ChatGPTは、中小企業の業務を効率化するツールとして期待されています。その中でも注目なのが「マーケティング」への活用です。
これまでのマーケティング業務では、人の手による調査や分析、コンテンツ制作が行われてきました。ChatGPTはそれらの業務を効率化し、マーケティング活動の生産性向上に貢献します。
そこで今回は、ChatGPTが中小企業のマーケティングにどう貢献するのか、具体例を挙げてお伝えしていきます。
マーケティング活動とChatGPTの概要
まずは、本記事で着目するマーケティングとChatGPTについて触れていきます。
マーケティングとはどのような活動なのか?
マーケティング活動とは、顧客ニーズに合う商品・サービスを的確に創造・提供し、売れる仕組みを作ることです。
具体的には、以下のプロセスに大別されます。
活動名 | 具体的な活動内容 |
①市場調査 | 市場規模や市場動向、顧客ニーズ等を把握するための活動 従来の手法としては、アンケート調査、街頭インタビューなどがある |
②戦略立案 | 市場調査結果をもとに、ターゲット顧客を定め、商品・価格・販路・販促に関する戦略をたてる活動 |
③実行 | 戦略に基づき、商品・サービスの広告宣伝や販売を行う活動 |
④効果検証 | ①~③の活動が本当に商品の売り上げに貢献できていたのかを検証する活動 |
上記を元に、商品・サービスの販売が円滑に進むような仕組みづくりがなされています。
次に、急速に成長が進むもう一つのテーマ「ChatGPT」について記します。
ChatGPTでできることとは?
ChatGPTは、複雑な質問内容を理解し、それに応じた内容を出力します。
どんな題材にも幅広く柔軟に回答を出力するため、アイデア次第ではたくさんの使用方法があります。たとえば、議事録作成、要約、メール作成、広告コンテンツ作成などが挙げられます。
では、このChatGPTをマーケティング分野へどのように活用できるのでしょうか。
ChatGPTによるマーケティング業務改善事例
ChatGPTがマーケティングの各プロセスでどのように役立っているかを、具体的な事例を用いて説明します。
①市場調査にChatGPTを活用した事例
マーケティングで大別される項目の1つに「市場調査」があります。
これにChatGPTを用いると、インターネット上の情報から短期間で市場調査が行えます。
たとえば、以下の場面を想定して、ChatGPTに質問を投げかけてみましょう(図1)。
<想定場面>
業界:美容・エステ
シーン:「男性向け脱毛サービス」を新規事業として検討
問題・課題:新規事業の市場調査を短期間で行う必要がある
図1:ChatGPTから得られた市場調査結果(入力文)
この入力文に対するChatGPTの回答が、下図2です。
図2:ChatGPTから得られた市場調査結果(回答文)
このように、題材について詳細な回答が得られました。
特に、男性向け脱毛サービスに関して、
・過去5年間で30%増加
・増えている理由
・アフターケアの重要性
・将来性
といった市場成長率や顧客ニーズ等が文章化されています。
ただし、ChatGPTの回答は必ずしも正確であるとは限らず、情報も現時点では2021年9月以前のものに限られます。
そのため、ChatGPTを業務に使用する際には、必ず回答内容を精査するようにしましょう。
関連:中小企業の経営者がChatGPTを活用するときのリスクとは?
