDGsへの取り組みが一定の成果を伴った場合、それを外部に発信しない理由はありません。SDGsは国境を越えた共通言語と上述しましたが、国内だけではなく国外にも活動を伝えることで思わぬビジネスチャンスが生まれるかもしれません。自信を持って外部とコミュニケーションするオープンな姿勢が肝要です。

まとめ:SDGsを成長戦略として捉える

SDGsはただの社会貢献活動の一環ではありません。現代社会におけるトレンドを反映してアクションへと導き、企業に成長をもたらすガイドラインです。本記事をここまで読んだ方は、SDGsが自社に無関係であるとは到底思えなくなったのではないでしょうか。確かに、SDGsへの取り組みは直ちに成果が期待できるものではありません。しかし中長期的な視点では必ず中小企業の地力を底上げするでしょう。SDGsを上手く「利用」できるか。経営者の手腕が問われます。

執筆:師田賢人

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この記事を書いた人

【Harmonic Society株式会社 CEO】
外資系コンサル、Webエンジニア、Webライター、フォトグラファーを経て、2023年にHarmonic Society株式会社を設立。企業の経営の悩みを言葉で解決している。一橋大学商学部卒。

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