当事務所では、士業の方147名を対象に、生成系AI(ChatGPT等)の認知度や活用状況についてアンケート調査を行いました。(2023年7月)
その結果、下図の傾向が明らかとなりました。
士業の仕事にAIを活用しない場合、同業者と比べ生産性の差が劇的に広がり、業界から取り残される可能性があります。
本コラムでは、士業の生成系AIの「認知度と使用度のギャップ」に注目し、なぜChatGPT等の使用率が低いのかについて深く掘り下げます。
ぜひ、最後までお読みください。
AIを使用しない理由①「信頼できない」
本アンケート調査では、AIを士業の仕事に使用しない理由として「信頼できない」と回答した人が最も多い結果となりました。
具体的な理由として、
・まだまだ信頼度が低い
・創作されたものも事実のように組み込まれてしまう
・未だ不具合が多く散見される
・間違った情報に惑わされる
・AIが参照しているソース詳細が不明
・正確性の精査が大変
・誤答がかなりの頻度で頻発している
・信頼性が不明
などの理由が挙げられています。
ChatGPT等の生成系AIから得られる回答は、完璧な情報ではありません。
実際に、AIは事実と異なる誤った情報を出力することもあります。したがって、今回のアンケート結果のように、AIに対して信頼ができないと感じている方は多いと考えられます。
特に、士業のような専門性の高い職種においては、1つの情報の誤りが、業務内容に対して大きな影響を及ぼします。
そのため、多くの士業の方は生成系AIを知っていても、AIの「使用」に対して慎重な姿勢をとっているのではないでしょうか。
しかし大切なのは、「AIは誤った情報を回答する」という内容が、本質的な欠陥ではないことです。人間の対応により、AIからの誤情報をある程度は避けることができます。
回答の間違いを見抜く(ファクトチェック)
生成系AIを業務で活用するためには、AIからの情報が事実であるかどうか調べるコツを知ることが大切です。
たとえば、ChatGPTは膨大なテキストデータを学習していますが、その情報は古く、偏っている場合があります。さらに、ChatGPTは2021年9月までのデータしか学習していないため、それ以降の新しい情報は対応できないという弱点もあります。
AIからの誤情報を見抜くファクトチェックには、次のようなものがあります。
要点 | 詳細説明 | 例・注意点 |
情報の出典確認 | ・ChatGPTが提供する情報のソースを初めに確認する | ・公式資料、学術論文、公的機関の情報 ・個人のブログや未確認のウェブサイトからの情報は、さらなる調査と確認が必要 |
複数の情報源を確認 | ・一つの情報源だけでなく、複数の信頼性の高い情報源を調査する ・情報が一致するかどうかを確認する | ・同じ情報が複数の新聞、公的機関のウェブサイト、学術論文で報告されている場合、その情報は信頼性が高い ・一致する情報源が2~3つあれば、その情報は信頼できる |
最新の情報かどうかを確認 | ・情報が最新であるか確認する ・特に、急速に変化する分野で、その情報が現在も有効であるかを確認する | ・AIや法規制など、変化が速い分野では特に重要 ・公式のウェブサイトや公的機関の最新の発表をチェックする |
必要に応じて専門家に相談 | ・専門的な情報や複雑な問題については、その分野の専門家に意見や評価を求める | ・専門家に相談する場合、その人が持っている資格や経験が信頼性の高いものであることが望ましい ・専門家の意見は、最終的な情報評価に大いに役立つ |
このような方法からファクトチェックを行うことで、AIが回答した誤情報を見抜き、信頼できる内容を業務へと活用することができます。
質問文を工夫する(プロンプト・エンジニアリング)
プロンプト・エンジニアリングとは、AIからより正確な回答を引き出す手法です。
ChatGPT等の生成系AIは、質問や指示の仕方(=プロンプト)によって、得られる答えが大きく変わります。
効果的なプロンプトを作るためには、
・立場を指定する
・執筆の条件を指定する
・出力の形式を指定する
・対話を繰り返す
といった対策を行うことで、AIが期待通りの回答をしやすく、その回答を評価する作業も簡単になります。
こういったスキルを取り入れることで、生成系AIの回答精度を高め、信頼性を上げることが可能です。
AIを使用しない理由②「知識不足」
本アンケート調査の中で、AIを士業の仕事に使用しない理由として2番目に多かったのが「知識不足」でした。
具体的な回答としては、
・AIの活用方法が想像できない
・仕事で使えるかわからない
・どうやってパソコンにインストールしたら良いのかがわからない
・周りに一人も使用している同業者がいない
・AIを操作を覚えていくのが大変
・何の業務に使えるか検討中
といった声が寄せられました。
「知識不足」の原因は、AIの操作方法といった表面的な問題だけでなく、活用シーンやメリットが浮かばないから、学ぶ価値を見出せないためと考えられます。
また、「AIを使用している同業者が周りに1人もいない」との回答から、業界内でのAIの普及率が低い、またはその情報が共有されていない可能性も高いといえます。
