働き方改革の推進や少子高齢化による人手不足を補うために、生産性向上や業務効率化が求められています。本記事ではシステム導入や外注など、大がかりなものばかりでなく、業務のやり方の見直しや自社内の仕組みで効率化を図る方法など、ちょっとした工夫でできる効率化についても紹介します。
1.業務効率化とは
「業務効率化」とは、「ムリ・ムダ・ムラ」をなくし、効率的に業務を遂行できるようにするための取り組みで、企業規模に関わらず経営課題の一つとして位置づけられています。時間的・経済的なコストを削減することで、生産性向上、さらには企業全体の業績を向上させることができます。また、業務効率化で時間を有効に使えるようになれば、「従業員の満足度」も向上します。従業員は、自社の売上や利益に貢献できる仕事(コア業務)に集中できるようになり、モチベーションの向上にもつながります。さらに、ワークライフバランスを実現しやすくなり、結果的に優秀な人材を確保しやすくなります。
・効率化の課題
それでは中小企業では、どの程度効率化が進んでいるのでしょうか。
ITに限定されますが、上記は中小企業庁が中小企業・小規模事業者を対象にデジタル化に関する調査を行った結果です。経営課題を解決する方法として、IT化を選択しない企業が半数を超えています。理由として、IT化が経営課題解決と紐付いていなかったり、実際にどうすれば良いかがわからないようです。
2.効率化の前にやること
業務効率化を実施する手順について説明します。
・ムリ・ムダ・ムラの洗い出し
上記はディップ株式会社が自社サイトの登録ユーザーに向けて行ったアンケートです。実務担当者がどういう業務に対してムダを感じているかがよくわかります。「申請書類を電子データではなく、紙で印刷させ、回覧・押印させる」「定例会議が毎回同じ内容だったり、本筋からそれて進まない」「情報共有ができておらず、何度も同じことを聞かれたり、同じ作業を複数人でやっていたりする」といった意見が上がっています。
業務効率化を進めるにあたって重要なのは、「現状把握」と「業務の見える化」です。具体的には以下のような項目で整理してみましょう。
・担当者の数・部署
・作業工程や使用しているツール、必要なスキル
・作業時間や発生頻度など
・効率化する業務を選択
現状把握ができたら、次はその中でどの業務を実際に効率化するか検討します。考え方としては
・定型化が図りやすい業務
・発生頻度が多い業務
・単純な業務(作業)
を優先すると、効率化しやすく、また効果も大きくなります。上記の視点でピックアップできたら、その業務が「社内で行うもの」か「外注すべきもの」かも併せて検討しておくと、次の工程がスムーズになります。
3.業務効率化の方法
効率化する業務が決まったら、次は方法の選択です。一般的には以下のような方法があります。
・システム導入
定型化が図りやすい業務は、標準化(マニュアル化)し、誰でも実施できるようにします。日々発生する勤怠管理や販売管理、営業管理などの業務はシステム化することで、効率化が図れます。例えば勤怠管理は、システム化することでタイムカード等紙での管理をなくすことができるだけでなく、直行直帰の多い営業担当の勤怠や超過勤務・休日勤務の把握がスムーズに行えるようになります。給与システムと連携させれば、簡単な確認だけで給与明細を電子データで発行することができるようになります。また営業管理はMA(マーケティングオートメーション)ツールを導入することで、案件管理や営業の日報管理だけでなく、見込み顧客の確度を把握し、的確なアプローチを実施したり、キャンペーンや資料をタイムリーに案内するなど、効率良く営業活動が行えるようになります。
さらに、紙の書類を電子化するシステムとしてAI-OCR、複数のシステムをまたいだ作業を自動化することができるRPAなど、定型業務の効率化に役立つシステムが多く提供されています。
・外注(アウトソーシング)の利用
