AIの進歩は、日々、私たちの生活やビジネスに革新をもたらしています。その中でも、昨今、特に印象的なのが「ChatGPT」です。中小企業ではIT、DXという言葉が飛び交う中、新しいAIという概念が、今後の業務効率化や業績向上において不可欠なものとなりえるかもしれません。そんなAIを活用する上で最も大切なことは、「その情報は正しいのか」という点を検証することにあります。
ChatGPTの情報がファクト(=真実)かどうかをチェックすることは、もはや不可欠なプロセスとなっており、AIの出力をそのまま信じるのではなく、正確性、信頼性、そして時には倫理性を確認することが重要なのです。特に中小企業では、限られたリソースを最大限に活用するため、AIが提供する情報の品質が極めて重要になります。
そこで今回は、ChatGPT活用術として、ファクトチェックのコツと要点をお伝えしていきます。
1. ChatGPTの信頼性
ChatGPTに代表される生成AIの市場規模は、2023年に137億ドルとなり、前年比27.1%となっています。これからも同様の右肩上がりの成長が続くと予想され、2032年には1181億ドルに達するとされています(図1)。ChatGPTは、知識や事実について完全ではないものの、正解に近い情報を回答します。例えば、科学、文学、学問といった分野の基本的な質問には、高い精度で返答することが可能です。また、一般的なビジネス知識やコミュニケーションでも、高いパフォーマンスを発揮することが知られています。
一方で、ChatGPTにも弱点はあります。ChatGPTは大量のテキストデータからパターンを学ぶことで訓練されており、そのデータは一部古い、または偏った情報を含む可能性があります。また、新しい情報や専門的な情報については必ずしも正確な回答ができない場合も報告されています。この理由は、ChatGPTの学習データが2021年9月までの情報であり、それ以降の最新の情報は反映できていないためです。
例えば、2023年の大統領選挙の結果、最新の科学技術開発、新型コロナウイルスの最新の感染者数、新しい法規制などは正確な回答ができません。そのような情報については、信頼性を確認するためのファクトチェックが必要となります。
図1 生成AIの市場規模の予測(https://forbesjapan.com/articles/detail/63360より抜粋)
2.ファクトチェックの重要性と要点
前述のようにChatGPTは、一般的な知識について信頼性の高い情報を提供しますが、専門的な情報や新しい情報については必ずしも正確でない場合があります。そのため、ファクトチェックが非常に重要なプロセスとなるのです。特に、ビジネス決定に影響を与えるような情報については、必ずファクトチェックを行うべきだと考えられます。
AI活用者が行うべきファクトチェックのコツと要点を、以下に4つご紹介します。
①情報の出典を確認する
ファクトチェックの具体的なプロセスとしては、まず、ChatGPTが提供する情報の直接的な出典を確認します。具体的には、その情報が何らかの公式の資料、学術的な論文、あるいは公的機関から出された情報かを判断していきます。信頼性が不確かなソース(例えば、個人のブログや未確認のウェブサイト)から来た情報は、更なる調査と確認を行うべきです。
②複数の情報源を確認する
次に、複数の情報源を確認、つまり、同じ情報が他の信頼性の高いソースでも報告されているかを調査します。例えば、その情報が複数の新聞、公的機関のウェブサイト、学術的な論文で触れられているかを調べていきます(表1)。一致している情報源が2つ3つ程度あれば、その情報は一般的に信頼性が高いと判断できるのです。
表1 ファクトチェックに有効な情報源の例
カテゴリ | サイトの内容 | サイトのURL |
統計情報 | 統計データを扱う政府の公式サイト | https://www.e-stat.go.jp/ |
科学論文 | 学術論文の検索エンジン | https://scholar.google.com/ |
法令・政策 | 電子政府の総合窓口(行政サービスや施策) | https://www.e-gov.go.jp/ |
ニュース | 日本経済新聞 | https://www.nikkei.com/ |
③最新の情報であることを確認する
さらに、最新の情報であることを確認しましょう。特にAI分野は、技術や法規制など、変化が速いため、情報源が最新のものであることを確認するのはとても重要です。公式のウェブサイトや公的機関の発表をチェックし、情報が現在でも有効であることを確認します。
④必要に応じて専門家にも相談する
最後に、 特定の専門知識を必要とする情報については、その分野の専門家に相談することが肝要です。相談する専門家が公的な資格や信頼性の高い経験を有していることが望ましく、専門家の意見や評価を情報に反映します。
これら4つのプロセスを踏むことで、ファクトチェックはより信頼性の高い結果を導いてくれます。
なお、ファクトチェックには時間とリソースが必要です。例えば、一つの情報をチェックするのに10分から15分程度かかることもあるでしょう。仮に大量の情報をチェックする必要がある場合は、複数のメンバーに分散させ、専門のファクトチェッカーに外注することも検討すべきです。
