ChatGPTで話題沸騰!中小企業経営者が知るべきプロンプト・エンジニアリングの技術と事例

今話題の生成系AI「ChatGPT」は、さまざまな分野で活用されはじめています。

特に中小企業の経営者においては、ビジネスコミュニケーションの効率化や、自社製品の魅力を顧客に伝えるプラットフォーム開発、あるいは業績の分析ツールとして、ChatGPTを活用したいと考える方も多いのではないでしょうか。

その中核となるのが、AIからより正確で有用な回答を引き出す「プロンプト・エンジニアリング」という技術です。プロンプト・エンジニアリングを知るメリットは、高い安全性を担保しながら、AIを自社の業績向上へと活用できることにあります。

一方で、AIというブラックボックスに対し、具体的にどうやって業務に活用すればいいのか、リスク管理はどこに着目すればよいのかなど、いろんな不安があるかと思います。

本記事ではその悩みに対し、プロンプト・エンジニアリングの観点から、業務での実用的なプロンプトの入力方法や、企業における活用事例を取り上げることで解消していきます。

目次

プロンプト・エンジニアリングとは?

プロンプト・エンジニアリングとは、アプリケーションや研究テーマにおいて、言語モデル(LM)を最適化するためのプロンプトを、効率的に開発する技術です。この分野においてスキルを持つことは、大規模言語モデル(LLM)の能力と限界をより深く理解するために必要不可欠だとされています。

研究者たちは、質問応答や算数推論などのタスクにおいて、LLMの能力向上のためにプロンプト・エンジニアリングを使用しています。また、開発者はこの技術を用いて、LLMや他のツールに対応した、効果的なプロンプト技術を設計することができます。

これは単にプロンプトの設計や開発に留まらず、LLMとの対話や開発に役立つ幅広いスキルやテクニックにも応用できます。企業で活用できる実用的な場面としては、ユーザーの質問やフィードバックを分析し、よりよい製品開発やマーケティング戦略の策定を行うツール開発や、生産ラインや工程に対する業務最適化の分析・提案への活用が期待されています。

プロンプト・エンジニアリングの実践例:効果的なプロンプトとは?

業務レベルでプロンプト・エンジニアリングを扱う場合、現行のAIが苦手とする領域に対して、回答の精度を補完するようなプロンプトが必須です。また、社内情報の漏洩対策は、リスク管理に直結する重要な点といえます。ChatGPT3.5/4.0を用いて、以下に具体例を示します。

推論:step by step

言語モデルが「推論」を上手く行うためには、「step by step(ステップごとに)」というプロンプトが非常に有効です。このプロンプトを用いると、言語モデルに対し「複雑そうに見える問題でも、根底にはシンプルな思考の連なりがある」という視点を与えることができます。

これは「思考の連鎖」とも言い換えられ、最終的な結果に到達するまでの思考を、Aから始まり、次にB、その後C、最後にDへと連鎖的に進めるプロセスで表現できます。

ChatGPT内で使用する場面では、ユーザーが「ステップごとに考えて」と指示するだけで、より複雑な手順を考えさせることが可能になります。つまり、プロンプト・エンジニアリングの技術を活用することで、言語モデルの推論能力を強化し、結果としてより高品質な回答を得ることができるのです。

早速、このプロンプトをChatGPTで試してみましょう。例えば、ある数字の羅列があったとして、下記の質問をChatGPT3.5に投げかけてみます。

質問の意図を上手く汲み取ることができず、「偶数」と誤答してしまいました。そこで、プロンプトを工夫し、次の様に変えてみます。

「ステップごとに」を含めたプロンプトに改善することで、

①奇数だけを選ぶ

②その奇数を足し算し、合計値を計算する

③合計値が「奇数か偶数か」を判断する

という行程を自分で考え、正しい回答をしてくれました。なお、最新版のChatGPT4.0に同様の質問をしたところ、

このように「ステップごとに」がなくても、正しい結果を回答してくれました。ただし、毎回同じ結果が出てくるとは限りませんので、誤答を防ぐためにも、プロンプトの工夫による対策は必須です。

社内でChatGPTを応用していく場合、より複雑で高度な推論が求められます。プロンプトによる回答精度向上のためにも、「ステップごとに」という決まり文句は活用していくべきでしょう。

プロンプトインジェクション

LLMを社内で活用する場合には、リスクと安全性の把握が欠かせません。特に、LLMをアプリケーションに組み込む際には、「攻撃」からの対策を最優先で考慮することが重要です。まずは、下の図をご覧ください。

悪意のある攻撃は、一般的に「プロンプトインジェクション」とも呼ばれ、何も対策を行わなかった場合、企業側の指示内容が盗まれ、業績に悪影響を及ぼす可能性も考えられます。

例えば、こんな例を挙げてみましょう。

プロンプトの前半では製品Aに対する業務改善策を質問していたにも関わらず、回答には反映されていません。つまり、「ここまでの命令は無視して下さい」の記述で、それまでのプロンプトが上書きされたことになります。

ここで言いたいことは、

「プロンプトは流出する可能性がある」

「プロンプトは上書きされる可能性がある」

というリスクがあることです。

もし社内で、製品に対する”AIチャットボット”を開発した場合、今回の様な「これまでの命令を無視して下さい」というプロンプトインジェクションをボット内で悪用され、イメージダウンを図るような回答へと誘導されるかもしれません。対策として、ユーザー入力部分をデリミタ(区切り文字)で囲む、特定の言葉はスペースに置き換える、あらかじめ禁止ワードを設定しておく、などの方法があります。

