企業の経営状況に関わらず、企業利益を最大限にするために疎かにできないのが「コスト削減」です。順調に利益が上がっている時は目先の利益に捕らわれてつい後回しにしがちですが、そういう時こそコストの最適化を図ることが重要です。コスト削減の効果的な方法と注意点について紹介します。
1.コスト削減の考え方
自社のコストを見直す時に、最初に実施するのが「コストの見える化」です。自社内のコストの種類やサプライヤー、さらにコストがかさんでいる部署を特定することで、どの部分が無駄なコストであるかがわかり、適切に見直すことができます。しかし「見える化」を実施した時に多くの企業で発生するのが「支出ははっきりしているのに、何を削減すれば良いかわからない」という問題です。それは「見える化」を実施した時に、コストを「勘定科目」で判断していないでしょうか。
勘定科目ではなく費目で考える
勘定科目は、各期の財務諸表の項目ごとに集計額を出す際に、各企業で設定する「見出し」のような位置づけです。財務状況を把握できることから、勘定科目をコスト削減の目安にして判断してしまいがちです。
勘定科目の例として、いくつか挙げてみます。
・仕入:商品・サービスの購入費用
・水道光熱費:電気・水道・ガスなど
・通信費:電話代、インターネット回線費など
・広告宣伝費:インターネットなどの広告費やチラシなどの印刷費など
・旅費交通費:出張旅費、通勤定期代など
・接待交際費:飲食費、贈答品の費用など
こういった勘定科目をそのままコスト削減の対象としてしまうと、上手くいかないことがあります。勘定科目は会計を処理するために複数の費用をまとめたグループのようなものであり、具体的な費用(何に支払われたか)までは特定できないからです。
例えば、勘定科目の「広告宣伝費」で考えてみましょう。「広告宣伝費」とひと口に言っても、インターネット広告費もあればチラシなどの印刷費もあり、それぞれにいくら支払われていて、どのくらい削減できるかは、勘定科目だけでは判断できません。
このため、コスト削減をする場合は、より細かい「費目」単位でコストを把握する必要があります。
「広告宣伝費」を「インターネット広告、テレビCM、雑誌広告、チラシ印刷費」のように費目単位に分けて集計することで、どこに無駄があるかを可視化することができます。
また費目単位でコスト削減策を検討することで、費目ごとの特徴に応じた削減方法を実施できるため、効率よく、かつ大きな削減効果が期待できます。
2.取り組むべき費目
東京商工リサーチが2014年7月に実施したアンケートでは、経費削減実施項目のTOP5は図のようになります。水道光熱費の中では、電気代の節約が多かったようです。
それでは、コスト削減や見直しがしやすく、見た目にも削減効果がわかりやすい費目をいくつか紹介します。
・印刷費
ペーパーレス化が叫ばれ、紙の書類を極力減らすよう各企業が努力されていると思います。新型コロナの蔓延も良い意味でペーペーレス化の推進に一役買うことになりました。
印刷費には、主に以下のような項目が含まれます。
・請求書、契約書などの経費書類や契約関係書類
・チラシ、パンフレットなどの販促物
請求書や契約書などは電子化システムや電子契約システムを導入することで、一気にペーパーレスが進みますが、本格的にシステムを導入しなくても、例えばWordの文書をPDF化して送ったり、電子帳簿保存法に則った方法で領収書をスキャンすれば、原紙は破棄することができたり、コストをかけずにペーパーレス化することができます
(国税庁:「はじめませんか、帳簿書類の電子化!」)。
またチラシやパンフレットなどの販促物は、都度必要枚数だけを印刷するようにし、営業にモバイルPCやタブレットを持たせて、客先では画面を見せて説明する、といった方法もあります。
ペーパーレス化が進むと印刷費だけでなく、コピー機使用料やインク代などの消耗品費や、文書を保管しておく倉庫の利用料などを抑えることができますし、電子契約で締結された契約書には、収入印紙の貼付も免除されますので(国税庁:「請負契約に係る注文請書を電磁的記録に変換して電子メールで送信した場合の印紙税の課税関係について(別紙1-3)」)付随する様々なコストも抑えることができます。
・電話代
現代の営業は一人一台モバイルPCかスマートフォンを貸与されていると思います。それらを利用し、電話でのアポ取りからメールやチャットなどでアポイントを取り、web会議で商談を行う、といった方法への転換を積極的に行いましょう。出先の営業とも、チャットツールを利用すればいつでも連絡を取ることができます。チャットツールは無料のものが多くありますので、お試しでいろいろ使ってみても良いかもしれません。
また、電話の法人用プランを利用する方法もあります。個別契約と違い、大口の場合は割安になることがあります。携帯電話の場合は、法人用として携帯会社から提示されるプランの他に、2004年から始まった相対契約(携帯会社と法人顧客の間で自由に料金を決めることができる契約(総務省:「電気通信事業法について」))などを利用することで、料金を抑えることができます。
その他に、電気代は料金比較サービスを利用して契約会社の乗り換えを検討したり、PCなどの機器類は用途に応じてスペックや契約を見直し、最も適した条件で再契約するなど、各費目で見直しを検討しましょう。各費目それぞれで様々なサービスが出ていますので、自社に合ったサービスを都度検討することが、総じて大きなコスト削減へとつながります。
3.コスト削減する際の注意点、やっておくべきこと
では、コスト削減する上でどういったことに気をつけておくべきでしょうか。
やりすぎない
当たり前のことですが、経費の中には削減できない「必要経費」があります。ここに手をつけてしまうと営業利益にも影響を及ぼし、経営が回らなくなる可能性も出てきます。また削減できるコストでも、一度に一気に実施してしまうと、従業員の不満を生む可能性が高くなります。できるところから徐々に始めていくことが大切です。
従業員へ周知し、効果を共有する
コスト削減は、従業員にも大きな負担を強いることになります。これまで自由に使えていたものが制限されたり、使えなくなったりすることは、業務上でも大きなストレスとなります。また実際に経費を使用しているのは従業員ですから、従業員の協力なしに成功はあり得ません。あらかじめきちんとコスト削減の趣旨を説明し、協力を仰ぐようにしましょう。
また、取組み状況や削減効果(実際の金額)を従業員にも共有しましょう。定期的に共有することで従業員にも達成感が生まれ、モチベーションアップにつながります。
4.まとめ
コスト削減は企業にとって永遠の課題であり、長期戦となる場合が多いです。また一度見直しすれば良いものではなく、景気や時代の変遷に合わせて都度見直しを行う必要があります。各費目に目を光らせながら、従業員のモチベーションにも配慮し、効果が持続するよう努めていきましょう。
執筆:小高 優