ChatGPTで有名なOpenAI創業者「サム・アルトマン」と日本の中小企業にあたえる影響

私たちの暮らしを根本から変えようとしている人工知能（AI）の領域で、「ChatGPT」が大きな注目を集めています。ChatGPTは中小企業でも活用が模索され、その技術を使って生活を豊かにすることは、多くの人が共感できる考え方ではないでしょうか。

この革命的な技術開発に携わっているのが、サム・アルトマンです。同氏は非営利団体OpenAIの創業者であり、現在は同社のCEOとして、ChatGPTを含むAIプロジェクトを牽引しています。サム・アルトマンのビジョンと哲学が、AIの進化とその未来を形作っていくことは間違いないでしょう。

今回は、サム・アルトマンの経歴に迫りながら、彼の深い思考や哲学、創造性がどのようにしてChatGPTのような画期的な技術に結びついたのか。それが私たちの生活や社会にどのような影響を及ぼすのかを探っていきます。

サム・アルトマンの経歴

サム・アルトマン（以下、アルトマン）は、1985年にアメリカのシカゴで生まれました。アルトマンはコンピューターサイエンスを学ぶためにスタンフォード大学に進学しましたが、スタートアップ企業「Loopt」を立ち上げるために大学を中退しました。

Looptのサービスは、当時としては画期的で、スマートフォン利用者が自分の位置情報をリアルタイムで共有し、周囲のレストランやショップの評価を確認できました。しかし、当時のスマートフォン普及率はそれほど高くなく、サービスは2012年に終了。結果として、Looptは4300万ドルでグリーンドット銀行に買収されました。

アルトマンはその後、新たな挑戦としてスタートアップ企業に投資を行い、支援することを目的としたYコンビネーター（YC）に加わりました。彼は2014年から2019年までYCのCEOを務め、その間に3500社以上に出資し、ドロップボックス（Dropbox）、エアビーアンドビー（Airbnb）、ストライプ（Stripe）などの巨大テック企業を支援しました。これらの企業における現在の合計市場価値は、数百億ドルにものぼっています。

現在、アルトマンはOpenAIのCEOとして、さらなるAI開発と、倫理的な活用の推進に取り組んでいます。アルトマンはAI倫理について、「AIは強大な力を持っており、間違った方向へと進まないようにすべきだ」と話しており、安全面のバランスにも配慮した開発が必要だとしています。

サム・アルトマンとOpenAIの動向

2015年12月、OpenAIはイーロン・マスク氏や、LinkedIn共同創業者のリード・ギャレット・ホフマン氏などから出資を受けて発足しました。同研究団体は初期段階の頃から、「OpenAIで利益を上げることは可能ですが、我々はそれを考えていません」と、サム・アルトマンCEOが非営利団体としての活動を強調しました。OpenAIの目標は、AI技術の進化に対する危険性を減らし、AI研究を促進することです。

なお、2018年の段階で共同創業者のイーロン・マスクは辞任しており、投資も打ち切ったとの報道がなされました。OpenAIは研究継続のため別の営利法人を設立し、資金を調達することが必要になりました。その半年後、Microsoftから巨額の投資をされたという経緯があります。

近年OpenAIは、AIのオープンソース化という傾向が薄れ始めている中で、非営利団体としての運営姿勢も揺らいでいると言わざるを得ない動きを進めています。2023年2月に「ChatGPT Plus」という有料のサービスをリリースし、2023年3月にはChatGPTを使用するAPIの有料提供を開始しました。「GPT-4」などの最新AIモデルを利用することができるAIプラットフォーム「Foundry」も月額350～2000万円で提供することを発表し、AIの商品化を推し進めています。

事実としてOpenAIは、2020年に有料APIを取り入れた際、「商業化によって研究費用や安全確保のコストを賄うことができる」と発言しており、Microsoftの投資も相まって、収益化に対する圧力を強めているとの見解もあります。

サム・アルトマンの思想、哲学

ここまで、アルトマンの輝かしい経歴と、彼が築き上げてきた成果をお伝えしました。彼のスタートアップ業界とAI分野での実績は、彼自身の深い思考や哲学、創造性と密接に関連しています。以下、これらを解説します。

睡眠の重要性

私たちが生活の中で健康的に働き、学び、創造するためには、適切な睡眠が欠かせません。睡眠不足は、集中力、記憶力、学習能力などの生産性に悪影響を及ぼします。アルトマンも睡眠の重要性を強く認識しており、あるインタビューで次のように語っています。

「私は常に8時間近く睡眠を取ることを心がけています。もし創造的なアイデアで勝つために何かを犠牲にしなければならないなら、それは睡眠ではない方がよいでしょう。私の経験から言えば、睡眠時間を削ることは、絶対に取りたくない選択肢です」

実はアルトマンには、休みなく働きすぎて壊血病になった過去があります。そのため、彼は睡眠の大切さを誰よりも心得ており、生産性と創造力の源になっていると推察できます。

 情報共有と対話の重要性

アルトマンは、自身の考え方や洞察を、ブログやTwitterなどを通じて公開することで、知識を共有し、新たな議論を生み出しています。彼のオープンな姿勢は、ときに議論を引き起こすこともあります。

例えば記事によると、アルトマンは2017年に、サンフランシスコの規制について「中国のようにオープンマインドになった方が良い」と発言し、一部のメディアから批判を受けました。それにも関わらず彼は自己表現を続け、自分と同じ考えの人たちと一緒に、スタートアップとイノベーションのための環境づくりを積極的に支援しています。

