中小企業においては、老朽化した設備への維持・更新投資(消極的投資)が増加傾向にある一方、新規・増産投資や省力化投資などの積極的投資は力強さを欠いています。その主な原因は中長期的な成長の見通しが立たないことにあるようです。しかし成長の見通しが立たないからこそ、中小企業は設備に積極的投資をすべきです。なぜなら、積極的な設備投資の実施は生産性を向上させて、キャッシュフロー(資金繰り)を改善し企業の競争力を高め、成長につながるからです。本記事では、中小企業の設備投資と生産性向上について論点をまとめます。
中小企業で進む設備の老朽化
1990年度における中小企業および大企業の設備年齢指数を「100」としたときに、2017年度における大企業の設備年齢指数が「148.6」に対して、中小企業の設備年齢指数は「194.1」であり大きな開きがあります(下図)。これは、中小企業では設備の老朽化が大企業と比べて進んでいるということです。
さらに、設備年齢指数が高いということは、中小企業による設備投資が積極的に実施されていないということも意味しています。積極的投資の不足の原因としては、次の3つの理由が考えられます。
- 期待成長率が低い
- 後継者不足
- 経営者の高齢化
1つ目の期待成長率とは、業界の将来性に対する期待感を表したもの(マクロな視点)です。期待成長率は、設備投資営業キャッシュフロー(投資への積極性を示す)の動きと連動しています。その背後にあるのは、設備投資による生産性向上によりキャッシュフローが改善、企業の成長につながるというロジック(ミクロな視点)です。足元では、期待成長率が横ばいで低迷しているため、積極的な設備投資が実施されにくい状況です。
2つ目の後継者不足は、中小企業にとって深刻な問題です。設備投資による労働生産性の向上 によると、後継者の有無は中小企業による積極的な設備投資に一定の影響を与えることが示されています。つまり、後継者がいる場合と比べて、後継者がいない場合は設備投資に消極的であるということです。
3つ目の経営者の高齢化も、設備投資の意思決定に影響を与えるようです。経営者の年齢が若いほど設備投資に積極的であり、経営者の年齢が高いほど設備投資に消極的になるという調査があります。要するに、将来性に対してポジティブな見通しが多くあるほど、中小企業は設備投資に積極的になるといえるでしょう。
中小企業による積極的な設備投資の実施
ここでは、設備投資が中小企業の労働生産性にどれほど影響するか具体的な事例を交えて解説します。
設備投資の積極的実施は労働生産性を向上する
前章では、中小企業が設備投資に積極的ではないと述べました。しかし、これはもったいないことです。なぜなら、設備投資を実施した中小企業は未実施の企業と比べて、労働生産性の向上を如実に実感しているからです(下図)。
- 更新投資(維持・補修等)
- 新規・増産投資
- 省力化投資
上記のいずれの場合でも、設備投資を実施した中小企業の約50〜60%が直近3年間で労働生産性の向上を感じています。特に、省力化投資においてはその傾向が強いようです。未実施の中小企業と比べて約20~30%高い数値です。ここから、より具体的なイメージを持てるように事例を紹介します。
事例:精密機械加工部品メーカーA社の生産性向上
A社は、大手建築・農業機械メーカー向けの部品を30年以上、製造しています。主要取引先の海外事業好調につき生産量20%増加の要望を受けましたが、すでに生産設備はフル稼働であり、これ以上の生産量増加には対応が難しい状況でした。また、主要取引先への依存度が高く取引先ポートフォリオを分散させたい狙いがある一方、潜在顧客からの多品種小生産のニーズに応えることができずにいました。
これらの課題に対してA社は、最新型のマシニングセンタを導入しました。これによって、生産・加工時間の短縮、作業の自動化・省人化、出戻り・廃棄の減少を実現。結果として、同社の資産である専門性の高い技術者を営業・提案活動に有効活用し、新規顧客の開拓につなげることができ、生産量は増加しました。積極的な設備投資の実施が、労働生産性の向上に寄与した好例です。
まとめ:補助金・助成金の活用も検討
中小企業が持つ設備の老朽化が進む中、積極的な設備投資を実施すれば生産性向上につながり、企業の競争力を高めることがわかりました。ただ、設備投資をしたくても資金力に乏しく頭を悩ます経営者の方も多いはずです。それに対する解決策としては、ものづくり・商業・サービス高度連携促進補助金 をはじめとする補助金・助成金の活用が考えられます。設備投資により新しい収益のエンジンを作ることも可能ですので、ぜひとも前向きに設備投資を検討してみてはいかがでしょうか。
執筆:師田賢人