これが結果として知識不足に繋がり、AI導入の意欲を阻害しているとも考えられます。
このような状況においては、士業の仕事に生成系AIを活用した先駆者が、具体的にどんなメリットを感じたかを知ることが大切です。
そこで、本アンケート結果(士業の生成系AIの用途・満足ポイント)を以下に示します。
用途 | 詳細 | 満足度 | 理由・特記事項 |
書類作成 | 事業計画書の執筆補助 | やや満足 | 執筆の助けになる |
同上 | ・報告書の作成 ・事業計画書の作成 | 満足 | 時間短縮になっている |
同上 | ・事業計画書の作成 ・文章作成の補助 | 満足 | 手軽にできる |
同上 | 会計書の作成 | 満足 | 作業が簡単になる |
過去事例の収集と整理 | ・訴訟の実例比較 ・クライアントへの提案 | 満足 | 事例収集のタイパとして使える |
マクロ作成 | ・マクロ作成 ・エクセルの補助 | やや満足 | 簡単なマクロが組める |
思索の補助 | テーマと自分の考え方が合っているかチェック | やや満足 | 想定していた回答が得られる |
このように、士業のさまざまな業務に、ChatGPT等の生成系AIが役立っていることが示されました。
生成系AIの具体的な業務シーンでの使用事例や、AIが士業の業務にもたらすメリットを知ることで、その活用意欲を高めることができるでしょう。
AIを使用しない理由③「AIに対するネガ」
本アンケート調査において3番目に多かった理由が、「AIに対するネガ」です。
具体的には、
・自分の考えが鈍ってしまう
・AIを使うことは倫理的に良く感じない
・現状の精度ではAIの回答をそのまま使用できない
・AIに頼りすぎると自分の考え方に影響を与えてしまう
・生成系AIの回答の真偽が分からない
・学習データや生成物に関する著作権などの権利の問題がある
・AIのような機械を頼りたくない
・利用すると、仕事に手抜きをしているような気持ちになる
という回答が見られました。
ChatGPTに代表されるAI技術の進化は目覚ましいものがありますが、それに対する抵抗感や疑念も確かに存在しています。
以下に、代表的な内容を示します。
自分で考えなくなるのではないか?
「自分の考えが鈍ってしまう」という声や「自分で考えることが大切だから」という意見は、生成系AIへの過度な依存が、人間の思考や判断能力を低下させるのではないかという懸念を示しています。
もちろん、AIに頼りすぎることで、自らの思考や分析能力が鈍る可能性は否定できません。しかし、AIはあくまで業務を効率化するツールであり、その結果、人間が行う本質的な業務に時間を使うことができます。
実際に本アンケート調査でも、「自身の作業効率の向上により、本質的なクライアントの課題に対応する時間がとれる」「クライアントとのコミュニケーション量を増やせる」と回答した士業が複数名おられました。
したがって、士業の仕事に対するAIの活用は、元々深い思考が必要のない単調な業務を効率化することに活用されており、思考力の低下を過度に心配する必要はないといえます。
手抜きになるのではないか?
「仕事に手抜きをしているような気持ちになる」という意見は、AI技術の利用が、自らの業務への取り組み姿勢や、プロフェッショナルとしての誇りを低下させるのではないかという懸念を示していると考えられます。
言い換えれば、「機械に任せているから、人間は楽をしている」と解釈できます。
しかし、AI技術の適切な活用は、あくまで業務の効率化に寄与するものです。
士業のAI活用で、本質的な業務にリソースを再配分することができ、仕事の質が向上します。
したがって、AIは、決して「手抜き」や「楽」に繋がるツールではないのです。
【AIを活用する?しない?】士業の生産性が2極化する可能性
本コラムでは、士業の方を対象に、生成系AIの認知度と使用度に大きなギャップがある理由・原因について、「信頼できない」「知識不足」「AIに対するネガ」という意見から伝えました。
確かに、AIから出力される情報には誤りがみられます。しかし、これは人間側で対応・改善が可能であり、実際にAIを使用した士業の方は、その高い価値を実感しています。
関連:【83%が価値を実感】士業の仕事に生成系AIを活用で、中長期的な生産性向上に大きな可能性(当事務所プレスリリース)
今後、士業がAI技術を仕事に取り入れなければ、生産能力で大幅に遅れをとります。
AIを活用しないこと自体がリスクです。
ぜひ、ChatGPT等の生成系AI活用をご検討ください。
執筆者:那須 太陽、監修者:Harmonic Society株式会社 代表取締役兼CEO 師田 賢人、中小企業診断士:居戸 和由貴
師田賢人
【Harmonic Society株式会社 CEO】
外資系コンサル、Webエンジニア、Webライター、フォトグラファーを経て、2023年にHarmonic Society株式会社を設立。
企業の経営の悩みを言葉で解決している。一橋大学商学部卒。
居戸 和由貴
【中小企業診断士】
生命保険会社、人材会社、戦略コンサルタント会社での経験を経て、2021年に中小企業診断士として独立。強みであるマーケティングとテクノロジーを軸に、中小企業の売上拡大を目的として活動