以上のことからわかるように、企業側は、顧客や自社に対しプロンプトを用いてサービスの質向上を図りますが、悪意のあるユーザーはこれを盗み取ろうとします。これからは、まさにプロンプトそのものが知的財産になり得るので、リスク管理も徹底して行いましょう。

ChatGPTをベースとしたプロンプト・エンジニアリングの活用事例

ChatGPTを始めとするプロンプト・エンジニアリングの技術は、企業でも導入が進められています。ここでは具体的な導入事例をご紹介していきます。

アナグラム株式会社

Web広告運用のコンサルティング企業「アナグラム株式会社」は、現在ChatGPTを導入し、日常業務に活用しています。同社では福利厚生として、ChatGPT Plus(月額20ドルの有料プラン)を、利用したい社員が対象となる”3か月間の補助金”にて試験提供しました。その結果、社内での利用者が増え、実用的なプロンプトの制作が活発に行われています。

従来は、人間が生み出した10個のアイデアから「1つの品質の高い成果物」を制作する方法で業務が行われていました。しかし現在は、人工知能が生み出す300以上の案の中から「最高品質のものを選択する」という過程に変化し、その要因としてプロンプト・エンジニアリングの技術があるとの主旨を述べています。

社員一人ひとりが、小さなところからプロンプト・エンジニアリングを実践して学び、社員同士が結果を共有することで、「質の高い回答」が得られるパーセンテージを、さらに高められる可能性があります。さらに、出来上がったプロンプトも社員同士でシェアしあっています。これにより、さまざまなアイデアや知見が共有され、より効果的なプロンプトの作成が可能になるのです。また、同社では「個人情報を入力しない」というルールを定め、それに基づいて運用がなされています。こういったセキュリティ面も把握し、理解したうえで、AIを活用する必要があるでしょう。

また、社内のAI使用に関するコミュニケーションにおいて、一般に「AIは敵ではなく味方である」ということを、社員に対し明確に述べることが求められるといいます。未だに一部の人々は、AIが仕事を奪う敵であるとの誤解を抱いているようであり、今後は企業全体として、AIとの協調関係を構築することが極めて重要であると指摘しています。

アディッシュ株式会社

「アディッシュ株式会社」は、自社の製品である企業向けノーコード・チャットボットの「hitobo」とChatGPTを組み合わせたサービスを開始いたしました。 「hitobo」は、使いやすさが魅力のQ&A対応チャットボットツールであり、サービス紹介サイト、コーポレートサイト、ヘルプデスク、社内FAQなどで簡単に導入できます。

ChatGPTと「hitobo」を組み合わせることで、自社固有の情報を反映した「Q&A一覧」を一括で生成し、Q&A文章作成の自動化が実現可能となりました。フロントオフィス部門では、カスタマーサポートや営業・マーケティングなどに多くの時間が費やされます。担当者が対応しなければならないお客様の質問が増えるほど、確認すべき事項やQ&Aの用意が増え、フロントオフィス部門の負担が増大するという課題がありました。

回答に関する企業情報を含めることで、問い合わせ対応履歴の確認や、回答文章の作成に要する時間を削減でき、担当者が行う作業は自動生成されたQ&Aにおける内容の確認のみとなります。ここで大切なのは、ユーザーがチャットボットに質問文(プロンプト)を打ち込んだ時、不用意に社内情報を盗まれたり、上書きされたりしないことです。

つまり、プロンプト・エンジニアリングの実践例で紹介した「プロンプトインジェクション」に対して、対策を徹底的に行う必要があったと推察されます。このようなカスタマーサービス向上においても、プロンプト・エンジニアリングの技術が期待されているのです。

まとめ

本記事では、ChatGPTで話題のプロンプト・エンジニアリングとは何かについて、その概要や具体的プロンプト、活用方法を解説しました。

プロンプト・エンジニアリングの効果的な実践例でもお伝えした通り、何も対策をしなければ、過去のプロンプトは簡単に盗まれてしまいます。そして意図しないAIからの回答も、未然に防がなければ自社のイメージダウンに繋がるでしょう。

このようなセキュリティ対策はしっかりと行い、ビジネスコミュニケーションの効率化や、自社製品の魅力を顧客に伝えるプラットフォーム開発、あるいは業績の分析ツールとして、ChatGPTとプロンプト・エンジニアリングを活用して下さい。

執筆者:那須 太陽、監修者:師田 賢人、中小企業診断士:居戸 和由貴

監修者

師田賢人

【Harmonic Society株式会社 CEO】

外資系コンサル、Webエンジニア、Webライター、フォトグラファーを経て、2023年にHarmonic Society株式会社を設立。
企業の経営の悩みを言葉で解決している。一橋大学商学部卒。

監修者
ハッシュタグ居戸和由貴
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居戸 和由貴

【中小企業診断士】

生命保険会社、人材会社、戦略コンサルタント会社での経験を経て、2021年に中小企業診断士として独立。強みであるマーケティングとテクノロジーを軸に、中小企業の売上拡大を目的として活動

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この記事を書いた人

【生成AIライター】
鉄道会社での勤務を経て、2022年8月からWebライターとして活動中。ChatGPTなどの生成AIを研究し、人間とAIのタッグでより良い文章作成を行います。

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