また、人間がChatGPTに入力する質問文(=プロンプト)も、AIが回答しやすいような工夫を施すことが大切です。
関連:中小企業経営者が知るべきプロンプト・エンジニアリングの技術と事例
このように、ChatGPTはたたき台として市場調査の生産性向上に貢献できるのです。
②戦略立案のChatGPT活用事例
マーケティングでは「戦略立案」というプロセスも非常に大切です。
マーケティング戦略は「誰に、何を、どのくらいの価格で、どのように売るか」決める活動です。
その代表的なフレームワークとして、マーケティングミックスの4P分析(商品・価格・流通・販売促進)があります。
今回は4P分析を、以下のような場面を想定し、ChatGPTへ質問をしていきます(図3)。
<想定場面>
業界:製造業
シーン:マーケティングにおける戦略設計を考える
問題・課題:「自社(中小企業)で製造している農業機械」のマーケティング戦略の立案が行き詰っている
ChatGPTへのプロンプト:
#命令書:
あなたは中小企業に勤める優秀な社員です。
自社のマーケティングにおける戦略設計を考えることを得意としています。
以下の制約条件と入力文に従い、マーケティング戦略の立案文章を作成してください。
#制約条件:
・文章は現実的な卜ーンで生成して下さい。
・丁寧な言葉遣いを意識して下さい。
・文章は自然なストーリーが生まれるように生成して下さい。
・横文字やカタカナ文字は、極力使用を避けて下さい。
・「4P分析」に基づいて考察を行って下さい。
・分析は必ず客観的で分かりやすく、説明の過不足が無いようにしてください。
・分析はProduct (製品)、Price (価格)、Place (流通)、Promotion (販促)それぞれについて分析を行ってください。
#入力文:
テーマ:農業機械の製造を行っている中小企業
ターゲット:大規模農地を持ち、スマート農業(=先端機械技術を活用した農業)に興味のある農家の経営者
<ターゲットが抱える課題>
・農家の担い手減少や高齢化の進行による労働力不足
・収穫した農作物を選別する時、雇用労力に頼っている
・人力に頼らざるを得ない危険な作業がある
・農産物の収穫量は自然(天候や害虫など)の影響に左右されてしまう
・農業は高い技術力が必要であり、新規参入が難しい
<自社製品の魅力>
・ 作業の自動化: ロボットトラクターやスマホ操作の水田管理システムで人手を減らせる
・ 情報共有の簡易化: 位置情報連動の経営管理アプリで作業記録のデジタル化・自動化をサポートし、生産力を増やせる
・ データの活用: ドローン・衛星データと気象データのAI解析で農作物の予測を行い経営をサポートできる
【4P分析】の結果を表形式で、以下のように構成して下さい。
1列目:項目名の要素全てを紹介
2列目:項目の概要
3列目:項目名に対する分析
【総評】上記の4P分析を踏まえて、制約条件を忠実に守りながら総評を行ってください。
#出力文:
図3:ChatGPTで行う戦略設計(入力文)
この入力文に対し得られた回答が下図4です。
図4:ChatGPTから得られた戦略設計結果(回答文)
①の市場調査と同じく、たたき台として役立つ文章が回答されました。
プロンプトの工夫も行いながら、よりイメージに近い回答を得ることで、中小企業のマーケティング戦略立案を時短化することができます。
またファクトチェックも確実に行い、事実に即した内容へ仕上げましょう。
③実行に関するChatGPTを搭載したツール事例
マーケティングの広告宣伝とは、ターゲット顧客に商品やサービスを購入してもらうための活動です。
具体的には、テレビや新聞などのメディアによるマスマーケティング、検索エンジンやメルマガの活用によるデジタルマーケティングなどが挙げられます。
この章では、マーケティングにおけるChatGPTの実用例を紹介します。注目する事例は、ログリー株式会社が開発したChatGPT搭載の広告テキスト自動生成ツール「LOGLY-lift」です。(参照元)
現在の消費トレンドは流行り廃りが激しく、さらに同世代内でも趣味や嗜好が多様化しています。その結果、消費傾向も細分化しています。これらの現象を背景に、中小企業はターゲットに適した広告内容を、迅速に更新する必要性に迫られています。