OpenAIのブログにおいても、アルトマンはAI技術の進歩について詳しく説明しています。人間と同等の能力を持つ可能性のある「汎用人工知能（AGI）」については、AIと社会がともに進化することを通じて、最適な利用方法を共有する理解を築くことが重要だと主張しています。

しかし一方で、彼はAGIに伴う潜在的なリスク、例えばその悪用、重大な事故、社会的混乱を引き起こす可能性についても認識しており、今後の開発には注意が必要だと述べています。このように彼の発言は、AIの専門家だけでなく一般の人々にも、AIの可能性とその影響を理解させる手助けになっています。

 サム・アルトマンが目指すものと日本に注目する理由

アルトマンは、2023年3月のテレビ番組内におけるインタビューで、「OpenAIは、人工知能技術の価格を抑え、全人類に利用可能なものにすることを目指しており、競合他社の参入を歓迎している」との見解を示しました。

さらに、同インタビューの中でアルトマンは、「ChatGPTはAIの序章に過ぎず、今後の更なる進化に期待を寄せている」とも語りました。そして彼は、日本人の”創造力”に感動し、日本国内のAI技術活用に期待を寄せていると発言しています。

2023年6月にアルトマンは来日し、慶応義塾大学で学生との意見交換会に参加しました。彼は、「AIに対する懐疑的な意見があることは理解しているが、パラダイムシフトは終わっていない」と強調し、「AIはより賢くなる」と述べました。

生成AIの登場に伴い、雇用が奪われるとの指摘に対しては、「現在の生成AIに関する予測は誤ったものである」との反論を示し、「将来は新しい仕事が生まれる。生産性が向上しても、製造すべきプロダクトがなくなることはないだろう」との認識を示しました。また最終目標として、OpenAIは汎用人工知能（AGI）の開発を目指しており、安心して利用できるAIを、世の中に浸透させることを望んでいるとしています。

このようにアルトマンは、AI技術が世界や日本にとって、確実に利益をもたらすものだと述べているのです。では、その恩恵は具体的にどのようなものがあるのでしょうか。次の章では、アルトマンのAI技術が、日本の中小企業にどのような影響を与えるのかお伝えします。

【事例有り】サム・アルトマンの登場が日本の中小企業に与える影響

アルトマンは、Looptの設立からYCでの活動、そしてOpenAIのCEOへの就任に至るまで、一貫して新たな技術とアイデアに注目し、リスクを恐れずイノベーションを起こしてきました。こういったアルトマンの姿勢は、新しい市場開拓の大切さを、日本の中小企業に対しても改めて示しているといえます。

その典型例ともいえるChatGPTは、プログラミングまでこなすことができる高度な生成AIです。現在、日本の中小企業は「製造業における自動化技術の導入」という課題に直面しています。しかし一方、その自動化を達成する専門的なプログラミング知識を持った人材が不足しています。この解決策のひとつが、ChatGPTです。

たとえばChatGPTは、プログラミングの専門知識がないユーザーでも、日本語での対話を通じて高度なロボットアーム操作のプログラムを生成することが可能です。Youtubeで公開された動画では、物体の掴み方や移動方法、そして物体の設置といった複雑な操作をChatGPTに指示し、段階的にプログラムを作成する様子が紹介されています。

このように、ChatGPTの機能を活用することで、製造業の現場における高度な自動化を手軽に実現することが可能となり、その結果として生産性の大幅な向上が期待できます。アルトマンの果敢な挑戦が生んだイノベーションが、日本の中小企業に新たな道を示し、次のステップを踏み出す力を与えることでしょう。

 まとめ

今回は、サム・アルトマンの人物像や経歴を通して、日本の中小企業との関わりをご紹介いたしました。

アルトマンは、スタンフォード大学を途中で退学し、新進気鋭の位置情報共有サービス「Loopt」を創設することで、その時代の常識を覆す挑戦を行ってきました。その後も、スタートアップ支援団体「Yコンビネーター」のCEOとして多くのテクノロジー企業を育成し、現在ではOpenAIのCEOとしてAIの開発とその倫理的な利用を推進しています。彼の活動は、日本の中小企業に対しても、AIと人間が共存する社会を目指すビジョンを示しているといえるでしょう。

同時にアルトマンは、睡眠の重要性を強調しています。彼の高い生産性とイノベーションへの推進力は、睡眠時間を十分に確保する生活習慣から生まれています。さらに彼は、自身の考えを恐れずに積極的に外部発信し、時には論争を巻き起こすこともありますが、それによってスタートアップやイノベーション推進のためのオープンな環境を育成しています。

OpenAIが開発したAI「ChatGPT」は、AIの活用を検討している中小企業に対して新たな可能性を示しています。例えば、プログラミングの専門知識がないという課題を抱える中小企業でも、このChatGPTを活用することで、高度な自動化を達成し、生産性を向上させる可能性があります。これはまさに、アルトマンが追求してきたイノベーションの一環であり、彼のビジョンが現実になりつつあるといえるでしょう。

現在、ChatGPTの競合に近いオープンソースソフトウエア(OSS)が次々に登場し、その開発競争は激化の様相を呈しています。こういった動向にも注目しつつ、アルトマンを中心としたAI技術の進歩は高まっていくでしょう。

執筆者：那須 太陽、監修者：師田 賢人、中小企業診断士：居戸 和由貴