3. ChatGPTのビジネス活用事例の紹介
ここまで、ChatGPTの活用に向けた、ファクトチェックの重要性と要点についてお伝えしてきました。ユーザーが確実なファクトチェックを行うことで、ChatGPTの誤った情報や不正確なデータを早期に発見し、業務の効率化や生産性の向上に活用することができます。
その上で、正しいファクトチェックを行った後に、どうやってChatGPTを業務に応用するかが、次なる重要なポイントとなります。つまり、ChatGPTのビジネス活用事例を知ることは、中小企業が自社の生産性向上を図るための大切なステップと言えるのです。
そこでこの章では、ChatGPTがビジネス現場でどのように役立ち、どう生産性を向上させるかについて、3つの事例を元に詳しく説明します。
①ChatGPT営業アシスタント誕生
株式会社ギブリーが、営業職の非コア業務を大幅に削減するための『営業アシスタント』機能を搭載したChatGPTをリリースしました。営業担当者の時間の64%が営業以外の業務に消費されているとされ、この新機能は商談後の事務作業時間を約88%削減でき、年間約4.3億円のコスト削減が期待できます(図2)。『営業アシスタント』は商談の議事録を入力するだけで要約やアクションプランの作成、報告書作成を行うなど、6つの機能を搭載しています。オンライン直売を行っている企業や、時間やリソースが限られた中で生産効率と品質管理の向上を目指す企業にとって魅力的だと考えられます。
図2 営業事務においてのコスト節減効果
(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000185.000002454.htmlより抜粋)
②AIで広告作成時間を大幅短縮
GMOアドマーケティング株式会社が、ChatGPTを活用した広告のクリエイティブ作成サービスを発表し、作成時間を従来の1/3以下に短縮できると報告しています(図3)。広告のリサーチ、アイデア出し、画像や動画の作成といった、これまでは人間が行っていた業務をChatGPTが代替することで、クリエーターは広告効果やマーケティング施策の改善に更に集中できるようになりました。具体的には、広告作成・開発業務が130時間/月から35時間/月へ削減されました。作成スピードの向上により、多種多様な広告を短期間で作成でき、効果的なマーケティング改善につながっています。なお、最終的なクオリティは人間のレビューによるファクトチェックや整合性確認によって担保しています。
図3 広告作成のbefore/after
(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003979.000000136.htmlより抜粋)
③顧客コメント分析の効率化
エモーションテックが開発したGPT-4搭載の新サービス『TopicScan』は、テキストデータの自動分析を実現し、作業時間を大幅に削減します(図4)。トピックの抽出、ラベリング、要約などを提供し、これまで5日間かかっていた作業を半日に短縮できる上、その精度も95%という高水準を達成しました。このツールは、アンケートやレビューなどのテキストデータも分析できるため、マーケティング部門など顧客の声を分析し戦略策定に活用したい部門に推奨されます。エモーションテック関係者は、GPT-4の導入で業務が革命的に変わったと述べ、特に文章を要約する力は人間に非常に近く、他のツールでは代替が難しいと評価しています。
図4 顧客の声(VoC)を分析してくれる『TopicScan』
(https://lp.emotion-tech.co.jp/topicscanより抜粋)
4.まとめ
今回は、企業でChatGPTを最大限活用する方法と、そのファクトチェックの重要性についてご紹介しました。ファクトチェックのコツは、①情報の出典の確認、②複数の情報源の確認、③最新の情報であることの確認、④必要に応じて専門家に相談することです。
また、ChatGPTを活用したビジネスの事例もご紹介しました。営業職の非コア業務を大幅に削減、広告クリエイティブ作成サービス、テキストデータの自動分析ツールなど、顧客の声を分析し、戦略策定に活用する作業を効率化しているといえます。
ChatGPTはビジネスの様々なシーンで効果を発揮していますが、情報の信頼性を確保するためのファクトチェックはとても重要です。これからAIを自社に取り入れたいと考えている中小企業の経営者は、AI活用を検討する際に、これらのポイントを念頭に置くことで、より安全にChatGPTを活用できるでしょう。
執筆者:那須 太陽、監修者:師田 賢人、中小企業診断士:居戸 和由貴
師田賢人
【Harmonic Society株式会社 CEO】
外資系コンサル、Webエンジニア、Webライター、フォトグラファーを経て、2023年にHarmonic Society株式会社を設立。
企業の経営の悩みを言葉で解決している。一橋大学商学部卒。
居戸 和由貴
【中小企業診断士】
生命保険会社、人材会社、戦略コンサルタント会社での経験を経て、2021年に中小企業診断士として独立。強みであるマーケティングとテクノロジーを軸に、中小企業の売上拡大を目的として活動