しかしながら、これを人手で行うことはたくさんの労力を必要とします。特に、リソースが限られている中小企業にとっては、大きな課題です。
その課題を解決するために、ログリーはChatGPTを搭載した「LOGLY-lift」を開発しました。これは、メディアのデザインに溶け込む形で表示されるネイティブ広告のプラットフォーム「LOGLY-lift」で、広告のテキストを自動で生成するツールです。
このツールの利用により、ターゲットに適したテキストの生成が可能となり、中小企業の広告宣伝活動の効率性が大幅に改善されることが期待できます。
④効果検証のChatGPT活用例
効果検証には、検証する項目の「策定」にChatGPTが活用できます。
マーケティングにおける効果検証では、A/Bテストという検証を行うことがあります。A/Bテストとは、マーケティングの施策を2パターン用意し、どちらが効果的か検証する手法です。
以下の想定場面から、ChatGPTに質問を投げかけてみます(図5)。
<想定場面>
業界:製造業
シーン:キャッチフレーズの効果検証を考える(フレーズの作成含む)
問題・課題:自社で製造している農業機械の広告(=キャッチフレーズ)の効果検証を行いたいが、上手くいかない
ChatGPTへのプロンプト:
#命令書:
あなたは中小企業に勤める優秀な社員です。
自社のマーケティングにおけるキャッチフレーズの効果検証を考えることを得意としています。
以下の制約条件と入力文に従い、キャッチフレーズの効果を検証した文章を作成してください。
#制約条件:
・文章は現実的なトーンで生成して下さい。
・丁寧な言葉遣いを意識して下さい。
・文章は自然なストーリーが生まれるように生成して下さい。
・横文字やカタカナ文字は、極力使用を避けて下さい。
#入力文:
・これから「A/Bテスト」を行います。
・「A/Bテスト」では、自社で製造している農業機械の広告(=キャッチフレーズ)の効果検証を行います。
・まずは2つの異なるキャッチフレーズを作成してください。
・広告作成の専門家として、作成した2つの異なるキャッチフレーズを比較検討して下さい。
#出力文:
図5:ChatGPTで行う効果検証(入力文)
図6:ChatGPTから得られた効果検証(回答文)
上図6では、ChatGPTが「自社で製造している農業機械の広告効果を高める取り組みを進めている」という状況から回答が始まります。
その次では、
「耕す力、倍増。あなたの畑、私たちの技術で。」
「雨の日も風の日も、頼れる仲間がいる。」
というフレーズを提案しています。そしてそれぞれのキャッチフレーズに対し、専門家からの講評という形で比較が行われています。
このように、人間側の入力文章でキャッチフレーズを用意しなくても、ChatGPTからアイデアが生まれ、A/Bテストを通し各フレーズの見解まで示してくれます。
すでに自社でキャッチフレーズをお持ちであれば、このプロンプトを活用して、既存のキャッチフレーズを効果検証することもできるでしょう。
まとめ
今回は、マーケティング業務の各プロセスにおけるChatGPT使用例、企業事例をお伝えしてきました。
ChatGPTの利用はマーケティング活動を効率化し、事前調査やたたき台の作成を迅速に進めることが可能です。
AIを上手く使いながら、マーケティング業務の効率化や、効果の最大化などにつなげていきましょう。
ハッシュタグでは、マーケティング強化の一環として、ChatGPT活用を図る中小企業の経営者様に、情報提供・支援活動を行っております。
どうぞ、お気軽にご相談ください。
執筆者:那須 太陽、監修者:Harmonic Society株式会社 代表取締役兼CEO 師田 賢人、中小企業診断士:居戸 和由貴
師田賢人
【Harmonic Society株式会社 CEO】
外資系コンサル、Webエンジニア、Webライター、フォトグラファーを経て、2023年にHarmonic Society株式会社を設立。
企業の経営の悩みを言葉で解決している。一橋大学商学部卒。
居戸 和由貴
【中小企業診断士】
生命保険会社、人材会社、戦略コンサルタント会社での経験を経て、2021年に中小企業診断士として独立。強みであるマーケティングとテクノロジーを軸に、中小企業の売上拡大を目的として活動