定型業務や単純作業は、外注するという方法もあります。外注というとコストがかかるイメージですが、委託会社も様々で、よくある定型業務や単純作業をパッケージ化して、格安で提供している会社もありますし、逆に業務の見える化からサポート(コンサルティング)し、第三者の目で自社の業務を標準化させ、ムダのない業務設計・改善およびマニュアルの作成、アウトソーシングまでトータルでサービス提供している会社もあります。このような会社は経営管理にも精通しており、システム導入やその他経営課題についても的確なアドバイスがもらえるので、継続利用する企業も少なくないようです。いずれにしても従業員の貴重な時間を割いてまでやる必要のない作業レベルのものは外注してしまい、その分の空いた時間をコア業務に充てることができれば、より営業利益に直結するようなパフォーマンスを生み出すことができ、従業員のモチベーションも上がります。
・内製で見直し
システム導入や外注はどうしてもコストがかかってしまいます。目を見張るような効果はないかもしれませんが、各部門が努力することで全社的な効率化が進みます。
例えば「中身のない会議が多い」のであれば、会議の前にアジェンダを作成し、議題に関する資料をあらかじめ参加者に共有しておけば、要点を押さえた的確な会議を実施できますし、web会議であれば、時間が来たらホストが強制終了させることで、時間を有効に活用したムダのない会議を実施することができるようになります。
また集計など繰り返しの多い単純作業はエクセルのマクロなどを利用し、自動化してしまえば、マクロが動いている間他の作業をすることができます。
さらにToDoリストを作成して業務を可視化し、漏れや重複作業を防いだり、よく使うPC作業はショートカットキーを利用するなど、小さな工夫でも一定の効果を得られます。
以上のような方法のうち、何が自社に合っているかは、導入前によく検討しましょう。特にシステム導入などは、入れ替えが手間な上にさらにコストがかかってしまいます。実施する前に一定の効果を想定して、計画を立てましょう。
4.業務効率化の効果検証と注意点
・効果検証
業務効率化を一定期間実施したら、効果検証を行います。例えば以下のような視点で検証してみましょう。
項目 | 内容 |
---|---|
削減時間 | 各工程の作業時間や残業時間など |
削減コスト | 人件費や設備費の増減など |
品質 | ミス・手戻りの発生数など |
付加価値 | クレーム・事故(納期遅延)件数など |
このような視点で整理すると、どの業務により力を入れれば良いかなど、優先順位がわかってきます。検証の結果、あまり効果が出ていないものは、自社に合っている方法なのかを含め、再検討します。また効果が出ているものは従業員に共有すれば、従業員に達成感を与え、モチベーションアップにつながります。大きく効果を上げた従業員を表彰するといった制度も検討してみましょう。
・注意点
先ほど説明した内容と重複しますが、システム導入は慎重に行いましょう。自社に合わず、逆に手間やコストが増えてしまうようでは意味がありません。トライアルがあればまずはそれで検証を行い、他社の事例なども参考にしてみましょう。
また効率化を推し進めるあまり、スピードを重視して品質を落とすようなことがないようにしましょう。効果検証でミスの数が増えた業務は、再発しないようフィードバックを行うなど、小さなことでもフォローする体制を整えておきましょう。
さらにこれが一番重要ですが、部門単位で情報共有できる体制づくりを行いましょう。実際に業務を実施する従業員が不満をこぼしたり提案ができない状況では、業務の「ムリ・ムダ・ムラ」を洗い出すことはできません。「この仕事は必要ないのではないか」「これはお金をかけてシステム化するか、やり方を変えよう」など各自の業務内容を共有・見直しすることで、必要な業務とムダな業務を分別することができます。意識してコミュニケーションの時間を取ることで、従業員の積極的な協力を得られるようになります。
5.まとめ
業務効率化は組織的に行うことで効果が大きく現れます。組織として「何を大切にするのか」、「どこを目指すのか」というビジョンや方針を定め、全従業員に共有しましょう。ビジョンや方針がないと、捨てるべきもの、優先すべきものの線引きができず、社内が混乱し有効な業務効率化が図れません。組織全体で業務効率化に取り組める体制を整えることが、成功への第一歩となります。
執筆:小高 優