現在、世界中で生成系AIが研究され、日本の中小企業でもChatGPTが業務に活用されています。
ChatGPTからより良い回答を引き出すためには、プロンプト(=AIへの質問文)の工夫が必要です。2022年6月、「Tree-of-Thoughts 」というプロンプトが、Yao et el. とLong (2023)により報告されました。
Tree-of-Thoughts は、人間と同じ思考プロセスで、課題を論理的に解決する方法です。従来のプロンプトと比べて、非常に高精度であることが示されています。
本記事は、中小企業の経営者がTree-of-Thoughtsプロンプトを使い、AIの回答を自社の課題解決に活かす方法について説明します。
Tree-of-Thoughtsプロンプトとは?
Tree-of-Thoughts(ToT)とは、ChatGPTの回答を出力する過程に「評価」や「深掘り」を加えることで、複雑な課題に対応させる手法です。
従来の手法と比較して、ChatGPTの回答精度が大幅に向上したと報告されています。
まずは、下図をご覧ください。
図1:Tree-of-Thoughtsのイメージ図(Yao at el.より抜粋)
上図1には、従来の主な手法(点線より左)と、Tree-of-Thoughts(右)のイメージ図が比較されています。
従来は、「Input-Output Prompting(IO)」「Chain-of-Thought Prompting(CoT)」「Self Consistency with CoT(CoT-SC)」という手法が用いられていました。
それぞれの特徴を、以下に説明します。
IO:最もシンプルな手法で、質問と回答が1対1となる。
CoT:結論へ向かいステップバイステップ(=段階ごとに)進める手法。
CoT-SC:CoTを複数出力し、もっともマジョリティーな回答を選ぶ手法。
従来は、こういった工夫をプロンプトに取り入れていました。
これに対してTree-of-Thoughtsは、課題に対し、
・複数のアイデアを回答してもらう
・アイデアに対して評価を行う
・選び抜いたアイデアを深く掘り下げる
・ベストなものを選ぶ
など、人間の思考と同じように最適な結果を選んでいきます。これが「Tree-of-Thoughts(思考の木)」と呼ばれる理由です。
Tree-of-Thoughts(ToT)プロンプトの具体的な手順
ToTプロンプトは、「案を出す」「評価する」「深掘りする」「順位付けする(結論・判断)」の4ステップがあります。
今回は、製造業に携わる中小企業の経営者が、自社の生産ラインのボトルネックを探す場面を想定し、ToTプロンプトを実演していきます。
ステップ1:案を出す
まずは想定される課題に対し、ChatGPTにアイデアを複数出してもらいます。
プロンプトは以下の通りです。
#命令文:
あなたは中小企業の優秀な経営者です。
これから自社の業務改善に対するアイデア出しを行い、対話に沿って具体的な解決策を回答していただきます。
以下の制約条件と入力文に従い、具体的なアイデアを回答して下さい。
#制約条件:
・文章は現実的なトーンで生成して下さい。
・丁寧な言葉遣いを意識して下さい。
#入力文:
以下の内容に基づき、具体的なアイデアを10個教えてください。
業界:製造業
テーマ:製造業に携わる中小企業の経営者が、自社の業務を改善するアイデアを得る
課題:
・自社製品の生産ラインを効率化すべく、業務フローの「見える化」を行う
・製造業の見える化は、生産情報をデータ化し、その数値を客観的に捉える
・自社製品の生産ラインにおいて特に時間がかかり、生産能力や作業効率が悪い工程を見つける(=ボトルネックを見つける)
#出力文:
この質問文に対し、以下の回答が出力されました。
ここまでは、従来のAI活用方法と同じです。
ステップ2:評価する
続いて、①の回答に対する実現可能性や評価を質問していきます。
次のようなプロンプトを入力します。
今の回答を、改めてご自身で評価して下さい。
評価の基準は、実際に中小企業の経営者が自社の業務フロー改善に取り入れるかどうか、納得できるかという視点も取り入れて下さい。
評価には、実現できる可能性をパーセントで明記して下さい。
ここから得られた回答が以下です。
上図の「8. 人工知能(AI)を活用した品質管理」では、実現可能性が50%ともっとも低く、評価も「高度な技術と高いコストが必要で、中小企業にはハードルが高い」と回答されています。
「可能/不可能/どちらとも言えない」という大きな括りで分け、なぜ実現できないのかを考えることで、ベストな解決策を絞り込むことができるのです。
ステップ3:深掘りする
続いて、AI自身が「実現できる可能性は高い」と判断したアイデアを、さらに深く掘り下げていきます。
プロンプトは以下です。
今の回答から、実現可能性が高い上位3つのアイデアを選び、どのような成果が期待できるか掘り下げて、詳しく教えてください。
これに対し、以下の内容が出力されました。
②から実現可能性の高い上位3つのアイデアが抽出され、期待される成果が、さらに詳しく述べられています。
ステップ4:順位付けする(結論・判断)
最後に、どの方法が一番良いのかを、AI自身に順位付けしてもらいます。この回答が、課題に対する結論・判断となります。
プロンプトは以下の通りです。
今の分析結果とこれまでの内容を踏まえ、まとめてください。
3つのアイデアに順位と、その説明を具体的に出力してください。
これに対する回答は以下のようになりました。
順位は、ChatGPTが示した実現可能性の高いものから割り振られました。
実現可能性が高いと評価された上位3つのアイデア(タイムスタディの実施、プロセスマッピング、リーン生産手法の導入)について、具体的な成果とその詳細を説明しています。
従来の方法ではステップ1の結果で止まっていましたが、ToTプロンプトを用いることで、より詳細なアイデアを出力させることができました。
ChatGPTの出力結果は、人間が最適な判断を行うたたき台として使用することができます。
まとめ
今回は、ChatGPTにToTプロンプトを活用し、より詳しい回答を引き出す実演を行いました。
上述のように、中小企業の経営者が業務改善に取り組むときのツールとして、ChatGPTは進化を続けています。
ハッシュタグでは、ChatGPT導入のサポートも行っております。
無料でのご相談・お見積もりを承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
執筆者:那須 太陽、監修者:Harmonic Society株式会社 代表取締役兼CEO 師田 賢人、中小企業診断士:居戸 和由貴
師田賢人
【Harmonic Society株式会社 CEO】
外資系コンサル、Webエンジニア、Webライター、フォトグラファーを経て、2023年にHarmonic Society株式会社を設立。
企業の経営の悩みを言葉で解決している。一橋大学商学部卒。
居戸 和由貴
【中小企業診断士】
生命保険会社、人材会社、戦略コンサルタント会社での経験を経て、2021年に中小企業診断士として独立。強みであるマーケティングとテクノロジーを軸に、中小企業の売上拡大を目的として活動